公演名称

〈太宰治「新樹の言葉」と「走れメロス」 講座・朗読・芝居の会〉の申込

公演概要

日時:2025年11月3日(月、文化の日)開場13:30 開演14:00 終演予定 15:30/会場:こうふ亀屋座 (甲府市丸の内1丁目11-5)/主催:甲府 文と芸の会/料金 無料/要 事前申込・先着90名/内容:第Ⅰ部 講座・朗読 「新樹の言葉」と「走れメロス」講師 小林一之(山梨英和大学特任教授)朗読 エイコ、第Ⅱ部 独り芝居 「走れメロス」俳優 有馬眞胤(劇団四季出身、蜷川幸雄演出作品に20年間参加、一篇の小説を全て覚えて演じます)・下座(三味線)エイコ

申込方法

右下の〈申込フォーム〉から一回につき一名お申し込みできます。記入欄の三つの枠に、 ①名前欄に〈氏名〉②メール欄に〈電子メールアドレス〉③メッセージ欄に〈11月3日公演〉とそれぞれ記入して、送信ボタンをクリックしてください。三つの枠のすべてに記入しないと送信できません(その他、ご要望やご質問がある場合はメッセージ欄にご記入ください)。申し込み後3日以内に受付完了のメールを送信します(3日経ってもこちらからの返信がない場合は、再度、申込フォームの「メッセージ欄」にその旨を書いて送ってください)。 *〈申込フォーム〉での申し込みができない場合やメールアドレスをお持ちでない場合は、チラシ画像に記載の番号へ電話でお申し込みください。 *申込者の皆様のメールアドレスは、本公演に関する事務連絡およびご案内目的のみに利用いたします。本目的以外の用途での利用は一切いたしません。

2014年10月26日日曜日

「時」と「影」-『赤黄色の金木犀』2 [志村正彦LN93]

 『赤黄色の金木犀』は、ロック音楽では標準的な四分ほどの時間を持つ作品だ。
 以前ある若者が、この数分の短い時間の中で金木犀が香り始め、曲が終わると共にその香りが消えていくように聞こえてくる、と筆者に語ってくれたことがある。四分という時の中で、金木犀が香り続ける。若者らしい感受性にあふれた捉え方だ。

 短い時の流れの中で生まれそして消えていくもの。ロック音楽そのものが数分間の生成と消失をその宿命としている。そしてまた、時の中の生成と消失は、志村正彦が繰り返し描いたモチーフでもある。『赤黄色の金木犀』は次のように歌い出される。

  もしも 過ぎ去りしあなたに
  全て 伝えられるのならば
  それは 叶えられないとしても
  心の中 準備をしていた


 「過ぎ去りし」という文語的な表現の助動詞「し」は、過去の出来事を主体的に直接的に経験したことを表す。「あなた」と歌の主体との間には、後戻りすることのない時間が流れている。
 「もしも」「のならば」という仮定は、途中に「叶えられないとしても」という留保を挟みながら、「準備をしていた」という帰結に掛かっていく。歌の冒頭にある、この複雑な仮定と帰結のあり方は、歌の主体「僕」の「時」への関わり方がかなり独特であることを告げている。

  冷夏が続いたせいか今年は
  なんだか時が進むのが早い
  僕は残りの月にする事を
  決めて歩くスピードを上げた


 「冷夏」が続くと「時が進むのが早い」。秋がすでに訪れてしまった気分になるのだろうか、季節と時の歩みに敏感な「僕」は、「歩くスピード」を上げる。季節は時の循環の感覚を支えるが、「冷夏」のように循環のリズムが崩されると、時の歩みが一気に早まる。

  いつの間にか地面に映った
  影が伸びて解らなくなった
  赤黄色の金木犀の香りがして
  たまらなくなって
  何故か無駄に胸が
  騒いでしまう帰り道


 「影」を「僕」の「影」だと仮定してみる。そうなると、「影」は「僕」の「分身」ともなる。
 「僕」は僕の「影」を追いかける。あるいは僕の「影」が「僕」を追いかける。
 一日も終わる頃、夕陽をあびて、「影」は遠く果てまで伸びていく。陽も落ちると、周囲に溶けこみ、「僕」は「影」が解らなくなる。一日の時の流れの中で、「僕」は「影」を通じて、自分自身の「時」を追いかけているのかもしれない。

 それでも、金木犀は香り続けている。あたりの風景を香りで染め上げている。
 「僕」は平静でいられなくなり、「何故か」「無駄に」「胸が」「騒いでしまう」。一つひとつの言葉は分かりやすいものであっても、この配列で表現されると、なかなか解読しがたい。言葉の連鎖のあり方が単純な了解を阻んでいる。なぜ、「無駄に」胸が騒ぐのか。その理由は明かされることがなく、行間に沈められている。「僕」の「胸」にある想いを描くことは不可能だが、「無駄に」という形容は痛切に響く。

 
 歌の主体「僕」は「帰り道」にいる。「僕」は僕の「影」と共に、日々の生活の中での短い「時」の旅を終えて、帰路についている。楽曲のリズムも、次第にテンポが速まり、歌の言葉を追いかけるようにして、四分間の音楽の旅を終える。

    (この項続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