4月19日、甲府市の中心街に江戸情緒あふれるまちなみを作るプロジェクトとして、甲府城の南側エリアに歴史文化交流施設「こうふ亀屋座」と交流広場、その周辺に江戸の町並みをイメージした飲食物販等施設「小江戸甲府花小路」という小路がオープンした。「こうふ亀屋座」には120人収容の演芸場と五つの多目的室が設けられている。記念イベントとして、落語会、能楽会、「宮沢和史TALK&LIVE」という音楽会が演芸場で開かれた。文字通り演芸の場である。
「こうふ亀屋座」は、江戸時代の芝居小屋「亀屋座」をイメージして建設された。 木村涼氏の論文「八代目市川團十郎と甲州亀屋座興行」(早稲田大学リポジトリ)によると、亀屋座は明和二年(一七六五)創設の芝居小屋であり、時代を代表する名優、七代目と八代目市川團十郎、五代目松本幸四郎、三代目坂東三津五郎、五代目岩井半四郎などが一座を率いて芝居を上演している、とある。江戸時代、甲府で流行った芝居は江戸でも流行ると言わていた。芝居を見る目が優れた人が甲府には多いという定評があったようだ。
先週は「シアターセントラルBe館」に出かけた。これで三週間連続となる。
今回は、「35年目のラブレター」。監督・脚本、塚本連平。役者は主演西畑保:笑福亭鶴瓶、西畑皎子:原田知世、保(青年時代):重岡大毅、皎子(青年時代):上白石萌音。
文字の読み書きができなかった保が夜間中学で字を覚えて、妻の皎子にラブレターを書くという実話を基にした映画である。こういうストーリーであると、いわゆる「感動もの」的な作品に思われるかもしれないが、この映画は適任の役者や抑制された演出によって優れた作品になっていた。
重岡大毅は、2022年7月から9月まで放送されたテレビ東京のドラマ「雪女と蟹を食う」で好演していた。このドラマの挿入曲に、志村正彦・フジファブリックの「サボテンレコード」と「黒服の人」が使われた。上白石萌音は、2022年5月7日のNHK総合の番組「こえうた」で志村正彦・フジファブリックの「若者のすべて」を歌った。そんなこともあり、この二人には親しみを抱いていた。保と皎子の出会いから結婚へと至る展開には心が温まった。懐かしくて尊いものがあった。
映画の中で時が進んでいくが、どうにもならない悲しい出来事が起きる。しかし、青年時代や新婚時代の二人の回想が挟まれ、現代と過去の間に「スリップ」が起きる。その「スリップ」が生きていく力を与える。未来への時間を開いていく。「侍タイムスリッパー』や『知らないカノジョ』と同様に、「スリップ」が演出上の素晴らしい効果をあげている。
ラストシーンで、笑福亭鶴瓶と原田知世、重岡大毅と上白石萌音の二つのカップルが、公園の二つのベンチに隣り合わせで座っている。一つの空間にスリップしている。その幻の場面が秀逸だった。とりわけ美しかった。