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2021年4月11日日曜日

奥田民生『拳を天につき上げろ』『すばらしい日々』

 奥田民生MTR&Yの山梨公演の収録映像が、「RAMEN CURRY MUSIC RECORDS」のyoutubeチャンネルに載せられている。オープニング曲『拳を天につき上げろ』だ。


 奥田民生 - 拳を天につき上げろ  Live at YCC県民文化ホール(山梨) 2021.1.31



 

    拳を天につき上げろ       作詞・作曲:奥田民生
   
              雨も日差しも とけてながれた
              今日の時間を 振り返っている
              失敗の 場面を なげき
              因憊の 体を ほめる

              誰か見てるか 誰も見てない
              誰かが見てるさ かくれて見てるさ
              いっぱいの 期待をあつめ
              心配の 元をたつのさ

              カンパイ 拳をつき上げて
              カンパイ カンパイ 言いたい事はそれだけ

              闇と光と かわりばんこさ
              闇も光も 泡にまみれた

              カンパイ 夜空の星に向け
              カンパイ カンパイ 言いたい事はそれだけ

              カンパイ 拳をつき上げて
              カンパイ カンパイ ただそれだけ
              カンパイ 夜空の星に向け
              カンパイ カンパイ 言いたい事はそれだけ


 『拳を天につき上げろ』は労働歌だ。聴き手の喉の渇きを潤すかのように、歌が体に染み込んでくる。

 一日を振り返り、失敗をなげく。誰も見てないようで、誰かがかくれて見てる。時間も視線も追いかけてくる。そんな働く男や女に、歌い手は〈カンパイ 拳をつき上げて〉と呼びかける。疲労困憊の体がほぐされ、心配の元がうすめられていく。毎日、〈闇と光〉は〈かわりばんこ〉に現れる。働く者の実感だ。〈カンパイ〉の〈泡〉にまみれて、闇が光になる。時には光が闇になるのだろうが、それでも〈夜空の星〉、闇の中の光に向けて〈カンパイ カンパイ〉と奥田民生は歌う。

 〈失敗〉〈困憊〉〈いっぱい〉〈心配〉そして〈カンパイ〉と韻を踏んだキーワードが物語の情景を織りなす。聴き手は「コール・アンド・レスポンス」のようにして、歌い手に応答するのがよいかもしれない。〈言いたい事はそれだけ〉なのだから。

 ユニコーン初期の傑作『大迷惑』『働く男』『ヒゲとボイン』そして『すばらしい日々』も労働歌、労働者ロックだ。『拳を天につき上げろ』もその系譜に属している。この歌は2012年1月リリース。サッポロビールの企業CMタイアップ曲だったようだ。タイアップという枠組の中で労働歌を作る。奥田民生らしい拳の挙げ方だ。初期の歌とは異なり、この歌にはある種の諦念があるが、これは成熟とも言えるのだろう。

 MTR&Yバンド。ボーカル&ギター奥田民生・ベース小原礼・キーボード斎藤有太・ドラム湊雅史のユニットの音はとても心地よい。2021年の今、ここではロックが生き生きと呼吸している。


 もう一つ、最近のライブ映像を紹介したい。

奥田民生 - すばらしい日々(UNICORN)  I Live at Zepp Tokyo 2020.11.25



 奥田民生ライブツアー 『ひとり股旅 2020』Zepp Tokyoのツアーファイナル公演の映像である。一人で歌うのとバンドで歌うのとは印象がまったく異なる、不思議なほどに。なぜだろう。

 55歳になった奥田民生の『すばらしい日々』は、歌詞そのものは同じだが、その独特な時間の感覚が以前よりも凝縮されている気がする。


  なつかしい歌も笑い顔も すべてを捨てて僕は生きてる

  それでも君を思い出せば そんな時は何もせずに眠る眠る

  朝も夜も歌いながら 時々はぼんやり考える

  君は僕を忘れるから そうすればもうすぐに君に会いに行ける


 繰り返しになるが、彼の歌は時間の捉え方が独特だ。〈そんな時は何もせずに〉〈時々はぼんやり〉と、時という言葉が繰り返される。時を加速させたり、静止させたり、振り返ったり、解き放ったりして、時が動いていく。時が進むのも戻るのも、忘れるのも想いだすのも、別離も再会も、『拳を天につき上げろ』の一節で言うなら、どれも〈かわりばんこさ〉と囁くかのように。


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