2026年3月22日日曜日

ボブ・ディラン「激しい雨」-『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』舞台と小説8

  前回書いたように、「ハードボイルド・ワンダーランド」パートのラストシーンで、〈私〉はボブ・ディランの「激しい雨」を聴きながら自らの無意識の核にある〈世界の終わり〉へと旅立っていく。

 ここでYouTubeにある「激しい雨」のOfficial Audioを聴いてみたい。1962年の録音、1963年のリリース。

 Bob Dylan - A Hard Rain's A-Gonna Fall (Official Audio)


 YouTubeには「激しい雨」の1975年のライブ映像もあった。

 Bob Dylan "Hard Rain" LIVE performance [Full Song] 1975 | Netflix


 この歌詞は五つのブロックから成り、各々、二つの節の問いかけ、それに対する数節から十数節の答え、タイトルフレーズの二つの節で構成される。この歌詞の五番を引用したい。最も長いブロックであり、問いに対する答えは十二節に及ぶ。

Oh, what’ll you do now, my blue-eyed son?
Oh, what’ll you do now, my darling young one?
I’m a-goin’ back out ’fore the rain starts a-fallin’
I’ll walk to the depths of the deepest black forest
Where the people are many and their hands are all empty
Where the pellets of poison are flooding their waters
Where the home in the valley meets the damp dirty prison
Where the executioner’s face is always well hidden
Where hunger is ugly, where souls are forgotten
Where black is the color, where none is the number
And I’ll tell it and think it and speak it and breathe it
And reflect it from the mountain so all souls can see it
Then I’ll stand on the ocean until I start sinkin’
But I’ll know my song well before I start singin’
And it’s a hard, it’s a hard, it’s a hard, it’s a hard
It’s a hard rain’s a-gonna fall

 GoogleのGeminiによる日本語訳を添付する。

ああ、これからどうするんだ、私の青い目の息子よ
ああ、これからどうするんだ、私のかわいい若者よ
雨が降り出す前に、私はまた外へ出て行こう
最も深い、黒い森の奥底まで歩いて行こう
大勢の人がいて、その誰もが手に何も持っていない場所へ
毒の粒が、人々の飲み水に溢れている場所へ
谷間の家が、湿り気のある汚れた牢獄と隣り合わせの場所へ
死刑執行人の顔が、いつも巧みに隠されている場所へ
飢えが醜く、魂が忘れ去られた場所へ
黒が唯一の色で、ゼロが唯一の数字である場所へ
そして私はそれを語り、考え、口にし、呼吸しよう
山からそれを反射させ、すべての魂に見えるようにしよう
それから、沈み始めるまで海の上に立ち続けよう
だが、歌い始める前に、自分の歌をよく噛み締めておこう
そして、激しい、激しい、激しい、激しい
激しい雨が、降るだろう


 〈私〉は黒い森の奥底まで歩いて行く。〈私〉は語り、考え、口にし、呼吸する。すべての魂に見えるようにする。海の上に立ち続けようとする。そして、〈激しい雨〉が降る。

 ディランはあるインタビューで〈激しい雨〉は〈ただの激しい雨〉であり、〈どうしても起こらなければならない何らかの終わり〉を意味していると述べている。


 前回に引き続き、小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の39節、「ハードボイルド・ワンダーランド」パートのラストシーンを引用したい。〈私〉は海の見える港の倉庫に車を駐めてボブ・ディランのテープを聴く。雨のことを考えながら最後の時を迎える。

 私はこれで私の失ったものをとり戻すことができるのだ、と思った。それは一度失われたにせよ、決して損なわれてはいないのだ。私は目を開じて、その深い眠りに身をまかせた。ボブ・ディランは『激しい雨』を唄いつづけていた。

 ここにはディランが「激しい雨」にこめた〈どうしても起こらなければならない何らかの終わり〉に相当する〈世界の終わり〉がある。舞台にはこのシーン自体はなかったのだが、雨が激しく降り地下水が激しく流れるという水の光景をプロジェクションマッピングで背景に映し出していた。また、「世界の終り」パートでは最終的に〈僕〉と〈君〉が〈心〉を持つ人間が住む〈森〉へと進んでいくことが示唆されている。

 〈雨〉と〈森〉というモチーフによって、ボブ・ディランの「激しい雨」と村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』はつながっているだろう。

   ( この項続く

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