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2016年2月21日日曜日

『銀河』についての証言 [志村正彦LN121]

 志村正彦自身は『銀河』という作品についてどのように考えていたのか。
 WEB上の記事を探してみると、該当するものが幾つかあったので紹介したい。

 「フジファブリック 『虹』インタビュー」(Billboard-Japan、Interviewer:杉岡祐樹)で、彼は、『銀河』についての「歌詞の世界観も今までより一歩前に踏み出したような、前向きな雰囲気があったと思うのですが、環境や生活に変化があったりしたんですか?」という質問に、次のように答えている。

 そこまでないですね。環境の変化はそこまでないんですけども、変化が欲しいっていう気持ちがあるんですね。変化が欲しいとか、曲にしてうたったりすると変化があったように自分で思える。そういうものをやってみたいんですね。

 さらに、『虹』に関連して、「この曲の歌詞も“とうとう踏み出す”というメッセージなど『銀河』に続いてかなり前向きな雰囲気がありますがその変化というのは?」という問いかけに対して、次のように述べている。

 これもやっぱり「踏み出したい」ですね、「今踏み出してます」というよりは。願望を歌っていればそういう感じになるんじゃないかっていう。だから逆にビビってるのかもしれないですよね、そろそろ動かないとマズいんじゃないかなって。

 志村は、『銀河』にしろ、続く5枚目シングル『虹』にしろ、現実の変化というよりも、変化への願望を表現したかったようだ。そのような願望を歌詞や楽曲に転換することで、自らが現実に動き出すことへの動力源になると考えたのだろう。
 彼らしい現実と作品との関係性だ。現実が作品を追い求め、作品が現実を追い求めている。

 「フジファブリック(志村正彦)インタビュー close up vol.113」(excite music、取材・文/藤津 毅)には、曲の成立と構成についての貴重な証言がある。
 『銀河』について「やっとサビが登場したと思ったら、その後にもちゃんと変化球が用意されていて、聴き応えがありました」というコメントに対して、志村はこう語っている。

 フジファブリックの曲ってこのような部分が割とあるんですよね。サビが終わった後に違うメロディをもってくるという。この曲の場合、別の曲で作っていたメロディがあって、それを合わせて、1つの作品にしたんです。「銀河」はコンセプト的な作品で、冬の曲なのにアツイ感じになっているから、これを聴いて盛り上がってもらえたらいいかな。

 ここで言及されたサビの後の「違うメロディ」とは、前々回、LN119の最後で考察した部分、以下のCメロの部分だと考えてよいだろう。

  きらきらの空がぐらぐら動き出している!
  確かな鼓動が膨らむ 動き出している!


 確かに、この部分、Cメロの曲調は、AメロやBメロ、サビとは異質だ。歌詞の「確かな鼓動」「動き出している」に呼応するように、不思議な感覚で旋律が転調していく。直前のサビから飛躍し、最後のサビへと橋渡ししていく。もともと別の曲のメロディだとすると、この奇妙にして絶妙な展開が納得できる。もしもCメロの歌詞の世界やコードの展開がなかったとしたら、この曲はもっと平凡なものになっていただろう。
 このwebでも書いてきたが、『若者のすべて』も二つの別の曲が合体してできたことが知られている。このような手法はよくあるのだろうが、志村の場合、本来異なるモチーフの曲や歌詞を複合させて、さらに新しいものを創り出す力に恵まれていたのではないだろうか。

 Aメロ・Bメロ・サビの系列は『銀河』の物語の枠組を作っている。聴き手は各自の物語を想像していく。そして、Cメロ、「確かな鼓動」の部分は、それまでの物語をいったん完了させ、転換と飛躍が図られる。聴き手は新たな風景、「きらきら」「ぐらぐら」広がる風景を心に刻むことになる。身体も「アツイ」鼓動に包まれる。「動き出している」疾走感が強まる。

 先ほどの「コンセプト的な作品で、冬の曲なのにアツイ感じになっているから、これを聴いて盛り上がってもらえたらいいかな」という志村の言葉に注目したい。
 メジャー2枚目のアルバムを準備していたこの時期、経験が蓄積され、自信や確かな手応えを感じてきたのだろう。終了するようでさらに転換して展開する。あるいは、いったん終了するかに見えて再開する。作詞と作曲の両面において、志村正彦は高度で自在な方法を獲得しつつある。歌詞と楽曲はより重層的に絡み合うようになっている。作品の「コンセプト」や歌詞の世界も、おしつけがましくなく、さりげなく、良い意味でひねくれながら、確実に深化している。

 もう少し踏みこんで書こう。
 この時代、日本語ロックはすでに類型化され、退屈なものに凝り固まっていた。それを壊し、新しい「鼓動」を生み出す。『銀河』はそのような「願望」や「変化」も、力強く激しく、歌い奏でているのではないだろうか。

       (この項続く)

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