2026年8月12日水曜日

黒板当番・五十嵐哲也氏の黒板チョークアート

  黒板当番さんが志村正彦を描いた黒板画は志村ファンの間で有名である。このブログでも何度か言及したことがある。

 志村の黒板画は、毎年7月、富士吉田市の防災無線のチャイムが「若者のすべて」に、12月に「茜色の夕日」に替わるときに下吉田駅の広場で披露されたり、ときどき富士急ターミナルビル「Q-STA」内のショップで展示されたりしてきた。また、10月のハタオリマチフェスティバルでも黒板画のミニギャラリーやワークショップが開かれてきた。

 この黒板当番さんの活動が、7月29日に地元局のテレビ山梨UTYの「スゴろくニュース」で「地場産業活性化にも貢献 繊細な技!黒板チョークアート」と題して特集として放送された。取材やインタビューはUTYの西垣友香アナウンサー。黒板当番さんは本名の五十嵐哲也として登場。この番組でも紹介されたが、五十嵐氏は山梨県産業技術センターの富士技術支援センターに勤めていて、山梨の織物の研究や技術開発や支援を行っている。

 僕が山梨英和大学で担当している山梨学Ⅱでは、毎年、富士吉田のハタオリマチフェスティバルを見学しているが、2019年から毎年、その事前学習の講義を五十嵐氏に依頼してきた。「山梨ハタオリ産地の歴史とブランディング活動」と題する講義は、富士吉田市や西桂町の伝統的産業である機織産業の歴史と最近のブランディング活動についての理解を深め、山梨県の地場産業の現状と課題、その可能性について考えるものだった。百枚に及ぶ美しいデザインのSLIDEと手製の機織器具も使った講義は学生から非常に好評であった。

 そもそもこの講義で会った際には、僕は五十嵐氏が黒板当番であり、五十嵐氏も僕が偶景webの主催者であることを知らなかった。(当時はまだ黒板当番というペンネームで発表されていた)。それまで互いに志村正彦の黒板画と志村正彦ライナーノーツの存在を知っていたが、二人とも講義が終わった後でたまたま互いが誰であるかに気づいた。「あなたがあの……」と驚くことになった。その出来事を今は懐かしく想い出す。


 UTYの「スゴろくニュース」の映像は一昨日からYouTubeのUTYテレビ山梨公式チャンネルに〈「仕事帰りにプライベートで描き続けていたら、だんだん面白く」黒板チョークアート作家の男性 地元の織物産業の活性化にも一役 山梨〉というタイトルでアップされているので、ぜひご覧いただきたい。また、ニュース記事の方はTBS NEWS DIGで掲載されている。




 YouTube映像から、大切な箇所を文字化して記録しておきたい。

(ナレーション)今月7日、富士吉田市内に流れる夕方6時のチャイムの音が、地元出身のミュージシャン故志村正彦さんが作曲した「若者のすべて」に切り替わりました。「黒板当番」の名前で活動する五十嵐哲也さんは、毎年行われるこのイベントに合わせ、志村さんの黒板チョークアートを描いています。五十嵐さんの作品は一部のファンにすっかりお馴染みで、記念写真を撮っていく人もいます。〔……〕富士急ターミナルビル「Q-STA」内にあるショップは、五十嵐さんの黒板チョークアートが生まれた場所でもあります。実は五十嵐さんは県技術センターの職員で、1999年から富士北麓地域の織物業の支援に携わり、今も継続する様々なプロジェクトの立ち上げに関わってきました。

(西垣友香アナウンサー)そもそもなぜここに黒板チョークアートがあるんでしょうか?
(五十嵐哲也氏)織物工場の方々がここでグループでお店を作るというオープニングの時にお手伝いをしていまして、その時に「こういう黒板でチョークで看板があれば人のぬくもりが感じられてとてもいいんじゃないか」と提案をさせていただいて。ま、私が仕事帰りにプライベートで書き続けようとやっていたんですが、だんだん書く方が面白くなっていったので、むしろ自分の趣味をここでさせていただいているような感じになってきました。

(ナレーション)五十嵐さんは去年、自身の黒板チョークアートにオリジナルの物語を組み合わせた『環の国にて』を出版しました。未来の宇宙が舞台で、地球の女の子と他の星の生き物を富士北麓の産業である織物が結ぶ物語です。〔……〕そしてもう1つ、五十嵐さんの宇宙をテーマにした作品が、富士山の美術館として知られる「フジヤマミュージアム」に展示されています。

(西垣友香アナウンサー)今後どのような活動をしていきたいと思いますか?
(五十嵐哲也氏)私は本業で織物の産業の支援をさせていただいているんですが、黒板を通して織物のことを知ってくださったという人がいたり、黒板とチョークという非常にシンプルな画材の中には今後もまだまだ可能性があると思いますので、それを探っていきながら、地元の隠された魅力、まだ伝わっていない魅力を伝える一助になればなと思っています。


 五十嵐氏が黒板チョークアートを始めた経緯やその後の展開がよく分かるインタビューだ。プライベートな作品(work)が次第にパブリックな活動(action)に発展している。志村正彦を描く黒板画を愉しみにしているファンは多いだろう。僕はこのブログの文章を通じて志村の歌について語ってきたのだが、黒板アートと文章テクストという媒体の違いはあるが、志村正彦を描いたり語ったりするという表現行為とそれによる活動をしているという点において、僕は五十嵐氏を勝手に「同志」だと思っている。


 黒板画の志村正彦はその表情がとても魅力的だ。五十嵐哲也氏の想像力によって、チョークの繊細な点描の技法を通して、多彩で豊かな志村の姿が自在に表現されている。生き生きとしている。黒板画を飛び出して志村が歌い出すかのように感じる。

  7月10日に下吉田駅で展示された黒板画の志村正彦は少し微笑んでいて柔らかい眼差しをしている。二十歳前後の志村のイメージだろうか。私たちが知らない志村の表情がその場に現れてくる。

 五十嵐氏は、志村正彦の他にも自ら創造したキャラクターを黒板画で描いている。その作品は富士北麓のハタオリともコラボレーションしていく。この地域のハタオリという産業や文化を振り返り、その現在の姿を明らかにし、未来の可能性を探究していく試みでもある。


 番組でも触れられていたが、五十嵐氏は昨年2025年10月『環の国にて』という本を MOKUHON PRESSから出版した。土星の〈環の国〉で育った〈レア〉が小さなロボットの〈トコロボ〉を見つけたことを契機に世界の隠された秘密を探索していくSF小説。その物語に〈シャトル〉と富士山の麓の街やハタオリが織り込まれていく。普遍性と地域性の二つを融合した優れた作品である。見開きの二頁に文章テクストと黒板アートを配置したページデザインも秀逸だ。

 この『環の国にて』の姉妹作がある。2018年12月刊行の『トコトコとスペースシャットルの宇宙のハタオリトラベル』だ。こちらには〈トコトコ〉と〈スペースシャットル〉が登場する。

 次回以降、黒板当番・五十嵐哲也氏の『トコトコとスペースシャットルの宇宙のハタオリトラベル』と『環の国にて』についてこのブログに書いていきたい。


0 件のコメント:

コメントを投稿