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2020年3月16日月曜日

「青春を彩ったレジェンドたち」BSテレビ東京『あの年この歌 …昭和・平成ベスト100』[志村正彦LN249]

 昨夜、3月15日(日)19時00分~21時48分、BSテレビ東京で『あの年この歌 3時間スペシャル 名曲~レア曲 昭和・平成ベスト100』が放送された。事前にFujifabric_infoから、2007年の志村正彦・フジファブリック『若者のすべて』の映像がオンエアされるという情報が伝えられていたので、この日を楽しみに待っていた。

 3時間に及ぶ長い番組だった。おそらく最後の頃と予想していたらやはり夜9時半近くになって、志村正彦・フジファブリックの映像が登場した。この番組は「昭和・平成ベスト100」を10のテーマ別に10曲(10人)を選んでいた。志村正彦『若者のすべて』が最後のテーマ「青春を彩ったレジェンドたち」の第10位となったのである。
 ご覧になっていない方のためにそのシーンをテキストで記したい。このシーンのナレーションは次のように始まった。

 それぞれの青春に欠かせない名曲を歌ったアーティスト。
 まさに憧れの存在だった彼らも平成と共にその多くが世を去っていった。今回は平成に亡くなった中で各世代の青春を鮮やかに彩ったアーティストをランキング。

 テロップに「*40代~70代の男女を対象にネットでアンケート調査」とあったので、ネット調査をもとにしたランキングのようだ。この後、志村正彦が紹介された。「10位 フジファブリック 志村正彦  1980年-2009年」という表示と共に志村正彦の顔写真(撮影:江森康之)が画面に映し出される。ナレーションは次の通りである。
                                               
 10位 フジファブリック 志村正彦。
 ほとんどの楽曲の作詞作曲を手がけていた志村。
 彼が急逝した後、残されたメンバーはバンドを継続、数々の名曲を歌い継いでいる。生前の志村が代表曲『若者のすべて』を歌う貴重な映像が、テレビ東京に残されていた。

 こう説明された後、志村正彦が歌う映像が始まった。テロップに「月刊MelodiX! 2007/11/24」とあるが、今も続いている音楽番組である。放送されたのは次の部分。最後の一節を除いて歌詞も表示された。

 それでもいまだに街は 落ち着かないような 気がしている
 夕方5時のチャイムが 今日はなんだか胸に響いて
 「運命」なんて便利なものでぼんやりさせて
 最後の花火に今年もなったな
 何年経っても思い出してしまうな
 ないかな ないよな きっとね いないよな
 会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ

 「会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ」の代わりに画面では次のテロップが表示された。

 桜井和寿 草野マサムネ 柴崎コウ 奥田民生など
 多くのアーティストにもカバーされた名曲「若者のすべて」

 全体で1分38秒ほどの時間だった。フルコーラスでなかったのが残念だが、この番組の構成上は仕方がない。いつかフルヴァージョンを放送していただけたらありがたい。「MelodiX!」の枠内はどうだろうか。

 『若者のすべて』に続いて、10の曲、アーティストが紹介された。以下がその順位である。

 1.坂井泉水(ZARD)
 2.萩原健一
 3.はしだのりひこ
 4.加藤和彦
 5.村下孝蔵
 6.大滝詠一
 7.ムッシュかまやつ
 8.忌野清志郎
 9.HIDE、TAIJI
 10.志村正彦(フジファブリック)

 この並びに志村正彦がいることは端的に凄い。志村の一般的な知名度は高くない。視聴者の中には誰かと思った人も少なくないだろう。しかし、志村という名前を知らなくても『若者のすべて』を聴いたことはあるかもしれない。記憶のどこかにこの曲の旋律や歌詞の断片がそっと入っていることもあるだろう。知名度の問題は別にして、志村が忌野清志郎、大滝詠一と共に「平成に亡くなった中で各世代の青春を鮮やかに彩ったアーティスト」に選ばれたことをここで特筆しておきたい。志村の世代とは所謂「失われた世代」、現在30歳から40歳前後の世代が中心だろう。確かに「失われた世代」の無や空白を彩る歌でもある。

 10曲がオンエアされた後、出演者の一人ミッツ・マングローブがこう話した。

フジファブリックが入っているのはうれしいですね。今同じ事務所なんですけど、私が事務所に入る前の年に志村さんはお亡くなりになっていて。このバンドのギタリストが今ボーカリストとして歌ってて。ほんとこの「若者のすべて」っていうのは、もう若者じゃない世代なんですけどこれが流行った時って、これはすごい曲だと思って、聴いてたんで。

 昨年来の様々な番組を含め、志村正彦や『若者のすべて』へのリスペクトが伺える発言が多い。この番組全体を通じて志村の歌うシーンが繰り返し紹介されていた。制作者の想いを強く感じた。

 志村は当時のテレビ番組出演について『東京、音楽、ロックンロール 完全版』の「interview」(p225)で次のように振り返っている。

 次のシングル”若者のすべて”でテレビ何本か出ましたけど、苦い思い出ですね。頑張ったんですよ。テレビだから、テレビ出る前に歌の練習してたんです。そしたら、練習しすぎて声嗄れてて、本番で声が出なくて。で、うちひしがれて、フジファブリックはテレビに出れないなって思ってですね。テレビに出てそういうパフォーマンスをされてる方に、とても尊敬を抱くようになりました。2回目はちょっとペースがつかめて、声もちゃんと出たんですけど。でも、今もちょっと出るのは怖いです。(後略)

