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2023年11月10日金曜日

甲府H組首位! ACL第4節、ヴァンフォーレ甲府VS浙江FC(中国)

  11月8日、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)グループリーグ第4節、ヴァンフォーレ甲府(日本)VS浙江FC。

 第2節と同様、仕事を終えてから甲府駅で特急に乗り、国立競技場へ。開始30分前になんとか到着。いつもギリギリ感がある。

 入場ゲートに向かう途中で、おもいがけなく佐久間悟社長と出会い、固く握手して、VF甲府の大健闘を讃えた。五月、佐久間社長を山梨英和大学の「山梨学」の招聘講師として招いて、「スポーツによる地域活性化-ヴァンフォーレ甲府のチャレンジ」というテーマで講義をしていただいた。今年で5年目になるが、毎回、講義内容はヴァージョンアップされている。2023年のテーマは、持続的で堅実な地域活動と共に、天皇杯優勝によるACL参加、山梨からアジア・世界へとVF甲府を発展させていくものだった。これまで大変な苦労があったと思われるが、今のところ、ACLは試合内容も観客動員も大成功だ。これは佐久間社長の手腕によるところが大きい。


 10月4日の第2節は雨だったが、この日は快晴。昼間は暑かったが夜になると涼しくなり、サッカー観戦にふさわしい気候だ。入場前に照明が落とされると、たくさんのサポーターが持ってきたペンライトの青の光が点灯される。美しい青の光がゆれながら輝いている。一緒に来た妻も童心に帰ったようにライトを振っていた。みんな楽しそうだ。フルハイビジョンの大型モニターに映像が映し出され、キックオフが近づく。国立競技場が光きらめく祝祭の舞台へと変わる。



 甲府は浙江FCとの第3節アウェイゲームで0:2で敗れた。この日も最初は少し守勢だったが、次第に攻勢をかけ、18分、ピーター・ウタカが綺麗にパスするようにしてゴール!大喜びしたのだが、オフサイドの判定。しかしVAR(ビデオ判定)でゴールが認められ、再び大喜び!!。結果として二度の歓喜を味わうことができた。J2リーグにはVARは導入されていないので、感謝、感謝。前半終了間際にも、ジェトゥリオが跳び蹴りのようにシュート、2点目をあげた。2点共に鹿島アントラーズから復帰した中村亮太朗のスルーパスによるもの。彼は攻守の切り換えの要となっている。飯島陸も大活躍。前線での追い回しが強力だった。宮崎純真も右サイドからの起点となった。攻撃全体のリズムが素晴らしかった。

 後半はさらに勢いを増した。後半5分PKで一点を失ったが、13分にキャプテン関口正大の豪快なゴラッソゴール、終了間際にも交代で入った鳥海芳樹が落ち着いて4点目を決めた。4:1で試合終了。センターバックの井上詩音、エドゥアルド・マンシャがほぼ完璧と言える仕事をした。山梨県出身のサイドバック小林岩魚の献身的な動き、林田滉也の堅実な守備、GKマイケル・ウッドの安定したセーブ(PKを与えたのはアンラッキーだったが)。この日の先発組は井上と中村以外は基本としてターンオーバーメンバーだが、素晴らしいパフォーマンスだった。

 VF甲府は勝ち点7(2勝1分け1敗)となり、総得点によってH組首位に浮上した。二十数年の応援歴の中でも、この試合は楽しさ、華やかさという点でベスト1と言ってもよい。YoutubeのDAZN Japan映像【ヴァンフォーレ甲府×浙江FC|ハイライト】を添付させていただく。



 入場者も12,256人と増えた。経営的にも素晴らしい数字である。今回も前回と同様、Jリーグの他チームサポーターが応援に駆けつけてくれた。しかも、磐田、千葉などJ2で昇格を争っているチームのサポを見かけた。ACLは別のカテゴリーとして応援してくれる。これはとてもありがたく、うれしい。

 Jリーグチームを愛する者の間でこのような〈連帯〉が生まれたのは、閉塞感のあるこの時代において、とても開放的、解放的な試みである。この貴重な〈絆〉をこれからも大切にしていきたい。
 

2023年11月5日日曜日

『虫の祭り』の音と声 [志村正彦LN339]

 十月末、「山梨学」の授業の一環として学生三〇人と一緒に、富士吉田のハタオリマチフェスティヴァルに行ってきた。例年より人も増えて、かなりの賑わいを見せていた。 

 公式サイトを見て、このフェスが秋祭りだということを初めて知った。秋祭りは収穫を祝う祭り。秋と祭りという組合せが、志村正彦・フジファブリックの「虫の祭り」を想い出させた。


