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2022年10月30日日曜日

小さな旅-2022ハタフェス[志村正彦LN319]

 10月22日、昨年に引き続き、大学の「山梨学Ⅱ」という授業で、学生19名とバスに乗って、富士吉田の「2022ハタオリマチフェスティバル」に行ってきた。地域活性化の先進的な試みを実際に見て学ぶための現地見学である。コロナ禍での小さな旅といってもよい。ハタフェスは、山梨県富士吉田市の街の中で開催する秋祭り。二日間、小室浅間神社と本町通り沿いの各会場で、山梨のハタオリの生地や製品を販売したり関連のイベントをしたりする街フェスだ。

 富士吉田市役所の駐車場にバスを止めて、全員で歩いて、メイン会場の小室浅間神社に到着。皆で記念写真を撮った後、三つのグループ別の見学、その後、各自の自由見学という流れだ。

 この自由見学の時間に志村正彦の生家近くの公園へと向かった。この日は晴天で富士山がよく見えた。雪がまだなく、赤茶けた山の地肌が露わになった夏の富士だった。その姿を見ながら、前日アップしたばかりの偶景webの記事をスマホで探して、インディーズ版『茜色の夕日』MVを再生した。志村の歌声が静かに流れる。いくぶんか感傷的な気分に浸った。



 それから、「FUJIHIMURO」で開催中の「旅するテキスタイル」展を見に行った。フィンランドで最も歴史のあるテキスタイルブランド「フィンレイソン」のテキスタイルプリントを行ってきた街フォルッサの工場跡地をリニューアルした博物館の出張展だ。実物の展示と解説のグラフィックパネルが充実していた。富士北麓にはどことなく北欧の香りがあるので、マッチングがよい。


 昼食時間となるが、店は混んでいる。しばらく歩くと、洋菓子店のTORAYAがあった。大粒のイチゴを使ったロイヤルショートが評判の店だ。店内を見るとイートインコーナーがあるではないか!僕のようなおじさんが一人でケーキを食べるのはかなり気が引けたのだが、覚悟を決めた。イチゴが新鮮でクリームの甘みも抑えられていて、とても美味しい。ヴォリュームがあるので、満腹感がある。これで昼食は無事完了。



 本町通を上っていく。黒板当番さんの『みんなの黒板きょうしつ』のブースがあった。インクジェットプリンターで印刷した60枚のミニ黒板の中には志村正彦をテーマとする十数枚の絵があった。この日は「おとなも子どももチョークで絵を描いてみよう!」というワークショップがあった。ちょうど子供が恐竜の絵を描いていた。夕方までにボードは絵でいっぱいになったことだろう。


 フジファブリック・ファンゆかりの場所、喫茶店M-2の前を通り過ぎようとした時に、壁に小さなポスター二点が貼られていることに気づいた。



 事前に案内されていたイラストレーターmameさんによる「私のハタオリマチ日記」だった。よく見ると右側の絵はまさしくこのM-2を背景にしていた。M-2の壁にもうひとつのM-2がある、という不思議な光景。特設サイトによると、この絵は三種類あり、それぞれに三つの物語がある。その一つは志村正彦・フジファブリックに関わるもののようだ。

 途中で学生たちと何度か出会ったが、店の人たちにインタビューして取材をしていた。授業では学生のスライド発表会が予定されている。最終的な課題では、自分の街のフェスティバルを企画して提案する。ハタフェスを先進的な事例として調査した上で、自分自身が主体的に考えることを求めている。

 今年は各エリアのブースが整理されていて、統一感があった。昨年に比べて、コロナ禍による制限も緩和されて、のびのびとした雰囲気もあった。天候に恵まれて、そしてなによりも富士山にも愛でられて、素晴らしいハタフェスになった。


2022年10月21日金曜日

インディーズデビュー20周年とインディーズ版MV-『茜色の夕日』5 [志村正彦LN318]

