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2019年4月8日月曜日

「作り話に花を咲かせ」-『桜の季節』[志村正彦LN216]

 甲府盆地の桜はまだ舞い散ることなく咲き続けている。
 勤め先の大学にはキャンパスを囲むように桜の並木がある。今朝、スマホで写真を撮った。さすがに満開は過ぎているのだが、朝の光を浴びて、桜の樹々が光の花束のように見えた。




 新年度が始まった。昨年より担当コマ数が増えて、7コマ近くになった。国語科指導法、教師論、文学講読、ライティング(コミュニケーションスキル)に加えて、山梨学と専門ゼミナールも担当する。学内業務の係も二つある。社会人や高校生対象の短期講座も持つ。授業構想やシラバス作成に続き、教材の作成や準備に追われる毎日である。
 年度末、研究室の移動があった。新しい部屋の窓からは富士山が綺麗に見える。そのことがとてもうれしかった。仕事に疲れた時に眺めると、朝から昼そして夕方へと、富士の雰囲気や色合いが少し変わっていく。その微妙な変化が美しく、愛おしい。

 今日、「山梨学」という授業を行った。山梨の文化、社会、歴史、地域、観光などを総合的に学び、「山梨」の可能性を探究していく科目である。講義の半分は外部から専門家を講師として招聘する。残り半分は僕が担当し、「山梨と文学」というテーマのもとに「芥川龍之介と甲斐の国」「山梨のロックの詩人-宮沢和史(ザ・ブーム)、藤巻亮太(レミオロメン)、志村正彦(フジファブリック)」などの講義を準備した。映画作品に描かれた戦後山梨の風景と社会というテーマにも取り組む予定だ。
 2年次の必修科目で受講者が120名にのぼるので、授業の運営には一苦労がある。本学の学生は全員MacBookを携帯している。wifi環境も充実し、授業支援のソフトやツールもある。ICTを活用して授業をデザインした。

 第1回目は授業のガイダンスや実施計画を説明した後で、山梨学のオープニングとして、志村正彦・フジファブリックの『桜の季節』を取り上げることにした。この季節にこの歌を聴くことには格別な味わいがある。
 歌詞を表示して、『桜の季節』ミュージックビデオと発売前日の新宿ロフトでのライブ映像をプロジェクタで見せた。そしてこの歌を聴いて何を感じたか何を思ったかという問いを投げかけた。学生はMacBookを使って書いたテキストを教員へ送付する。授業中にリアルタイムで学生のテキストを読むこともできる。
 最近、小学校から大学までICTの教育や利用が推進されているが、確かにPC、ネットワーク、学習支援ツールを活用すると、「授業の生産性」が上がる。講義形式であれば一人の教員が120名の学生を相手にすることは可能かもしれない。でもこの山梨学では必ず学生の言葉をフィードバックしていきたい。一方向的ではなく、少しでも相互的交流的な授業を構築したいと考えている。

 このようにして、今年度から「山梨学」の一つとして、志村正彦・フジファブリックの作品を聴いて表現する授業を開始した(高校で実践してきたことはこのブログで何度か触れた)。授業後、120人の書いた文章を読んでいった。全体の3分の2は初めて聴いたようだが、それにもかかわらずというよりそれゆえにというべきか、志村正彦・フジファブリックの作品は彼らに確実に作用していった。受け止め方はそれぞれだが、何かが確実に伝わっていることが文面からうかがえる。志村の歌は、意味や解釈を超えて、言葉そのものが聴き手に働きかける。

 ここでその内容を紹介するわけにはいかないが、二つの興味深い特徴があったことを記しておきたい。
 一つは「桜の季節過ぎたら 遠くの町に行くのかい?/桜のように舞い散って しまうのならばやるせない」の「やるせない」という感情に言及したものが多かったことだ。高校生はあまりこの言葉に触れなかった記憶がある。
 大学2年生ということは20歳前後の年。この歌を作った時の志村の年齢とも近い。この「やるせない」という感情はどこにも持っていきようのない想い、それゆえに自らの内部に深く降りていく想いであろう。この想いは十代という年齢を通り過ぎる頃に自らを振り返る、そのような年齢の折り返しにも関わるのではないだろうか。「やるせない」という感情にはその発露までの時の流れがあるのだ。

 もう一つは「ならば愛をこめて 手紙をしたためよう/作り話に花を咲かせ 僕は読み返しては 感動している!」の「手紙」や「作り話」について考えたものが少なくなかったことである。志村特有の屈折感、迂回するような感覚が20歳に達する年代の若者に響くのかもしれない。
 あたりまえのことではあろうが、年齢と共に経験と共に歌の受容は変化する。感受性のあり方も変容していく。大学生は高校生と異なる感性や知性を持つ。そのことを知ることができた授業でもあった。

 それにしても、「作り話に花を咲かせ」とは何という表現だろう。
 「作り話」とは志村にとっての「歌」そのものだ。話を作ることによって、ありのままの自分自身を迂回しながら、逆説的に、志村は自らの「歌」を作り、「花」を咲かせようとした。

 メジャーデビューシングル『桜の季節』は、志村正彦・フジファブリックの「歌」の「開花」宣言でもある。


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