 以前この箇所を読んだときに、出演したテレビ番組のことが気になっていた。「何本か」とあるが、この「月刊MelodiX! 」(2007/11/24)がその中の一本だろう。この番組では志村の声はそれなりにしっかりと出ているので、この「2回目」だったのかもしれない。

 この映像の印象を書きたい。
 11月の放送ということで、晩秋を思わせるセットを背景に、志村は両国国技館ライブの時と同じTシャツの上にグレー色のパーカを着て、アコースティックギターを奏でながら歌っている。ドラムは城戸紘志。五人の演奏のアンサンブルはいつもどおり安定している。
 志村の視線は上の方に向けられている。どこか遠くの方を見つめている表情である。しかし、「まぶた閉じて浮かべているよ」のところになると、まぶたを閉じる。何かを思い浮かべるように。そしてもう一度まぶたを開く。このまぶたの開閉は『若者のすべて』の歌を支える仕草であり、歌の表情そのものでもある。

 引用箇所に「頑張ったんですよ」とあるが、そのことが充分伝わってくる映像だった。『茜色の夕日』に続く重要な楽曲であり、その出来映えに自信を持っていた作品。志村正彦はこれからの自分のあり方をこの歌にかけていた。
 しかし、『若者のすべて』は彼が想像してほどには聴き手を獲得できなかった。その歌が2020年の今、「昭和・平成ベスト100」の「青春を彩ったレジェンドたち」の10曲のひとつとして評価されている。
 このblogで何度か書いてきたが、この歌が浸透していくためには数年から十年の時間が必要だった。それゆえにこれからはおそらく、その何倍もの時間、数十年という時を経ても、『若者のすべて』は人々に聴かれていくのだろう。

6 件のコメント:

  1. はじめまして。いつもブログ読ませていただいております。

    おそらく1回目のテレビ出演は民生さんの「音楽戦士 MUSIC FIGHTER」(10/26オンエア)ではないかと思います。滅多にない地上波、特別思い入れのある楽曲、しかも憧れの民生さんの番組ということで、気合が入りまくったのでしょうね。すっかり声かれちゃってて。
    昨晩の「MelodiX!」は、両国よりもピッチが良くて安心しました(笑)
    日記やインタビューを読むかぎり2007年は志村くんにとってジェットコースターのようにいろんなことがあって混乱していたようで、、
    一度ゆっくり休んでほしかった、と思わずにはいられません。
    でもそんな彼の作った楽曲を愛しているので、結局は感情の持っていき場がなくなってしまうのですが。

    また志村くん関連の記事を楽しみにしています。

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  2. 志村さん出演番組の情報のご提供、どうもありがとうございました。「音楽戦士 MUSIC FIGHTER」をご覧になったのですね。僕はこの番組の存在も知りませんでした。
    確かに、映像として残されているものの中では、「MelodiX!」ヴァージョンは出来映えが良い気がします。志村さんのやわらかくて切ない声がこちらに届いてくる。でも痩せていて、一生懸命に歌っている姿が逆に痛ましい。「一度ゆっくり休んでほしかった」という言葉に深く頷きました。
    このようなブログを書いていますが知らないこともたくさんあるので、またなにかご教示いただければありがたいです。

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  3. 初めて投稿させて頂きます。
    「音楽戦士 MUSIC FIGHTER」はYouTubeにアップされてますのでよかったら是非チェックされてみてください!
    志村くんのコメントも可愛らしいです。

    2007年頃の志村くんは、恋をしていたらしいので音楽制作の苦しさとは別に少しくらい幸せな時間があったはずと思いたいです。
    後のインタビューで結局独りになってしまったと言ってましたが。

    次回の更新も楽しみにしております!

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    1. 情報のご提供、どうもありがとうございました。「2007年 音楽戦士 MUSIC FIGHTER奥田民生とフジファブリック」という動画が見つかりました。初めて見ましたが、志村さんの言葉も民生さんの言葉も面白いです。コメント部分だけでしたが、『若者のすべて』演奏シーンはどこかにあるのでしょうか。
      youtubeは時々、新しい動画が上げられたり、逆に削除されたりしていますね。権限の問題が複雑に絡んでくるので難しいのでしょうが、志村正彦・フジファブリックのテレビ出演番組をまとめてDVDにしてリリースしてくれないかといつも思っています。

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  4. 早速取り上げてくださりありがたいと共にお恥ずかしいかぎりです。

    もっと詳しくご説明すればよかったですね。

    YouTubeのチャンネル名がmaimimainです。
    シンプルに「若者のすべて」で探してみてください!
    削除されてませんよ。

    一生懸命歌ってる志村くんに心打たれます。

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    1. どうもありがとうございました。やっと見ることができました。志村さんが「練習しすぎて声嗄れてて、本番で声が出なくて。で、うちひしがれて」と言ったことがよく分かりました。特に「まぶた閉じて」のところが苦しそうです。
      でも確かに、一生懸命歌っている。伝えようとしている。その姿が志村さんらしいですね。

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