 二十年前の2002年10月21日、インディーズのSong-Cruxから1stアルバム、フジファブリック『アラカルト』が発売された。

 今日はインディーズデビュー20周年の日。そして、『茜色の夕日』がCD音源としてリリースされた記念の日でもある。

 この歌は18歳の頃作られたと言われている。2001年夏、『茜色の夕日・線香花火』のカセットテープが自主制作されている(参照:『茜色の夕日・線香花火』カセットテープ [志村正彦LN173])が、CDのミニアルバム『アラカルト』の収録曲『茜色の夕日』がロック音楽のファンに聴かれるようになった作品であると考えてよいだろう。当時、この曲のミュージックビデオも制作された。

 22歳の志村正彦は、表情も、声も、実に若々しい。この映像では、十代の面影を宿しているようでもある。ドラムの渡辺隆之、キーボードの田所幸子がわずかだが映っている。この時は脱退していた萩原彰人のギター、加藤雄一のベース音も入っている。

 ネットにあるインディーズ版『茜色の夕日』MVを紹介したい。

    


 この映像が伝えようとしているものをシーンごとに追っていきたい。


・ファーストシーン。スタジオ照明による〈茜色の夕日〉
・演奏シーン(正面にギターを抱えた志村、その画面右側にキーボードの田所幸子、オルガン音のイントロ。
 画面が左側に移動して、ドラムの渡辺隆之。中央に移動しながら志村の声が聞こえてくる。歌が始まる)
・東京と思われる住宅街の路を歩く目線からの移動撮影の映像が挿入される。緑の多い街。庭木や生け垣。
・葉書のようなものを手にして物思いにふけるような志村。演奏シーン。
・誰かが横切って絵葉書かカードのようなものを置く。絵葉書のクローズアップ。女性(と思われる人)が丘のような所から東京と思われる街並を見下ろす。部屋の中のシーン。演奏シーン。
・再び、住宅街の路を歩く目線からの移動撮影。女性とその下に石畳。演奏シーン。空と雲。演奏シーン。
・サンダルを履いた女性が座り、何か白いものが散っている。演奏シーン
・煙草を吸いながら外を眺める志村。演奏シーン。
・丘の公園のような所からその向こう側に街並が広がる。白いノースリーブのワンピースを着てベンチに腰かけた女性の背中が映る。演奏シーン。
・部屋の中のシーン。真ん中に低いテーブル。その上には絵葉書のようなもの、グラス、灰皿。カーテンが閉められている。演奏シーン。
・空と雲のシーン。
・三度、街中を歩く目線からの移動撮影。
・ラストシーン。実景による〈茜色の夕日〉。茜色に染まる東京の街並とその向こう側の山並、山々の稜線。


 このミュージックビデオで描かれる物語は、おそらく、志村正彦が構想したものだろう。東京と思われる住宅街の路を歩くことが語りの枠組となっている。志村正彦が演じるTシャツ姿の男性と白いノースリーブのワンピースを着た女性。男女の恋愛が背景にあるのだろうが、この二人は別々に登場し、一人ひとりである。絵葉書のようなものには〈手紙〉による言葉の伝達のモチーフがあるのだろう。

 丘の公園のような所からその向こう側に街並が広がる。最後は茜色に染まる東京の街並とその向こう側には山並とその稜線が見える。〈茜色の夕日〉の時間だから東京の西側にある山梨方面の山々のように思われる。つまり、東京の街並の光景とその向こう側にある故郷の風景を思い浮かべているのではないだろうか。

 このインディーズ版『茜色の夕日』MVは日中の撮影のためか、東京の〈星〉はないが、東京の〈空と雲〉は出てくる。志村が構想したと思われるこの映像は、第1ブロックのabと第4ブロックのcdにはつながりがあるのでユニットⅠとしてまとめることができるという仮説をある程度裏付けるものでもある。  

      

1a  茜色の夕日眺めてたら 少し思い出すものがありました
1b  晴れた心の日曜日の朝 誰もいない道 歩いたこと
4c  東京の空の星は見えないと聞かされていたけど
4d  見えないこともないんだな そんなことを思っていたんだ


