吉井和哉については志村正彦との関係で関心を持ち始めた。
フジファブリックは2009年12月9日発売のTHE YELLOW MONKEYへのトリビュートアルバム『THIS IS FOR YOU~THE YELLOW MONKEY TRIBUTE ALBUM』で「Four Seasons」をカバーした。同年12月24日に志村正彦の生が閉じられたことから、この音源は志村が生前に録音してリリースした最後のものだとされている。
THE YELLOW MONKEY「Four Seasons」は、1995年11月1日、アルバム『Four Seasons』の表題曲として発表された。まず、THE YELLOW MONKEYのオリジナル音源(ただしリマスター版)とフジファブリックのカバーを聴いていただきたい。どちらもYouTubeの公式サイトに音源がある。
THE YELLOW MONKEY Four Seasons (Remastered)
フジファブリック Four Seasons (From "This Is For You - The Yellow Monkey Tribute Album")
吉井の声には色艶と粘り気があることが歌詞をダイレクトに響かせているのに対して、志村の声はやや硬質であり響きを削ぎ落としているように聞こえる。サウンド面では特に間奏部分において、THE YELLOW MONKEYでは菊地英昭のエレクトリックギター、フジファブリックでは金澤ダイスケのキーボードが強調されているところが異なる。ボーカル・ギター・ベース・ドラムの四人編成とそれにキーボードが入る五人編成というバンド編成の違いがある。
全歌詞を引用したい。
FOUR SEASONS 作詞・作曲:吉井和哉
まず僕は壊す
退屈な人間はごめんだ
まるで思春期の少年のように
いじる喜び覚えたて 胸が騒ぐのさ
新しい予感 新しい時代......Come on
馬鹿のままでいい 馬鹿のままがいい
よけいなInputいらない ありのままがいい
男らしいとか 女らしいとか
そんな事どうでもいい
人間らしい君と
In changing time'n four seasons I'm crying
美しい希望の季節を
In changing time'n four seasons I'm crying
ねえ探しに行かないか?
まず僕は壊す
退屈な人生さよなら
君に誰よりもやさしい口づけを
アンコールはない 死ねばそれで終わり
ストレートに行こうぜ
回り道は嫌い
人様に迷惑とコーヒーはかけちゃいけない
そんなの自分で決められるさ ただの馬鹿じゃない
これから始まる世界は不安がいっぱい
大人は危険な動物だし 場合によっては人も殺すぜ
ヤケドしそうな熱い僕のコーヒーは
ミルクもシュガーも入れない
In changing four seasons I'm crying
美しい希望の季節が
In changing time'n four seasons I'm crying
すぐそこまで近づいてる
だけど勇気が足りない 力が足りない 時間が足りない
お金が足りない 空気が足りない 命が足りない
だからまず僕は壊す 全部足りないから
まず僕は壊す
全部欲しいから
吉井は静かに次第に激しく叫んでいく。 〈まず僕は壊す/退屈な人間はごめんだ〉から、〈だからまず僕は壊す 全部足りないから/まず僕は壊す/全部欲しいから〉まで、ロック的なあまりにロック的な宣言のフレーズが続く。〈壊す〉という衝動と〈全部欲しい〉という欲望はロックの中心にあるものだ。
〈僕〉は〈新しい予感 新しい時代〉に向かって踏み出す。〈まるで思春期の少年のように〉〈よけいなInputいらない ありのままがいい〉〈大人は危険な動物だし〉というフレーズは、吉井が映画『みらいのうた』で述べていた〈本当の夢〉の次の言葉と呼応する。
静岡の少年の時のまま 変わらずに すべてを成し遂げたいなと思っていることが夢かもしれない どれだけ自分の心を汚さずに成功できるかっていうこと 汚れたけどだいぶ 汚れたけどいかにそこを残したまま いろいろ成し遂げたいというのがもしかしたら夢かな
原点としての少年という時代と「four seasons」「美しい希望の季節」という季節の感覚が、吉井和哉の根底にあるのだろう。静岡という地方で育ったことも関係している。
なぜ、志村正彦が吉井の数ある歌の中から「Four Seasons」を選んだのか。
この問いについて考えたのだが、「Four Seasons」の歌詞を読むと、志村が影響を受けたと思われるところを見つけることができる。
例えば、〈これから始まる世界は不安がいっぱい〉の〈世界〉〈不安〉〈いっぱい〉という言葉の選択。〈勇気が足りない 力が足りない 時間が足りない/お金が足りない 空気が足りない 命が足りない〉という〈ない〉の反復。
こういう吉井のフレーズや語り口から、志村は影響を受けたのではないだろうか。先ほど述べた、吉井の少年時代の視点や四季の季節の感覚についても同様のことが言える。
しかし、これは影響というよりも、志村と吉井の感性面での共通点がもたらしたものかもしれない。ただし、志村には吉井の〈僕は壊す〉という強くて激しい意志よりも繊細で柔らかい意志のあり方がある。感覚的な捉え方になるが、志村の場合、言葉がそのまま外部へと向かっていくのではなく、自らの内部へ向かって遡行して循環しながらやがて浮かび上がってくる。同一の歌詞でも、歌い手の声や身体の差異によって歌は変化する。
このような背景があり、志村は吉井へのリスペクトを表すためにTHE YELLOW MONKEYのトリビュートアルバムで「Four Seasons」をカバーしたと筆者は考える。
最後に、2020年2月収録のライブ映像を紹介したい。「みらいのうた」音源リリースの1年前、映画『みらいのうた』撮影開始の2年前の映像である。
【LIVE】Four Seasons -Kyocera Dome Osaka, 2020.2.11-
この時吉井は54歳、この歌のリリース時は29歳。すでに25年の時が流れている。
29歳というのは志村が亡くなった齢である。29歳の吉井和哉が作った曲を29歳の志村正彦がカバーしたことに気づいた。
29歳という年齢は人生の境界にある。そのことを考えているうちに、〈アンコールはない 死ねばそれで終わり/ストレートに行こうぜ/回り道は嫌い〉とシャウトする吉井の声と姿が強く迫ってきた。
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