7月は、甲府中心街の「シアターセントラルBe館」で三本の映画を見た。この三つの作品についての感想を少し書きたい。
『104歳、哲代さんのひとり暮らし』
104歳の石井哲代さんのひとり暮らしの日々を追うドキュメンタリー映画。監督は山本和宏。地元紙の中国新聞で哲代さんを取材した連載記事やベストセラーとなった書籍が元になった。哲代さんは広島の尾道の山あいにある一軒家で一人で生活している。笑顔の表情、ユーモアある言葉が生き生きと撮られている。自宅から坂道を後ろ向きでゆっくりと下りる姿が時々挿入されるが、この映画のリズムを奏でている。
哲代さんは〈みんなになあ、大事にしてもろうて、ほんとうにいい人生ですよ、だった、言ったらいけんけん、人生です、ingでいきます!〉と語る。いつも〈ing〉でいくこと、この現在進行形の生き方に感銘を受けた。百年を超える時間も現在進行形で流れている。時はいつも現在である。
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』
93歳のテルマがオレオレ詐欺で奪われた1万ドルの金を取り戻すストーリー。ジョシュ・マーゴリン監督の祖母の実話が元になっている。役柄同様に93歳の女優ジューン・スキッブが電動スクーターに乗って行動する姿がとてもカッコイイ。仲良しの孫ダニエルをフレッド・ヘッキンジャーが好演している。
見る前は冒険活劇風の愉快な展開を予想したのだが、映画はアメリカ社会の歪んだ現実をリアルに描いていく。先進国はオレオレ詐欺や高齢化社会など共通の問題を抱えていることを痛感した。
『ルノワール』
早川千絵監督の『PLAN 75』に続く長編第二作。1980年代後半、11歳の少女フキ(鈴木唯)は闘病中の父圭司(リリー・フランキー)と仕事ばかりの母詩子(石田ひかり)と3人で郊外の家に暮らしている。感受性が豊かなフキはあれこれと想像をめぐらせる。当時流行した伝言ダイヤル(出会い系サービスのはしり)で知り合った男との場面が緊迫感をもたらす。
11歳の少女の固有な存在感を際立たせた演出は評価できる。ただし、作品内の現実と想像(というよりも幻想や妄想じみたもの)を交錯させながら映像が展開していくが、その転換、切り替わるポイントがつかみにくいところが気になった。脇役の中島歩、河合優実、坂東龍汰を含めて役者たちが好演していただけに、そのことが残念だった。
この三作は、104歳と93歳の高齢女性から11歳の少女まで、女性の生き方を余すところなく描いている。特に高齢者の場合、女性の方が生き生きと現実に向き合っているように感じた。そのような意味での「女性賛歌」の映画には独特な魅力がある。
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