 歌の主体は〈日曜日の朝〉に〈誰もいない道〉を歩いている。『茜色の夕日』全体を通じて、〈歩行〉が続いているようなリズムがある。逆に、立ち止まる、佇立する、休止のポイントもある。歩いて立ち止まる。立ち止まって歩き出す。そして、茜色の夕日となり、夕暮れから夜の闇へと至り、〈東京の空の星〉は〈見えないこともないんだな〉ということに気づく。〈晴れた〉〈日曜日の朝〉と〈見えないこともない〉〈東京の空の星〉という対比的なモチーフが現れる。

 さらに、インディーズ版ミュージックビデオのラストシーンに、志村の故郷である山梨方面の山並が出現することは、〈茜色の夕日眺めてたら 少し思い出すものがありました〉とされるものは、故郷での出来事であることをそれとなく示しているのかもしれない。 


 『茜色の夕日』が『アラカルト』収録曲としてリリースされてから二十年。インディーズ版MVの志村正彦は、いつまでも若く、在りつづけている。


2022年10月17日月曜日

ヴァンフォーレ甲府 天皇杯優勝

 優勝が決まった瞬間の想いは、夢でないのか。でも、夢ではなかった。それでも、夢のなかにいるような心持ちがした。一日経った今でもそれが続いている。

 2022年10月16日。日産スタジアムには2万人ほどの甲府サポーターが駆けつけていた。入場時のコレオが素晴らしかった。青と赤の色彩が強烈でしかも美しく、夢のなかの光景のようだった。



 試合開始から、ゴール裏からは凄い音圧の声が出ていた。僕と妻はバックスタンドの1階にいた。声出しは出来ないエリアだったので、コールや歌のリズムに拍手を合わせていた。拍手の音が重々しく響いた。巨大な日産スタジアムはラウンド型の形状なので音が反響する。轟音・爆音のロックを身体で受けとめながら応援するのは、独特の高揚感があった。3時間に及ぶ試合だったが、夢の祝祭の空間にいるようだった。


 想いが駆け巡った。過去から現在に至る出来事。

 J2参入以来、24年ほどサポーターを続けてきた。2000年の19連敗。あの時は苦しかった。そして経営危機を迎えて、甲府存続のための活動を行った。仲間が主宰していたブログに毎日のように書き込みをしていた。とにかく何かを書くことが、甲府のために少しでも役立つかもしれないと考えた。しかし、3年連続最下位とチームは低迷した。

 2002年の大木武(現、熊本監督)就任後、チームは変わった。そして2005年12月10日のJ1昇格。柏サッカー場のゴール裏で応援していた。柏レイソルを6対2で破った。現在まで降格と昇格が合わせて3回。今年はリーグ戦で勝てないことが続き、18位。そのような成績にもかかわらず、天皇杯で勝利したのは、甲府らしいといえば甲府らしい。

 一晩明けて先程、録画をすべて見終わった。スタジアムの追体験というよりも、もう一つの経験をした気分だった。ネットの記事で報道されているように、劇的なあまりに劇的な展開。延長戦後半、山本英臣がPKを与えてしまう。河田晃兵がそのPKを止める。PK戦でも河田がPKをセーブして、最後に山本が決めて勝利。夢の経験が現実の映像によって記憶に変わっていくのだが、やはり、夢のような映像、映画のような決勝戦だ。


 来年はACL(アジア・チャンピオンズリーグ)に出場する。

 ヴァンフォーレ甲府はありえないような物語、夢の物語を創り出す。


2022年10月6日木曜日

10月16日サッカー天皇杯決勝 ヴァンフォーレ甲府VSサンフレッチェ広島

 ヴァンフォーレ甲府のことをこのblogでは久しく書いていない。調べたら2018年8月が最後だった。もう4年前になる。この間の成績は、2018年J2・9位、2019年J2・5位、2020年J2・4位、2021年J2・3位。ここ3年で順位をを上げてきたのだが、今年は現在18位とかなり低迷している。攻撃では圧倒し、枠内シュートも多いがなかなか得点できないうちに、相手のワンチャンスで失点というパターンが続いている。ところが、昨日、鹿島スタジアムで開催された天皇杯準決勝で鹿島に1―0で勝利して、10月16日の決勝に進出することになった。甲府のサポーターを24年間続けてきた僕としては、2005年のJ1初昇格に次ぐ喜びだった。

