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2014年10月13日月曜日

山梨という島・沖縄という島

 前回、「PEACETIME BOOM」という「平和景気」を意味する言葉の持つ批評性について書いた。それと共にもう一つの意味が思い浮かんできた。

  ステージの背景にある「25 PEACETIME BOOM」という言葉には、「THE BOOM」が「25」年の間、「PEACETIME」、「平時」のままに、「大事なく幸せに」バンド活動を続けられた、ということへの感謝が込められているのかもしれないと思った。解散発表時のコメント「たくさんの、本当にたくさんの愛とぬくもりに包まれ、僕たちは日本一幸せなロックバンドでした」という言葉通り、その25年間は本当に幸せな時間だったのだろう。(そのとき、5年間、アマチュア・インディーズ時代を含めても10年しか活動できなかった志村正彦のことを考えてしまった。彼の音楽活動は、ザ・ブームのように幸せに完結することはなかった)

 ライブは、『君はTVっ子』から始まった。1989年5月発表のデビュー・シングル。スカを基調としたリズムと歌詞の言葉が見事にはまった愉快な曲。最初から、会場は熱気に包まれる。次は『星のラブレター』。甲府の「朝日通り」(私は子供の頃すぐ近くで暮らしていた。思い出の詰まっている場所だ)が舞台となっている。ハーモニカの歯切れがよい。歌い終わった宮沢和史の表情にも深い想いが去来しているように見えた。

 数曲を経て、『からたち野道』。ザ・ブームの中でも、最も心に染みる歌。「心」というよりも、聴き手の「記憶」に染みいる、と書くべきだろうか。この歌を聴くと、甲府盆地の何処とも言えないのだが、かすかに記憶のある「野道」が浮かんでくる。私たちがここに今在ることにつながる記憶、哀しいような懐かしいような記憶。そのような記憶をこの歌は伝えている。

 『おりこうさん』という曲の間奏部では、途中で奥田民生の『風は西から』などをメドレーで演奏した。なぜ、奥田民生なのか?1990年前後のいわゆる「バンドブーム」の時代、ザ・ブームはレピッシュやユニコーンと共に、日本語ロックの歌詞を深化させた。宮沢から同時代人奥田へのオマージュなののだろうか、あるいは解散するザ・ブームから再結成したユニコーンへのバトンタッチの意味なのか。よく分からないが、いきなりの奥田民生は面白かった。

 終わり近くになり、この曲を作るためにこれまでの二十数年間があったというMCと共に、『世界でいちばん美しい島』が演奏された。2013年リリースの同名の14枚目のアルバムが結局最後の作品となった。彼らの旅の終着点となったのがこの歌だ。

  春を知らせる紅の花 真綿が開いた夏の雲
  空を切り取る秋の月 冬を集めた母の鍋


  世界でいちばん美しい島 それは僕らの生まれ島
  ここで生まれた 誉れを胸に 命の歌を歌い続けよう


 この曲の演奏中、舞台のスクリーンに、甲府盆地の風景、『釣りに行こう』の舞台となっている荒川上流、盆地から御坂山系越しに見える富士山、馴染みの景色が次々と静止画で投影された。
 歌は歌であり、歌を補完するような映像が流れるのは過剰な演出になり、疑問だ。だが、この時の映像は違った。幼少期から親しんでいるこの土地の風景が、この『世界でいちばん美しい島』の歌詞の言葉とシンクロするように映し出されると、何かこの上なく、突き動かされるものがあった。

 映像は次第に、沖縄の風景へと変わっていく。山梨から沖縄そしてブラジルを始めとする海外へと広がっていった彼らの音楽の軌跡を表しているようだった。
 山に囲まれた山梨、海に囲まれた山梨、どちらも「島」。山梨も沖縄も、そこで生まれ育ち、暮らし、やがて亡くなる人々にとっての「世界でいちばん美しい島」だ。
 映像の最後は、甲府の北部を流れる荒川上流だと思われる景色で終わる。川は、流れ流れ行く宮沢和史の存在の原点なのだろう。

 宮沢は、『世界でいちばん美しい島』という題名に込めた思いについて次のように述べている。( http://news.walkerplus.com/article/39120/

聞いた人が自分の故郷を思い出してくれると嬉しい。自分の故郷を愛おしく思うこと、そこに誇りを持つこと、それを高らかに人に語れること、今僕らに必要なのはそういった事じゃないでしょうか。東日本も含め、沖縄基地問題や日本の経済の悪さなど、いろんなことがこの国にはあります。「世の中って駄目だな」って言ってても何も変わらなくて、誰かに任せてたって何も変わるわけじゃない。でも何かを変えるためには、自分の生まれた場所が好きでいることが大事だと思うんです。そうすると自分に誇りが持て、仲間に誇りが持てるし、団結もする。何かを変えていく原点はそこなのではないでしょうか。聞いた人が自分の生まれた場所や故郷を思い出すような、愛おしく思えるような、そんな作品になってほしい。

 「世界でいちばん美しい」のは「国」という単位ではなく、あくまで「島」という単位だ。この場合の「島」は「自分の生まれた場所や故郷」を指し示す。宮沢は注意深く「島」という言葉を選んでいる。そして、その「島」は「何かを変えるため」に存在する場であると告げている。

  山梨という「島」、沖縄という「島」。ザ・ブームの四人、宮沢和史、小林孝至、山川浩正、栃木孝夫の25年間の旅は、「世界でいちばん美しい島」を見つける旅であり、「何かを変えていく原点」を見つめ直す旅であった。
 歌の作り手だけでなく、聴き手にとっても、長い年月を経た後に、歌の意味が見いだされるものかもしれない。作り手と受け手が同じように意味を見いだし、その意味を共有するのなら、その旅はとても幸せなものだったと言えるだろう。

 アンコールが2回、ラストは『中央線』。3時間に及ぶライブは終わった。
 「走り出せ 中央線 / 夜を越え 僕を乗せて」と歌われる『中央線』は、やはり、山梨に住む者にとって特別な歌だ。ほんとうに最後なのだなと、心と耳を澄ませて聴いた。
 2014年10月5日の甲府でのザ・ブーム解散ライブは、永遠に記憶に残り続けるものとなるだろう。
 

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