4月30日に放送された『この歌詞が刺さった!グッとフレーズ』第25弾3時間スペシャルのテーマは「“青春”がそこにあるグッとフレーズ」BEST30だった。私は気づくのが遅れて最後の15分ほどしか見ることができなかったが、「若者のすべて」が22位に選ばれていた。この番組のHPには〈普遍的な名曲と言われるフジファブリックの「若者のすべて」〉という紹介文があった。
この番組は名曲の「心に刺さった歌詞」に注目する歌詞特化型の音楽番組だ。2021年7月から不定期に放送されているが、このブログでも志村正彦・フジファブリックが選ばれた回について何度か取りあげてきた。
「若者のすべて」はこの20年ほどの日本語ロック、もっと広いパースペクティヴをとれば、この半世紀ほどの日本語のポピュラー音楽の中で非常に高く評価された名曲となった。その歌詞についてもいろいろと考察されている。
この4月からNHKの『名曲考察教室』が月1回のレギュラー番組となった。2023年8月からパイロット版、2025年1月から不定期の特番として放送されていたが、番組HPによると〈昭和・平成の名曲を、令和の若者たちが“いまの感覚”で徹底考察!そこから生まれた物語を、新しいミュージックビデオに仕立てます〉というコンセプトで企画された。
4月23日放送の第1回は大滝詠一「君は天然色」。出演者による二つのミュージックビデオが作られ、作詞者の松本隆のコメントもあった。この番組は歌詞の考察に基づいた映像化が特色となっている。
NHKではピーター・バラカンがゲストと共に名曲の数々を紹介する新番組『未来へのプレイリスト』も4月から始まった。名曲の魅力をサウンド面だけでなく、歌詞に込められたメッセージや社会的時代的な背景も紹介する。すでに「モータウン・サウンド」(ゲズト:中村正人)、「ボブ・ディラン」(ゲズト:奈良美智)、「越境する音楽」(ゲズト:大友良英)、「ラブソング」(ゲズト:矢野顕子)がテーマとなった。ピーター・バラカン自身が歌詞の鍵となるワードを丁寧に説明しながら日本語に訳しているところが素晴らしい。豪華なゲストとの対話も歌詞の理解を深めている。
テレビ朝日で2015年5月から日曜日夜に放送されてきた音楽バラエティー番組『EIGHT-JAM』でも歌詞に焦点を当てることが多い。ゲストによる独自の考察や分析が特色になっている。
1年半ほど前になるが、「音楽に批評は必要か サブスク時代、変わるリスナーと価値付けの意義」(朝日新聞2024.11.16)という記事で、ポピュラー音楽研究者の増田聡氏(大阪公立大学教授)が〈最近、音楽批評的な言説のなかで活性化しているものとして、Jポップ曲の歌詞を考察するブログが挙げられます。人々に対し、『この音楽は価値が高いから聴きましょう』と促すのではなく、すでに曲を聴いた人に対して『より深い』意味を解説する、という構えのものです〉〈『考察ブログ』の活性化は、音楽を取り巻く言説構造の変化を示しているように感じます。大雑把に整理するならば、音楽言説に求められる機能が、『価値付け』ではなくなり、『解釈』や、音楽をよりよく理解するための『背景知識』へと移っている〉と述べている。確かにここ数年でメディアの歌詞考察番組や記事、個人の歌詞考察ブログが増えてきたようである。
十四年前にこの『偶景web』の主要コンテンツ「志村正彦ライナーノーツ」を始めたときから今日に至るまで、このブログは、増田氏のコメントにある〈歌詞考察ブログ〉つまり〈『より深い』意味を解説する〉こと、〈『解釈』〉や〈『背景知識』〉を志向するものではなかった。
私はなぜ志村正彦の歌にこんなにも魅了されるのか。そのような個人的動機から出発した。彼の歌の言葉を解明したいという想いだけであった。今でもその気持ちは変わらない。
それでもこういう状況の中では、『偶景web』の「志村正彦ライナーノーツ」も歌詞考察ブログの一つとして位置づけられるのかもしれない。しかし、繰り返しになるが、私にはそのような志向や意図はなく、ただ単に、自由に、志村正彦の歌について感じたこと考えたことを《文》という形にして書き続けているだけである。
0 件のコメント:
コメントを投稿