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2020年3月22日日曜日

コメントの紹介と対話 [志村正彦LN250]

 志村正彦ライナーノーツは今回で250回目。この連載を始めたときには漠然と300回くらい続くかなと思っていたので、その行程の6分の5の地点までたどりついた。平均して一年間で30回くらいなので300回に到達するには二年近くかかるだろう。(ブログ開設が2012年末だから2022年になるかもしれない。十年で300回という計算になる)多くもなく少なくもない数だろうが、300回に向けて書いていきたい。

 前回の記事に二人からコメントが寄せられた。とてもありがたい。
 bllogerのコメントは隠れてしまいがちなので、今回は紹介させていただくと共に、二人の発言に触発されて考えたことを記したい。

 最初の方からは、「1回目のテレビ出演は民生さんの「音楽戦士 MUSIC FIGHTER」(10/26オンエア)ではないかと思います」と教えていただいた。「滅多にない地上波、特別思い入れのある楽曲、しかも憧れの民生さんの番組ということで、気合が入りまくったのでしょうね。すっかり声かれちゃってて」とその様子と感想が書かれていた。

 二人目の方からは、「『音楽戦士 MUSIC FIGHTER』はYouTubeにアップされてますのでよかったら是非チェックされてみてください!」という情報をいただいた。早速検索してみると、「2007年 音楽戦士 MUSIC FIGHTER奥田民生とフジファブリック」という動画が見つかった。志村さんと民生さんのコメントが興味深かった。残念ながら『若者のすべて』の演奏シーンはなかったが、この番組の雰囲気は伝わってきた。
 そして次の言葉が心の中に刻まれた。一人目の方と二人目の方の順でここに引用させていただく。


一度ゆっくり休んでほしかった、と思わずにはいられません。
でもそんな彼の作った楽曲を愛しているので、結局は感情の持っていき場がなくなってしまうのですが。


2007年頃の志村くんは、恋をしていたらしいので音楽制作の苦しさとは別に少しくらい幸せな時間があったはずと思いたいです。後のインタビューで結局独りになってしまったと言ってましたが。


 愛が込められた言葉である。音楽を深く聴くためには、その音楽家を愛することが必要だ。時が経つ共に、この愛は純粋なものになっていく。作家とその作品に対する愛、創造する行為への愛はそのような本質を持つ。

 「MelodiX! 2007/11/24」の『若者のすべて』では、志村のやわらかくて切ない声が届いてくる。やや上方に向けられた眼差しも綺麗に何かを見据えている。でも、あきらかに痩せている。一生懸命に歌っている姿が、逆に痛ましい。「一度ゆっくり休んでほしかった」という言葉に深く頷く。それでも、「音楽制作の苦しさとは別に少しくらい幸せな時間があったはずと思いたい」とされる時間もあったのかもしれない。

 二人のコメントを読んでからあらためて、BSテレビ東京で発掘された「MelodiX!」の映像を見ると、「会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ」のところで、志村がまぶたを閉じる瞬間の表情が切々とこちらに迫ってくる。あの言葉とあの表情が『若者のすべて』の核にあるのだろう。それは志村正彦固有のものである。この曲は多くのアーティストに歌われてきた。ただし、「まぶた閉じて浮かべているよ」のところをリアルに歌ったヴァージョンを聴いたことはない。
 この歌は、「まぶた閉じて浮かべている」ようにして歌い、そして聴く作品であろう。

 この曲がたくさんカバーされてきたことは素直にうれしい。でもカバーされればされるほど、『若者のすべて』は、志村正彦という作家の作品であるという原点に戻ってくる。歌を創造するという原点に回帰してくる。
 その原点に、作家とその作品に対する愛が存在している。


 【追伸 2020.3.23】
 前回の記事への新たなコメントで、YouTubeのチャンネル名maimimainに、『若者のすべて』演奏シーンを含む「音楽戦士 MUSIC FIGHTER」の映像があることを教えていただいた。早速見たが、「練習しすぎて声嗄れてて、本番で声が出なくて。で、うちひしがれて」という志村さんの発言がよく理解できた。特に「まぶた閉じて浮かべているよ」「同じ空を見上げているよ」のところが苦しそうだ。でも確かに、コメントを寄せられた方の「一生懸命歌ってる志村くんに心打たれます」という言葉のように、声の不調に抗うようにして、歌の真実をなんとか伝えようとしている。その志と姿に志村正彦を感じる。

 それから番組の告知をひとつ。
 NHK甲府制作の『にっぽん ぐるり「若者のすべて~フジファブリック・志村正彦がのこしたもの~」』が、3月26日(木) 午後3時08分からNHK総合で放送される。すでにNHK甲府とNHKBSでオンエアされているが、今回は地上波の全国放送なのでより多くの人々にこの番組が届くだろう。


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