10月は、芥川龍之介の小説についての論文を書いたり、〈甲府文と芸の会〉の公演の準備をしたりと忙しい日々を送っていて、甲府シアターセントラルBe館には二度しか行けなかった。
『六つの顔』
狂言「川上」の能舞台は宝生能楽堂だった。万作が上演の直前に鏡の間で自身の姿を映し出す場面、その瞬間の眼差しに惹かれた。自分の姿を見つめることで役柄に変身していくようだった。(私の妻は趣味として能を稽古していた時があり、宝生能楽堂で二度ほど能を舞ったことがある。妻はこの鏡の間での緊張感が忘れられないと話していた)他にも、楽屋で弟子たちが万作に挨拶をする場面の映像が印象的だった。
『入国審査』
ディエゴとエレナのカップルがスペインのバルセロナからアメリカへ移住するためにニューヨークの空港に降り立つが入国審査で尋問される。監督はアレハンドロ・ロハスとフアン・セバスティアン・バスケス。取調室で容赦なく尋問されるなかでディエゴの過去の婚約歴が明らかとなり、エレナはディエゴに疑念を抱くようになる。二人の追い込まれ方が尋常でなく、アメリカの入国管理の厳しさに直面する。
海外旅行の際には誰もが入国審査で緊張するだろう。通常はパスポートの確認後にすぐに通過できるが、ある時に同行者がかなり時間がかかったことがある。どうしたのだろうかと心配したが、そのうちに何事もなく通過できたので安堵した。この映画も監督の実体験に着想を得て制作されたそうである。その実体験がリアリティを与えているのだろう。
宝生能楽堂の楽屋や舞台裏。空港入国審査の取調室。
全く異なる場ではあるが、表側では見ることのできない裏側での出来事、人間の姿が印象深い二つの映画であった。
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