 フジファブリック『虫の祭り』(作詞・作曲:志村正彦)は、2004年9月29日、3枚目シングル『赤黄色の金木犀』のB面曲・カップリング曲としてリリースされた。四季盤〈秋〉のB面曲として位置づけられる。歌詞の全文を引用しよう。

  

どうしてなのか なんだか今日は
部屋の外にいる虫の音が
祭りの様に賑やかで皮肉のようだ

その場凌ぎの言葉のせいで
身動き出来なくなってしまった
祭りの様に過ぎ去った 記憶の中で

「あなたは一人で出来るから」と残されたこの部屋の
揺れるカーテンの隙間からは入り込む虫達の声

どうしてなのか なんだか今日は
部屋の外にいる虫の音が
花火の様に鮮やかに聞こえてくるよ

にじんで 揺れて 跳ねて 結んで 開いて
閉じて 消えて

「あなたは一人で居られるから」と残されたこの部屋の
揺れるカーテンの隙間からは入り込む虫達の声

 

 歌の主体は〈どうしてなのか なんだか今日は〉と問いかける。志村正彦の歌詞によく見られる問いの形だ。〈虫の音〉が部屋の外から聞こえてくる。部屋の中にいる歌の主体はその音を〈祭り〉のように賑やかに感じ、〈皮肉〉のように受けとめる。〈皮肉〉は、遠まわしの非難のようなものか、思いどおりにならないことの喩えなのか。どちらにしろ、この〈虫の音〉に、いくぶんか引き裂かれるような想いを抱いている。

 季節は秋。〈虫の音〉が聞こえてくる時期。秋祭りとの関連で〈祭り〉のようだと感じたのかもしれない。

 〈その場凌ぎの言葉のせいで/身動き出来なくなってしまった〉と、言葉をめぐる想いが語られる。〈祭りの様に過ぎ去った 記憶の中で〉とあるので、記憶の中にある言葉なのだろう。

 誰かが〈「あなたは一人で出来るから」〉と歌の主体に話しかけた言葉は、遠く、遠くから、過ぎ去った過去から聞こえてくる。続く〈と残されたこの部屋の〉という表現は、その誰かの言葉が記憶に残されたこと、歌の主体が一人でその部屋に取り残されたこと、その二つの意味が重ね合わされている。〈揺れるカーテンの隙間〉とあり、部屋の窓は開け放されている。そこから入り込む〈虫達の声〉と〈あなた〉と語りかける記憶の中の声が混ざり合う。

 歌詞の二番では、〈虫の音〉は〈花火〉のように鮮やかに聞こえる。この〈花火〉もまた歌の主体にとっての大切な記憶に関わるものだろう。そして、誰かの語りかけは〈「あなたは一人で居られるから」〉となる。〈一人で居られる〉の方が〈一人で出来る〉よりも強い意味を持つ。この〈一人で居られる〉は〈二人で居る〉と対比される表現だ。おそらく、〈あなた〉と語りかける人と語りかけられる人との別離という意味が込められている。

 A面曲『赤黄色の金木犀』でも、〈もしも 過ぎ去りしあなたに/全て 伝えられるのならば/それは 叶えられないとしても/心の中 準備をしていた〉〈期待外れな程/感傷的にはなりきれず/目を閉じるたびに/あの日の言葉が消えてゆく〉という言葉をめぐるモチーフが歌われている。歌の主体は〈あなた〉という二人称を使っている。B面曲 『虫の祭り』では、歌の主体は〈あなた〉と呼びかけられている。この関係性が興味深い。


 〈「あなたは一人で出来るから」〉と〈「あなたは一人で居られるから」〉という二つの言葉は、鉤括弧の引用符で囲まれている。志村正彦の全歌詞の中でも、誰かの具体的な発話が引用されているのはこの歌だけである。

 おそらく、この二つの言葉は、作者の志村正彦が実際に聞いて、受けとめたリアルな言葉ではないだろうか。非常に現実感のある言葉だ。根拠はないのだが、その言葉が記憶に残されたことも、一人でその部屋に取り残されたことも、志村の実体験のような気がする。

 

 歌詞の言葉を形式的に分析しても、この歌の抒情の魅力を伝えることができない。

 志村の言葉が〈にじんで 揺れて 跳ねて 結んで 開いて/閉じて 消えて〉いく。その後で一分ほど続くアウトロのコーラスが、限りなく切なく、限りなく儚い。

 志村正彦の歌の世界では、言葉になるものと言葉にならないものとが限りなく滲んでいく。