 昨日は仕事があったのでテレビでの応援。予想通り、鹿島にボールを支配されるが、ときどきカウンター攻撃が機能し、ほぼ互角の戦い。後半37分、ニキ(浦上仁騎)がDFの背後にキック、ジュンマ(宮崎純真)が走り、絶妙なトラップからGKをかわして落ち着いてシュート。ゴール! この先制点を奪い、守り切った。全体を振り返れば、攻守の切り替えが早く、小さいエリアでのパス交換を通じて、効果的な攻撃を繰りだしていた。ニュースでは「ジャイキリ」「下克上」、鹿島の監督からは「大失態」とか言われているが、そうではない。もちろん、鹿島は強豪であり、チームの総合力で甲府を上回っているのは確かだが、それで勝負が決まらないのがサッカーの面白さ、醍醐味。甲府の守備が持ちこたえれば勝つ可能性はあると僕は思っていた。札幌、鳥栖、福岡のJ1勢を複数得点で破ってきた攻撃力には優れたものがあるからだ。

ヴァンフォーレ甲府@vfk_official には、

 ⭐️クラブ初の天皇杯決勝進出⭐️
 地方クラブの挑戦は続きます。
 喜びを噛み締め、次に向かいましょう💙❤️
 現地や山梨、それぞれの場所から応援ありがとうございました。

とある。平日夕方にもかかわらず、2000人の甲府サポーターが鹿島に駆けつけたそうだ。

Yahooには、〈「興奮したよ!!」J2甲府の「男泣きの決勝進出動画」に感動の声続々! 対戦相手や他クラブのサポも巻き込み14万回再生!〉という記事(サッカー批評編集部)もあり、勝利の瞬間の映像が話題になっている。


 天皇杯決勝の相手はサンフレッチェ広島。会場は横浜スタジアム。本来なら元旦の恒例行事だが、今年はワールドカップがあるためにこの日程となった。会場も新国立競技場でないことが残念だが、これは仕方がない。

 何度か引用したが、志村正彦は2009年12月5日付の日記で、VF甲府のJ1初昇格についてこう書いている。

  京都前のり。民生さんと合流し、飲みに行く。
  民生さんサッカーの話、超詳しい。俺、全然分からん。
  今、甲府はどうなってるんだ?
  甲府がJ1に上がった日は嬉しくて乾杯したな、そういやあ。

 京都でのライブの前夜、奥田民生と合流し、サッカーの話題となったようだ。〈甲府がJ1に上がった日は嬉しくて乾杯した〉というのは山梨愛が深かった彼らしい言葉だ。


  サンフレッチェ広島には、昨年甲府に期限付きで在籍して大活躍した野津田岳人、甲府でプロキャリアをスタートさせた柏好文(山梨県出身)、佐々木翔(日本代表)、今津佑太(山梨県出身)がいる。甲府の監督を三年間務めた城福浩は昨年まで広島の監督だった。そういうわけで、J1の中では最も親しみを感じているチームだ。その広島と対戦するのも、なんというのか、少し複雑でもあるが、とても楽しみでもある。

 さらに言うと、広島で思い浮かぶのは奥田民生のこと、甲府・山梨ではもちろん志村正彦である。つまり、ヴァンフォーレ甲府VSサンフレッチェ広島は、志村正彦VS奥田民生でもある、と勝手に考えている。

 今日、チケットを購入した。10月16日午後2時キックオフ。横浜スタジアムに行って、天皇杯決勝を楽しみたい。