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2021年9月19日日曜日

「若者のすべて」隅田川花火の番組、ビコマナ[志村正彦LN289]

  もう九月の下旬だが、今回も「若者のすべて」の話題を二つ取り上げたい。

 昨夜、テレビ東京の『隅田川花火大会 特別編~ありがとう&がんばろう日本2021~』本編の導入部で、2020年の映像がインサートされて「あれから1年 願いは届かなかった」のテロップと共に、フジファブリック「若者のすべて」の音楽が始まった。

 隅田川の風景、夕暮れ、ひまわり、水田と山、コロナ禍の状況、ブルーインパルスの飛行、オリンピック開会式の花火、オリンピックの様子と、2021年の夏の映像を背景として、2分弱に短縮されていたが、志村正彦の声が「最後の最後の花火が終わったら/僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ」まで流れていた。「若者のすべて」は、夏の風物詩の花火を歌う代表曲として確固たる位置を占めつつあると言えよう。

 『隅田川花火大会 特別編』の花火は、〈隅田川の花火師たちが集い、コロナ禍で奮闘する医療従事者に敬意を、東京オリンピック・パラリンピックで希望と感動を与えてくれたアスリートたちへの感謝の気持ちを込めて打ち上げる、希望の花火〉というコンセプトだった。44年の歴史を振り返る、懐かしい映像もあった。花火は昭和という時代によく似合う。

 実際の花火は所沢の西武園ゆうえんちで打ち上げられた。台風の影響による雨天だったのが残念だったが、2021年夏の最後の最後を告げる花火となった。


 一週間ほど前の9月12日、南アフリカの姉弟ミュージシャン「ビコマナ」Biko's Mannaが「若者のすべて」のカバーをyoutubeに発表した。昨年、NHKの番組で日本の楽曲を日本語でカバーする「ビコマナ」のことは知っていた。日本語の歌と南アフリカの姉妹という組合せが何とも新鮮だった。

〈フジファブリック 若者のすべて  ビコマナ〉この素晴らしい映像を紹介したい。



 演奏者は、姉Biko ビコ、弟Manna マナ、そしてパーカッショニは父Sebone シボーネ、ダンスをしているのは弟Mfundo フンドゥだと思われる。

  彼らをサポートするストリートアートチーム「Urban Cohesion」代表の服部アラン氏は、BuzzFeedの記事で次のように述べている。 〈スピッツ、椎名林檎、King Gnu…アフリカの姉弟アーティストはなぜJ-POPを"日本語で"をカバーするのか〉(石井 洋 BuzzFeed Staff, Japan)

・基本的にチームメンバーは日本語がまったく話せないので、歌詞をローマ字で見て、曲を聴いて耳で雰囲気を掴んでいます。
・それでも声に出してみた発音で伝わるのかわからないし、YouTubeで求められるクオリティがどの程度かもわからない。とにかく沢山聴いて、時間をかけて取り組んでいました。
・日本の曲には綿密に作りこまれている作品が多く、いろいろと学びがあるようです。音作りだったり、音符の数だったり、曲の聴かせ方を細部までこだわっていたり。


 つまり、ビコマナは「若者のすべて」の意味を理解して歌い、奏でているのではない。「若者のすべて」の声や音を純粋な響きとして耳で受けとめ、彼らなりに再現しているのだ。特に、「何年経っても思い出してしまうな/ないかな ないよな きっとね いないよな」の「な」の頭韻と脚韻の響きが力強くそして切ない。ビコが時々胸に手を当てるしぐさも曲の雰囲気に合っている。(ところで、このBikoビコという名は、ピーター・ゲイブリエル「Biko」で歌われる、あのスティーヴン・ビコ(Stephen Biko)と関わりがあるのだろうか)最後にフンドゥが紙飛行機を飛ばそうとするシーンも可愛い。紙飛行機は「若者のすべて」をのせて日本の空に飛んでくるかのようだ。

 ビコの歌は、志村正彦の歌詞の日本語の響きを聴き手に伝えている。歌の言葉の不思議なところである。言葉の意味はそのままでは国境を越えられないが、言葉の音と響きは国境を越えるのだ。

 「僕ら」は同じ空を見上げ、同じ響きを聴いている。

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