画家土橋芳次(1908~38年)の回顧展「短く 鮮やかに 土橋芳次回顧展」が、南アルプス市立美術館で開催中である。
1908年、土橋芳次は甲府市富竹で生まれた。県立農林学校を卒業後、独学で洋画を描き始め、34年に上京して本格的に洋画を学んだ。36年、甲府市内で第1回個展を開き、同年の文展で初入選して、山梨県内の洋画家として頭角を現した。37年に山梨美術協会の創立会員となり、第2回個展が開催された。しかし、1938年病気により29歳という若さで亡くなった。この回顧展のテーマが「短く 鮮やかに」となったゆえんであろう。
土橋の絵を初めて見たのは、昨年2024年、山梨県立美術館で開催された「山梨モダン 1912~1945大正・昭和前期に華ひらいた山梨美術」展の時だった。1937年の作品「美ヶ森」に魅了された。「美ヶ森」は八ヶ岳の尾根にある標高1500mほどの小高い丘。その丘に洋装のモダンガールが二人佇んでいる。咲き乱れる花々。向こう側に広がる高原。遠方には山脈の連なりが見える。山梨の壮大な風景とモダンで繊細な感覚が見事に融合した美しい優れた絵画だった。
実はこの展覧会の時に、私のゼミで「Kポップと韓国社会」というテーマで研究をしていた女子学生が土橋の曾孫であることを知った。もともと、この女子学生の母(土橋の孫)が県立文学館で私の同僚であったという縁もあって、私のゼミに入ることになった。そういう関係も手伝って、私はこの画家に非常に興味を持った。
南アルプス市立美術館の回顧展では、土橋家から寄贈された作品を中心に約60点の絵画や資料が展示されている。代表作の「お花畑」(1937年から1960年頃まで旧甲府駅舎の壁に掲げられていた。戦中は「出征兵士を送る絵」とも呼ばれていた)と「美ヶ森」の他に、山岳や高原を描いた風景画、コラージュ作品を載せたスケッチブック、新聞の連載記事や挿絵などが展示されていた。(同館のHPからフライヤーの表の画像を添付させていただきます)
「お花畑」も「美ヶ森」と同様に、二人の女性、花、高原、連山が描かれている。高原と洋装の女性という不思議な取り合わせがモダンな雰囲気を醸し出している。モデルとなった女性によると、一週間ほど美ヶ森に出かけて描かれたそうである。美ヶ森は八ヶ岳の尾根にある標高1500mほどの小高い丘。レンゲツツジの群生や南アルプスの山々の眺望で知られている。
「お花畑」や「美ヶ森」は、この山梨という場の中で、近景に〈花〉、近景から中継にかけて〈女性〉、中景から遠景にかけて〈高原と山〉という三つのモチーフから成り立っている。その三つの要素が写実的に遠近法的に描かれるのではなく、コラージュ的な組合せによって構成され、一つの空間の図として表現されている。時代的な制約を超えた独自性のある構図と描法である。
この展覧会にはすでに二回ほど訪れたのだが、二回目は私の義母も一緒だった。義母は甲府駅に飾られていた「お花畑」のことを鮮明に覚えていて、再会することを楽しみにしていた。会場でおよそ60年ぶりに見た画と記憶の中にある画は完全に一致したそうだ。この「お花畑」には人々の記憶に何かを刻み込む力があるのだろう。
2月8日(日)まで開催されているので、機会があったらぜひご覧になっていただきたい。
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