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2024年1月28日日曜日

ケモ/ノノ/オレ/トド/ロケ/モウ/モノ/ノケ/ノケ/ノケ[志村正彦LN342]

 フジファブリック「モノノケハカランダ」は、2005年11月9日、メジャー2ndアルバム 『FAB FOX』の冒頭曲としてリリースされた。作詞・作曲は志村正彦である。

  掛川康典監督による素晴らしいミュージックビデオがある。まずこの映像を見て、聞いて、言葉と戯れてほしい。

  フジファブリック (Fujifabric) - モノノケハカランダ(Mononoke Jacaranda)



 収録時のメンバーは、Gt. / Vo.志村正彦、Key.金澤ダイスケ、Ba.加藤慎一、Dr.足立房文、Gt. 山内総一郎。日本語ロックのなかでは最高水準の演奏力だ。歌詞にはギター演奏によるデッドヒートを思わせるフレーズがあるが、志村と山内によるギターのバトルもある。

 歌詞をすべて引用する。


  遠くなってくサイレンと見えなくなった赤色灯
  カーブになってるアスファルトが夜になって待ってる

  横並んで始まった ダンスにだって見えた
  思いのほかデッドヒート 止まるなって言ってる

  獣の俺 轟け! もうモノノケ ノケノケ!

  コードEのマイナー調で陽気になってマイナーチェンジ
  リズムの束 デッドヒート 止まれなくなってる

  獣の俺 轟け! もうモノノケ ノケノケ!

  焦げてしまったハカランダのギターが唸っている
  思いのほかデッドヒート 止まれなくなってる

  獣の俺 轟け! もうモノノケ ノケノケ!


 歌の主体〈俺〉は、車によるデッドヒート、ギターによるデッドヒートを止めることができない。〈俺〉は〈獣〉になって疾走し、車の轟音もギターの爆音も世界に轟けと叫ぶ。

 三度繰り返される〈獣の俺 轟け! もうモノノケ ノケノケ!〉は、2音による音節に分けると、〈ケ/ノ/オ/ト/ロ/モ/モ/ノ/ノ/ノ〉となり、2音のうちの後ろの音が跳ね上がるように轟く。歌う者、演奏する者、そして聴く者を急き立てていく。言葉が意味になるものと意味にならないものとに二重化されていく。


 この独創的な作品はどのようにして作られたのだろうか。志村は「フジファブリック 『FAB FOX』インタビュー」でこう語っている。

この曲は一番初めにメロディが出来た曲なんですけど、ドカーン!とか、ドバー!とか、ウリャー!とか(笑)、そういうような気持ちを曲にしたかったというか。Aメロとかもあんまり意味ないんですよ。ただ勢いのある言葉を並べてドリャー!っていうのが伝わったらいいなって。ハカランダーで作ったギターがケモノなのかモノノケなのか、それに化けてロックンロールを鳴らしているイメージ。このアルバムを象徴する曲としてPVも熱い物を撮りたいなと思いますね。

 歌詞については、ギターの木材である〈ハカランダー〉から〈ケモノ〉〈モノノケ〉という言葉を連想して作ったようだ。自由な連想と言葉の音による遊びを駆使している。〈モノノケハカランダ〉はMVの題名の表には〈Mononoke Jacaranda〉とあり、〈モノノケ〉〈ハカランダ〉を複合した言葉である。

 〈モノノケ〉は〈物の怪〉〈物の気〉であろう。試みとして、この言葉の分節の仕方を変えてみよう。〈モノ〉を〈ノケ(ル)〉に分ければ、〈物退け(除け)〉と記すことができ、物を離れさせる・物との間を隔てるという意味を作り出せる。また、〈モノノケ〉をアナグラム的に綴り直すと、〈ケモノノ〉という音が作られ、〈獣の〉という意味が取り出せる。

 〈ハカランダ〉は(Jacaranda〉、ギターの木材の名。正式にはブラジリアンローズウッドというそうだ。立ち上がりが早くて抜けの良い音とうねって絡みあうような木目が特徴だが、現在では希少な材料となり、輸出入が禁止されているそうだ。この歌詞では楽器や楽曲の象徴として位置づけられるだろう。

 音の遊びのようなものだが、〈モノノケハカランダ〉というフレーズの分節の仕方をあれこれと変えて、言葉を思い浮かべてみた。〈/〉スラッシュが区切りを示す。

  • モノノケ/ハカランダ → 物の怪ハカランダ
  • モノノケ/ハ/カランダ → 物の怪は絡んだ
  • モノノケ/ハ/カラ/ン/ダ → 物の怪は空(ん)だ
  • モノノケ/ハカランダ → 物の怪謀らんだ
  • モノノケ/ハ(→ワ)カランダ → 物の怪分からんだ

 こう並べていくと、いろいろな意味が生成されてくる。〈モノノケ〉を〈物の怪〉ではなく別の言葉に綴ってみれば、もっと多様な言葉が出現するだろう。〈ハカル〉にはさらに他の字をあてることもできる。精神分析家ジャック・ラカンは言葉の音そのものをシニフィアンと呼び、シニフィアンが集まり、多重に折り重なることによって無意識が作られると考えた。つまり、無意識はシニフィアンのファブリック、織物として形成される。シニフィアンは次々と生成されて、それらが連鎖していく。


 志村正彦も意識的、無意識的に、〈ドカーン!ドバー!ウリャー!〉という情動を〈勢いのある言葉を並べてドリャー!〉というように多様な言葉の音に変換させて、歌詞を創作していった。

  /ノ/オ/ト/ロ/モ/モ/ノ/ノ/ノ

 志村は叫ぶ。音の反復や連鎖を駆使し、シニフィアンと戯れて、意味を超えたものを歌っている。