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2018年7月10日火曜日

世界が揺れる-『虹』と『虹色デイズ』1[志村正彦LN186]

 週末雨上がった日曜日。映画『虹色デイズ』(監督・飯塚健)を見た。上映館は「イオンモール甲府昭和」にあるシネコン「TOHOシネマズ 甲府」。甲府市内と郊外に二つしかない山梨の常設映画館の一つだ。日曜日の昼間という時間帯なので観客は中学生か高校生くらいの女子が多かった。上映前に楽しそうにおしゃべりをしているのが微笑ましかった。

 冒頭でフジファブリック『虹』(詞・曲:志村正彦)が流れる。二分半ほどの間、志村の声が場内に響いた。
 四人の男子高校生がプールに飛び込む場面に続いて、主人公的役割の「なっちゃん」(佐野玲於)が「杏奈」(吉川愛)と駅で偶然を装って出会うために自転車のペダルを全力で漕ぐ。ドローン撮影のカメラが彼を追いかける。このカメラワークと『虹』の曲調が不思議なほど合っている。『虹』の歌詞が持つ疾走感、滑空感とでもいうべきものが映画のリズムを加速させている。「杏奈」は電車通学。駅で二人が視線を交わす場面で曲は終わり、一休止して物語が始まる。

 有り難いことに、この冒頭シーンが「映画『虹色デイズ』 フジファブリック「虹」が男子たちの青春を彩る!本編オープニング映像」と題して公式の「松竹チャンネル」でまるごと公開されているので紹介したい。参照するために映像挿入分の歌詞を引用しておく。





  週末 雨上がって 虹が空で曲がってる
  グライダー乗って
  飛んでみたいと考えている
  調子に乗ってなんか
  口笛を吹いたりしている
  週末 雨上がって 街が生まれ変わってく
  紫外線 波になって
  街に降り注いでいる
  不安になった僕は君の事を考えている

  遠く彼方へ 鳴らしてみたい
  響け!世界が揺れる!
  言わなくてもいいことを言いたい
  まわる!世界が笑う!

  【省略部分】

  週末 雨上がって 街が生まれ変わってく
  グライダーなんてよして
  夢はサンダーバードで
  ニュージャージーを越えて
  オゾンの穴を通り抜けたい

  遠く彼方へ 鳴らしてみたい
  響け!世界が揺れる!
  言わなくてもいいことを言いたい
  まわる!世界が笑う!

  【省略部分】

 飯塚監督は映像と音楽のタイミングの調整に万全を図ったのだろう。まるでこの映像のために志村が作曲したかのような出来映えだ。例えば「不安になった僕は君の事を考えている」のところ。ほんの一瞬だが二度ほど車中の「杏奈」の映像が挟み込まれる。「僕」と「君」、そして「不安」。歌詞の展開を考えて映像を編集したのだと思われる。

 省略されたのは、「週末 雨上がって 虹が空で曲がってる/こんな日にはちょっと遠くまで行きたくなる/缶コーヒー潰して/足をとうとう踏み出す」と「もう空が持ち上がる」の二カ所、そして繰り返し部分だ。モチーフ的に合わない部分が省かれたのかもしれない。全体的な印象としては『虹』の歌詞全体が使われている感じだ。

 ネタバレになるのでストーリーの内容については言及しない。原作は水野美波の漫画。『別冊マーガレット』連載の少女コミックなので、主要人物の女子三人の描き方がなかなか秀逸だった。男子四人の言動は愉快だが、女子三人(一人加えて女子四人とした方がいいかもしれないが)の物語も興味深い。女子の内面に焦点が当てられた「女子映画」としても優れている。

 『虹』は梅雨が明けきらない季節、初夏の季節を舞台としているのだろうが、この歌詞にも『NAGISAにて』『陽炎』と同様に「揺れる」が登場する。


  遠く彼方へ 鳴らしてみたい
  響け!世界が揺れる!


 『虹』の「響け!世界が揺れる!」という志村の声に揺さぶられるようにして、『虹色デイズ』の高校生の恋物語は揺れていく。その揺れる感じがなんだか懐かしくて愛おしい。

 今日7月10日は志村正彦の誕生日。夏に生まれた彼は「揺れる」夏の歌をいくつも作った。「陽炎」が揺れ、「二人」が揺れ、「世界」が揺れる。

  (この項続く)

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