この週末、二人で富士吉田に出かけた。一昨年、昨年の志村正彦展の実行委員や関係者の方々とお会いできるという、思いがけない、貴重な機会を得て、春の吉田を訪れることとなった。
今、「吉田」と書いたが、「富士吉田」という名は1951年にこの地に「市」が誕生する際につけられた新しい名称であり、伝統的には「吉田」と呼ばれていた。その方が簡潔なこともあって、山梨の人は「吉田」と言うことが多い。
甲府から吉田まで、車窓の風景を眺める。御坂の山に沿って標高が高くなると、まだところどころに桃の花がきれいに咲いていた。春の桃花、その濃い彩りを楽しんだ。
御坂を超え、下り坂へ。以前は、カーブを幾度か回り、時折顔を出す富士を見ながら、河口湖へと少しずつ下っていったが、数年前に開通した新しいトンネルを利用すると、一直線に河口湖まで進んでいく。御坂峠からワープしていくかのような奇妙な感覚にとらわれる。
産屋が崎を通り抜けると、湖畔の桜はまだ咲いていた。外国からの観光客が富士山と桜という日本を象徴する光景を撮影している。
湖畔を抜け、しばらくすると、おひめ坂通り、そして「いつもの丘」、新倉山浅間公園に着いた。新しい道ができてから、甲府から吉田までの距離がずいぶん近くなったような気がする。
ここは桜の名所。今年の桜はどこでもかなりの早咲きだった。標高の高い吉田ならまだ少しは咲いているかもしれないという淡い期待をしていたが、もう葉桜だった。二三日前の風で散ってしまったらしい。葉桜という言葉も不思議だ。葉桜にも桜を感じる、それが私たちの感性かもしれない。階段を少しだけ上がり、「桜の季節」が過ぎようとしている吉田の街をしばらくの間眺めていた。
志村正彦は、この場所で、「桜の季節」が過ぎる頃の風景をどのように見つめていたのか。彼の歌を愛する聴き手なら誰しもが思うだろうが、そのような問いを心の中でささやいた。
雪どけが始まり、白色と地色の配合をゆるやかに変化させていく春の富士。秀麗な美がおだやかで優しい美へと次第に移ろい、日の光も風の流れも変わっていくこの季節は、富士吉田で暮らす人々にとって、一年の内でも最も季節の変化を感じる時期ではないだろうか。そのようなことを考えながら、とても大切な人々と再会するために、「いつもの丘」を下りていった。
付記
今回の原稿を書き上げた後で、今日という日、9年前の2004年4月14日に、『桜の季節』『桜並木,二つの傘』のCDシングルで、フジファブリックがメジャーデビューしたことに気づいた。
志村正彦は、1999年の上京後、2000年に吉田の友人、渡辺隆之・渡辺平蔵・小俣梓司と「富士ファブリック」を結成、メンバー交代を経て、地道なインディーズ活動と並はずれた努力の末に、自らの歌を広く持続的に伝えることのできるメジャーという場にたどりつくことができた。上京から5年の年月が流れていた。
今日はその記念日である。調べると、9年前も日曜日で天気は晴れだったようだが、富士吉田の桜や春の富士はどのような姿を現していたのか、そんなことを想わずにいられない。
公演名称
〈太宰治「新樹の言葉」と「走れメロス」 講座・朗読・芝居の会〉
公演概要
日時:2025年11月3日(月、文化の日)開場13:30 開演14:00 終演予定 15:30/会場:こうふ亀屋座 (甲府市丸の内1丁目11-5)/主催:甲府 文と芸の会/料金 無料/要 事前申込/先着90名 *下記の申込フォームからお申し込みください。
公演内容
公演内容:第Ⅰ部 講座・朗読 「新樹の言葉」と「走れメロス」講師 小林一之(文学研究 山梨英和大学特任教授)朗読 エイコ、第Ⅱ部 独り芝居 「走れメロス」俳優 有馬眞胤(劇団四季出身、蜷川幸雄演出作品に20年間参加、一篇の小説を全て覚えて声と身体で演じる)・下座(三味線)エイコ
申込案内
下記の申込フォームから一回につき一名のみお申し込みできます。記入欄に ①名前 ②メールアドレス ③メッセージ欄に「11月3日公演」と記入して、送信ボタンをクリックしてください。(ご要望やご質問がある方はメッセージ欄にご記入ください) *申し込み後3日以内に受付完了(参加確定)のメールを送信しますので、メールアドレスはお間違いのないようにお願いします。3日経ってもこちらからの返信がない場合は、再度、申込フォームの「メッセージ欄」にその旨を書いて送ってください。
*先着90名ですので、ご希望の方はお早めにお申し込みください。 *申込者の皆様のメールアドレスは、本公演に関する事務連絡およびご案内目的のみに利用いたします。本目的以外の用途での利用は一切いたしません。
0 件のコメント:
コメントを投稿