佐々木昭一郎という孤高の映像作家をご存じだろうか。
彼はNHKに勤め、60年代後半から90年代前半にかけて、極めて優れたラジオドラマやテレビドラマを創り上げた。今年、二十年近くの沈黙を破り、初劇映画作品『ミンヨン 倍音の法則』を制作した。現在、東京の岩波ホールで上映中だ。
「僕の作品は全部夢から生まれています」(佐々木昭一郎『創るということ(増補新版)』[青土社])とあるように、彼の作品は、通常のドラマや映画の物語の文法から遠く離れ、「了解できない夢」のように構造化されている。また、「音」や「音楽」も単なる効果や背景を超えて重要な働きをしている。だから、彼の作品は本質的に「映像=音楽作品」とでも名づけられるべきものだ。「佐々木昭一郎という作品」と呼ぶしかないような独自性を持つ。
彼の作品はDVD等のパッケージでは商品化されていない。NHKアーカイブス あるいはスカパー!等で、十年に一度くらいの割合で再放送されるときに鑑賞するしか方法はない。(私もリアルタイムではほとんど見たことがなく、80年代後半に再放送されたときに代表作を見て、衝撃を受けた)
このたび、初映画完成に関連して、NHK BSプレミアムで下記作品が放送されることになった。明日3日から始まる。そのことを「情報」としてここに記したい。
【アーカイブス放送 スケジュール】
11月3日(月・祝)9:00〜|
「四季・ユートピアノ」(再放送:11日 [火] 24:45〜)
11月4日(火)9:00〜
「マザー」(再放送:12日 [水] 24:45〜)
11月5日(水)9:00〜
「さすらい」(再放送:13日 [木] 24:45〜)
11月6日(木)9:00〜
「夢の島少女」(再放送:14日 [金] 午前25:00〜)
11月7日(金)9:00〜
「川の流れはバイオリンの音」(再放送:15日 [土] 2:15〜)
11月9日(日)16:00〜17:29
「伝説の映像作家 佐々木昭一郎 創造の現場」
(『ミンヨン倍音の法則』に5年間密着した記録)
特に、ロックやフォーク音楽の聴き手にとっては、1971年制作の『さすらい』は必見だ。若き日の遠藤賢司と友川かずきが出演している。(エンケンは日比谷野音で「カレーライス」を弾き語りしている) 70年代前半という時代の風景と、「さすらう」感受性が、類い希な映像と音楽によって、記録というか記憶されている。
私はその当時十代前半で、出演者よりも十歳ほど若い世代に属しているが、あの時代の記憶はとても懐かしく、自分自身の感受性の原点となっている。
彼の作品を未見の人に、そして、あの時代を直接知らない若い世代に、ぜひ「佐々木昭一郎という作品」と遭遇していただきたい。
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