8月は甲府のシアターセントラルBe館で四本の映画を見た。これらの作品について少し振り返りたい。
『マリウポリの20日間』
ロシアがウクライナに侵攻してからマリウポリが壊滅するまでの20日間を記録したドキュメンタリー映画。ミスティスラフ・チェルノフ監督。この映画を見ていると、記憶の中にある、2022年2月の侵攻開始直後にテレビのニュース番組で放送されたAP通信の映像がいくつも使われていた。あの当時はこの映像がどのようにして撮影されたのか全く分からなかったが、この映画は撮影の過程や経緯を教えてくれた。そして、取材班のたぐいまれな使命感や勇気、緊張感や苦悩をあますところなく伝えている。いきなり侵攻が始まり日常が崩壊していく。爆弾が破裂して家や病棟が破壊されていく。その惨状にも関わらず、状況がよくつかめない。不安と絶望が広がる。死者が増えていく。直視することができない凄惨な映像が続くが、私たちが知らなければならない現実である。
ウクライナ人の記者チェルノフたちの取材班は、やがて、ウクライナ軍の援護によってマリウポリから決死の脱出を図る。そのような過程を経て世界に配信された映像が日本のニュース番組でも見ることができた。それらの映像を元にして作成されたのがこの映画である。2024年、第96回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞し、ウクライナ映画史上初のアカデミー賞受賞作となった。また、AP通信にはピュリッツァー賞が授与された。
『BAD GENIUS バッド・ジーニアス』
2017年のタイ映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」をハリウッドでリメイクした作品。J・C・リー監督。貧しい家庭に育った秀才の少女リンは名門高校に特待生として入学し、劣等生たちから持ちかけられて、彼らを救う「カンニング」作戦を指揮するようになる。その方法がなかなか巧みであり、映画として楽しめたのだが、アメリカ社会の移民や貧困の問題にも踏み込んでいるところが単なるエンターテイメント映画ではないことを示していた。
『木の上の軍隊』
沖縄の伊江島で終戦に気づかないまま2年の間もガジュマルの木の上で生き抜いた二人の日本兵の実話に基づいた井上ひさし原案の舞台劇を映画化した作品。平一紘監督。
上官の少尉(堤真一)と沖縄出身の新兵(山田裕貴)がその立場ゆえに距離があるのだが次第に互いを理解していく。飢えに苦しみながら木の上とその周りの森で孤独な闘いをを続ける。時が経つにつれて、二人の心の中で「帰りたい」という想いが強くなる。最後の浜辺の場面で上官の堤真一が微笑みながら山田裕貴に「帰ろう」という場面が秀逸だった。映画はここで終わったが、実際にモデルの二人は故郷に帰ることができたそうだ。それを喜ぶと共に、帰りたくても帰ることが叶わなかった無数の人々のことを考えた。戦場に行くことは帰ることをあらかじめ断念することでもあった。その現実を強く思い知らされた。
『太陽(ティダ)の運命』
沖縄県の二人の知事に焦点を当て各々の闘いの軌跡を通じて沖縄現代史を描いたドキュメンタリー映画。佐古忠彦監督。タイトルの「ティダ」は沖縄の方言で太陽の意味、古くは首長=リーダーを表す言葉である。
沖縄本土復帰後の第4代知事大田昌秀と第7代知事・翁長雄志は、政治的立場が正反対であることから対立しながらも、大田は軍用地強制使用の代理署名拒否、翁長は辺野古埋め立て承認の取り消しを巡って国と法廷で争った。結局、対立していた二人は沖縄の平和を守るために同じ道を歩むことになる。この映画は、本土と沖縄、国家と地方自治、日本とアメリカという関係のあり方を深く問いかける作品だった。
8月31日、シアターセントラルBe館で佐古忠彦監督がこの映画の舞台挨拶を行うことを知ったので、この映画はその日に見に行った。佐古監督の舞台挨拶を含め、この映画について考えたことを後にあらためて書きたい。
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