これを見た瞬間、何かが足りないと思った。何だろうかと考えたらすぐにあることに気づいた。槇原敬之の名がないことだ。言わずもがなであるが、彼が違法薬物所持の疑いで逮捕されたことの影響であろう。
数多くある『若者のすべて』カバーの中で、槇原versionの評価が高いことは衆目の一致するところであろう。『Listen To The Music The Live ~うたのお☆も☆て☆な☆し 2014』DVDにライブ映像を収録。昨年10月リリースのカバーベストアルバム「The Best of Listen To The Music」に音源収録。昨年11月放送のNHK「SONGS」で『若者のすべて』を歌い、コード進行に言及しながらこの歌を絶賛した。槇原敬之は『若者のすべて』ルネサンスの中心にいるアーティストである。
──ここからは、新たに録音された2曲についてお聞きします。まずはフジファブリックの「若者のすべて」です。 東京で花火大会があった日に、たまたま車の中で流れてきて、そのとき初めてこの曲を聴きました。フジファブリックは知っていたんですけど「若者のすべて」は知らなくて。「すごくいい曲だなあ」と思って、それから車内でこればっかり聴いていましたね。しかし残念なことに僕が知ったときには、曲を作って歌われていた志村正彦さんがお亡くなりになられていましてね。こんなことを言うと彼のファンの方がどう思うかわかりませんけど、こんないい曲を残した人と「一度くらいおしゃべりをしてみたかったな」と思いましたね。 ──楽曲名の表記が「若者のすべて ~Makihara Band Session~」となっていますが、これはどうしてですか? 「Listen To The Music 3」を作ったときにライブをやろうよという流れになり(参照:槇原敬之、敬愛する名曲カバー&ヒット曲尽くしツアー完走)、当時のバンドメンバーに「この曲もやってもらえますか?」とお願いして、実はそのセッションの音にシンセを足したりして完成したのが今回のものなんです。 ──だからこうしたサブタイトルなんですね。 そうなんです。ともかく「若者のすべて」を嫌いな人はいないんじゃないかと断言したいくらいです。もう、カタルシスの塊みたいな曲。この歌のような経験をしたことがない人でも、こういう経験をしたことがあるような気分になるというかね。そして、この若々しい歌を50歳の僕が歌ってしまいました(笑)。
今回の「SONGS」では松任谷由実『Hello, my friend』も歌われたが、この曲はアルバム「The Best of Listen To The Music」の中でひときわ魅力のあるカバーソングとなっていた。僕個人としては、『若者のすべて』と『Hello, my friend』の二つがこのアルバムのBestである。しかも、この二つの歌にはどこかに響き合うところがある。
『Hello, my friend』(ハロー・マイ・フレンド)は、1994年7月27日にリリース。ユーミン25枚目のシングルである。歌詞の前半部を引用したい。
「君に恋した夏」は「みじかくて 気まぐれな夏」とあるので、夏の終わり頃の季節の設定なのだろう。ある意味では『若者のすべて』の季節感に似ているかもしれない。夏が終わりつつある『若者のすべて』、夏がもう終わってしまった『Hello, my friend』という違いはあるが。
「Destiny」運命を知っていたという過去表現、「戻れない安らぎ」という多様に解釈できる表現。ユーミンらしい歌詞の背景の設定ではあるが、心の深くにとどまる言葉である。直観だが、この「君」はすでに遠い世界に旅立ってしまった人であり、比喩ではなく現実に「もう二度と会えな」い存在ではないだろか。「悲しくて 悲しくて 帰り道探した」、歌詞の後半にある「めぐり来ぬ あの夏の日 君を失くしてから」という表現からもその印象が強まった。荒井由実、松任谷由実の歌う喪失感にはいつもどこかに、無くなったもの、亡くなったものへの想いが込められている。
『Hello, my friend』の中で最も突き刺さる歌詞は次の一節である。(同じ箇所を槇原敬之も「SONGS」で指摘していた)
僕が生き急ぐときには そっとたしなめておくれよ
後半部にあるこの一節によって、歌の話者が「僕」であることが示される。『Hello, my friend』は、「僕」が「君」に対して語りかける作品である。この一節は通常、「僕」の「君」に対する呼びかけの言葉だと考えられるが、もう一つの可能性を提示してみたい。この一節の「僕」を「君に恋した夏」の「君」の方だと捉える解釈である。つまり、ここで視点が転換される。この「僕」は、歌の話者が失った対象であり、もう二度と帰ることのない存在だと捉えるのであれば、歌の様相は一変する。
10月23日、朝刊を読んでいると、ある全面広告が目に飛び込んできた。槇原敬之『The Best of Listen To The Music』。そろそろリリースされるかと思っていたところ、この日が発売日だった。(朝日新聞で見たのだが、他の全国紙や地方紙で掲載されたかは分からない)2020年にデビュー30周年を迎える記念として初のカバー曲のベストアルバムであり、志村正彦・フジファブリックの『若者のすべて』がカバーされると告げられていた作品である。
早速、『The Best of Listen To The Music』初回限定盤を注文して聴いてみた。
『若者のすべて』は「Makihara Band Session」と付記されているように、完璧なバンドサウンドになっている。もともと、アルバム『Listen To The Music 3』のライブのバンドメンバーによるセッションの音をもとに完成したそうだ。このライブ映像は『Listen To The Music The Live ~うたのお☆も☆て☆な☆し 2014 』としてDVD化されているが、今回の音源はストリングスも加えられて練り上げられた音になっている。
『若者のすべて ~Makihara Band Session~』はとても丁寧に緻密にそして想いを込めて制作されている。槇原敬之のこの曲への「尊敬の気持ち」が自然に伝わってくる。
なお、この記事には、オリコンモニターリサーチによって10~50代以上のモニターの男女1365名に全15曲のダイジェスト版を聴いてもらって作成した「好きな曲ランキング」が掲載されている。『若者のすべて ~Makihara Band Session~』は総合7位となかなか健闘している。最近この曲の知名度が上がったことも影響しているのだろう。
11月2日(土)午後11・00~11・30の『SONGS』(NHK総合)に槇原が出演する。すでにご存じの人も多いだろうが、松任谷由実『Hello, my friend』、フジファブリック『若者のすべて』、エルトン・ジョン『Your Song』が歌われるそうだ。この三曲の選曲だけで僕は胸がいっぱいになった。
「運命」なんて便利なもので、文脈は異なるが、そのように語ってみたい気もした。『若者のすべて』のこれまでとこれから、その軌跡そしてその運命を、まぶた閉じて浮かべている。
まだ数日前のことだ。25日クリスマスの夜、テレビをつけて、BSチャンネルをupさせていくと突然、「街灯の明かりがまた 一つ点いて 帰りを急ぐよ」という声と字幕が耳と目に飛び込んできた。『若者のすべて』だ。槇原敬之が歌っていた。データを見ると、BS-TBSの『槇原敬之 Listen To The Music The Live ~うたのお☆も☆て☆な☆し』という番組だった。この放送のことは全く知らなかった。途中からなのが少し残念だったが、たまたま見られたことを喜んだ。