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2019年2月6日水曜日

2009年2月6日『ルーティーン』の誕生[志村正彦LN209]

 十年前の今日、2009年2月6日、フジファブリックの『ルーティーン』がストックホルムで誕生した。ルーティーンの十年という時が流れたことになる。

 志村正彦は「ストックホルム”喜怒哀楽”映像日記」(『CHRONICLE』付属DVD)で、「最後にちょっとセンチメンタルな曲を一発録りでもう、多分歌も一緒にやるか、まあでもマイクの都合でできないかな、もうみんなで一斉にやって『終了』って感じにしたくて」と語り、「Recording『ルーティーン』2009/2/6」というテロップがある。志村のヴォーカルとギター、山内総一郎のギター、金澤ダイスケのアコーディオンの演奏も撮影されている。演奏後にヴォーカルを入れたようだが、どちらもおそらく「一発録り」だろう。志村の声と息づかいが生々しい。

 帰国後の4月8日、『ルーティーン』は完全生産限定シングル『Sugar!!』で表題曲のカップリングとして発表された。生前のアルバムには収められなかったが、完全生産限定BOXの『FAB BOX』(2010/06/30、復刻版2014/10/15)の『シングルB面集 2004-2009』に収録された。シングルもアルバムも完全生産限定でパッケージ作品としては入手困難であり、この歌の知名度は低い。関連情報も雑誌やネットなどいろいろと探してきたがなかなか見つからない。あきらめていたが、昨日、貴重なインタビューを見つけることができた。「OKMusic」という音楽サイトに掲載された記事で、主に『Sugar!!』について志村正彦と加藤慎一が語っている。掲載日は2009年3月20日、取材者は「ジャガー」とある。
 「さまざまな発見を経験したレコーディングで誕生したのが、2曲目の「ルーティーン」なんですよね。」という質問に対して志村はこう答えている。


日本でデモは作ってたんですけど、この曲だけ歌詞は向こうで書いたんです。向こうの空気を吸って書いてみると、新しい何かなるんじゃないかなって。でも、「ルーティーン」の曲名に連想されるように、どこにいても自分は変わらないというか、結局やることは一緒で、自分は自分なんだなってことに気付きました。そういうものが歌詞にも表れたんじゃないですかね。


 「ルーティーン」のデモは日本で作っていたが、歌詞はストックホルムで書いたという貴重な証言である。何となくそんな感じがしていたが、本人によって裏付けられた。『ルーティーン』の歌詞はスウェーデンのストックホルムで作られた。その事実がこの歌にどのような影響を与えているのか。

 志村は、「向こうの空気を吸って書いてみると、新しい何かなるんじゃないかなって。」と述べている。その後に「でも」とあり、「どこにいても自分は変わらない」と続いているが、そのような自己認識は別にして、ストックホルムという場で生まれたこの歌には何か根本的に新しいものがある。過去の志村作品のどれにも似ていない。

 一年半ほど前の夏の季節にストックホルムに出かけたことは以前このブログに書いた。2009年の1月から2月にかけて『CHRONICLE』の録音のために、フジファブリックの一行はセーデルマルム島の中心街のホテルに滞在していたようだ。このホテルから少し歩くとスルッセン(水門)があり、そこからはガムラ・スタン(旧市街)の美しい眺めが広がる。DVDにこの界隈を散策するシーンが入っている。
 夏のストックホルムには穏やかな風情があったが、彼らが経験した冬のストックホルムには厳しい気候ゆえの引き締まるような「空気」が漂っていたのかもしれない。


(スルッセンから眺めたガムラ・スタン  2017.8)



  日が沈み 朝が来て
  毎日が過ぎてゆく

  それはあっという間に
  一日がまた終わるよ

  折れちゃいそうな心だけど
  君からもらった心がある

  さみしいよ そんな事
  誰にでも 言えないよ

  見えない何かに
  押しつぶされそうになる

  折れちゃいそうな心だけど
  君からもらった心がある

  日が沈み 朝が来て
  昨日もね 明日も 明後日も 明々後日も ずっとね
   
      ( 『ルーティーン』 詞・曲:志村正彦 )


 雪と氷のストックホルムの街に触発されたかのように言葉を凝縮している。簡潔な表現によって、想いを重ね、祈りを深めていく。

 志村正彦の歌は新しい地平に歩み始めていた。

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