ページ

2019年9月15日日曜日

「闘い」の記録 [志村正彦LN233]

 「闘いの場」「音楽との闘い」「仕事としてのフジファブリック」と三回続けて、《闘い》をキーワードにして、志村正彦の軌跡について書いてきた。

 志村の人生の軌跡は、「志村日記」(『東京、音楽、ロックンロール 完全版』)に記された彼自身の言葉によってたどることができる。また、『FAB BOOK―フジファブリック』や様々な雑誌にインタビュー記事が載せられ、ドキュメンタリー映像もDVD「FAB MOVIES DOCUMENT映像集」(『FAB BOX』)、そして今回のDVD「ディレクターズカット版 “CHRONICLE” スウェーデンレコーディング」(『FAB BOX III』)に記録されている。二十九歳で人生が閉じられた音楽家の「表現」と「仕事」の軌跡を、僕たちは幸いなことに(そう言うべきなのだろう)知ることができる。

 でもあらためて考えてみると、このようなことが可能になったのは取材者の情熱や努力によることも大きい。彼に関する記事を書籍、雑誌、ネットの記事で読むと、他の音楽家と比べても取材者や編集者に恵まれていたと言えるだろう。それは志村正彦という希有な表現者が彼らを魅了していたからにちがいない。
10月刊行予定の『別冊 音楽と人×フジファブリック 音楽と人増刊』にも、志村の良き理解者であった樋口靖幸氏による記事が再録されるのだろう。

 『FAB BOX III』、『Official Bootleg Live & Documentary Movies of "CHRONICLE TOUR"』の「ディレクターズカット版 “CHRONICLE” スウェーデンレコーディング」については、「Official Bootleg Live & Documentary Movies of "CHRONICLE TOUR"」氏(中也さん)の功績が大きい。彼が撮影した映像がなければこのDVDは不可能だった。

 ネットを検索して、「須藤中也ブログ 日々のあぶく」があることを知った。2004年から2016年までの記事を読むことができる。その中に「フジファブリックスペシャル」という2010年4月2日の記事がある。長文になるので部分に切り取って引用させていただく。


僕は2005年からずっとフジファブリックのドキュメントやオフショットを撮ってきました
そして撮影したものはMusic on TV!のフジファブリック スペシャルで形にしてきました
だからこのプログラムは僕のクロニクルでもあります
僕はこのバンドと出会わなかったらディレクターとしての人生は大きく変わっていたと思うし
多分曽我部さんやアナログフィッシュとの繋がりもなかった事でしょう
フジとの仕事は仕事であるけど、大事なライフワークでもあります
だから仕事を超えた何かがいつも作品を作ると残っていきました
僕を一回りも二回りも成長させてくれたバンドです

その頃(*2004年)、テレビで桜の季節のPVのスポットが流れてて
そのメロディーと歌詞の雰囲気にすぐさま心奪われ
いいPVだなと思い、こういう感じのバンドのPV作れたらいいだろうなーと傍で思いながら
久々にいいバンドが出て来たなと部屋の掃除をしながら思っていた記憶があります
だから完全に僕は1ファンでしかなかったのですが
まさかあの時はこんなに人生に深く関わるバンドになるとは思いもしませんでした

僕が初めてフジを撮ったのは2005年のロックインジャパン
初対面で緊張したし、自分の思うように撮れなくて
なんとなく撮影終わってへこんだりしました
そもそも僕も人見知りだし、メンバーも人見知りだったなと
今思えば、それはそれでその時にしか撮れないものが撮れていたと思えます
「フジファブリック SPECIAL 2005」は僕の初めてのフジ作品になります
僕のメイキング奮闘記でもあります
最後の茜色の夕陽がだんだん白黒になっていくのが印象的です
あとテレビ画面を8mmで撮ったオープニングも今見ると良い味だしてます

「フジファブリック ライブスペシャル 2006 完全版」は
今思えばクリスマスの日のスペシャルライブで
僕はバックステージで撮っていたけど
この時志村君が帽子のセレクトに悩んでて
たまたま僕の帽子を被ったら
それでステージに出てくれて
なんかすごい嬉しかった記憶があります

フジファブリック SPECIAL 「CHRONICLE」までのクロニクル
これは去年作った番組です。スウェーデンでのレコーディング風景とアルバム完成後のインタビューです
僕の位置づけとしてはアルバム「クロニクル」のDVDと対になった番組です
だから両方見てもらえるとクロニクルというアルバムが深くわかるのではと思いますし
二つ流れで見てもらうのが監督の気持ちとしては本望だったりします
インタビューの画の質感が気に入ってます
あとフジの歴史をビジュアル化させたオープニングが印象に残ってます


 この記事は、MUSIC ON! TVの「フジファブリック志村正彦 追悼特別編成企画」の「フジファブリックスペシャル2004~2009」2010年4月3日(土)18:00-23:00を紹介するためのものだが、「フジとの仕事は仕事であるけど、大事なライフワークでもあります」という言葉は2019年に『FAB BOX III』として具現化した。

   フジファブリック SPECIAL 「CHRONICLE」までのクロニクルの内容から、この番組が「ディレクターズカット版 “CHRONICLE” スウェーデンレコーディング」の原型ではないかと推測される。「クロニクル」の付属DVDと併せると「クロニクルというアルバムが深くわかる」というのが中也さんは述べているが、今回リリースされた『FAB BOX III』によって、アルバム『クロニクル』をそしてスウェーデンでの日々をさらに深く理解することができる。
 中也さんが志村の「闘い」を記録することによって、志村の闘いの軌跡をたどり、その意味を考えることが可能となった。

 音楽は完成された作品を聴くことだけで完結する。しかし、完成までの過程を知ることができるのも僕たちファンにとっては幸せなことである。特に映像の場合、たくさんの情報から様々なことを読みとることができる。作品と対話する経験を深める。

0 件のコメント:

コメントを投稿