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2019年9月22日日曜日

2019年夏の番組 [志村正彦LN234]

 今年、2019年の夏、フジファブリックが出演した主要な番組を振り返りたい。


・8/9(金)20:00~20:55、テレビ朝日「ミュージックステーション」
  演奏:『若者のすべて』

・8/25(日)24:30~25:25、フジテレビ「Love music」
  演奏:『若者のすべて』

・8/31(土)24:58~26:08、TBS「COUNT DOWN TV」
  演奏:『手紙』

・9/2(月)26:20~26:50、テレビ東京「プレミアMelodiX!」
  演奏:『カンヌの休日』

・9/6(金)25:29~26:29、日本テレビ「バズリズム02」
  演奏:『手紙』

・9/7(土)25:00~25:55、BSフジ「LIFE of FUJIFABRIC」
  演奏:『陽炎』(フジファブリック×三原健司【フレデリック】)、『手紙』、『LIFE』


 以上だが、地上波民放局のすべてに出演したことになる。志村正彦没後10年、フジファブリック結成15年という年であり、ますます名声が高まる『若者のすべて』が夏の歌であることから、2019年の夏は集中的な番組出演となった。志村正彦そしてフジファブリックの歴史を振り返ると共に、記念アルバム『FAB BOX III』、『FAB LIST 1』、『FAB LIST 1』のリリース、10/20(日)フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE at 大阪城ホール2019「IN MY TOWN」の宣伝も意図したものだろう。

 演奏曲は、テレビ朝日「ミュージックステーション」とフジテレビ「Love music」が『若者のすべて』。その後は、『手紙』を中心に『カンヌの休日』『LIFE』、三原健司【フレデリック】をボーカルに入れた『陽炎』という流れだった。山内の故郷である大阪城ホールでのコンサートのテーマが「IN MY TOWN」であり、『手紙』はそのテーマ曲のような扱いでもある。

 テレビ朝日「ミュージックステーション」についてはすでに志村正彦LN228に記した。今回はそのほかの番組から印象に残った言葉や事柄について書いてみたい。
 フジテレビ「Love music」では、「志村正彦没後10年愛され続ける名曲」として『若者のすべて』が紹介されて、この曲についてのメンバー3人のコメントがあった。


山内:リリースされてから十年以上経っていますし、今年志村君が亡くなって10年なんですけど、志村君と頑張って作ったというとあれですけど本当にいい曲が出来たっていう手応えがあったんですね

加藤:この曲は歌詞が体験したことがなくても情景がやっぱり浮かぶ曲だと思いますねえ。

金澤:日本で生まれた育った皆さんのですねえ、その潜在的に持つ心情だったり風景だったりと……


 この番組では『若者のすべて』をフルヴァージョンで演奏した。メンバーの視線の向こう側に花火の映像を展開する演出が効果的だった。

 TBS系「COUNT DOWN TV」では、「ALBUM RECOMMEND」の2枚目として『FAB LIST』が取り上げられた。山内はこう述べていた。


すべての曲に思い入れはあるんですけど中でも「STAR」という曲が「FAB LIST 2」収録されているんですけども、この曲はですね、フジファブリックは2009年にボーカル・ギターの志村正彦という人間が他界しまして、バンドが本当に続けられるかどうか,続けることも出来ないだろうって思ってたところ、このメンバーでやっていこうと決めて最初に録った作った作品が「STAR」なので、その「STAR」ていう曲が思い出になるというかいろいろ自分たちにとっても大切な曲になっています。


 このコメントがあったので、演奏されるのは『STAR』かと思ったが、実際は『手紙』だった。どちらかというと、テレビスタジオで演奏される『STAR』を聴いてみたかったのだが。

 BSフジ「LIFE of FUJIFABRIC」は、フジファブリックを単独のテーマとした番組だった。 出演者は、山内総一郎、金澤ダイスケ、加藤慎一。コメントゲストは、綾小路 翔【氣志團】、奥田民生、岸田 繁【くるり】、刄田綴色(ドラマー)、原田公一(FREE,INC. 代表取締役)、薮下晃正(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)、今村圭介(EMI Records)。歌唱ゲストは三原健司(Vo./Gt.)【フレデリック】という面々。特に、原田公一、今村圭介の二氏が出演したのは特筆すべきことだった。志村正彦を見出し、そして育てた重要な二人だからだ。

 志村正彦・フジファブリックは若い世代のアーティストから高い支持を受けている。三原健司(フレデリック)もその一人であり、彼の唱法は『陽炎』の新しい魅力を伝えていた。『手紙』は現在のフジファブリックにとっての代表曲として、『LIFE』はおそらく番組タイトルとの関連で選ばれたのだろう。

 番組制作者の志村正彦・フジファブリックへのリスペクトがうかがわれる内容であり、ゲストのコメントはどれも興味深いものだった。そのなかで最も印象に残ったのは、次の問いかけに対する山内総一郎の回答だった。


 3人にとって志村正彦とは ――

稀有という言葉がありますけど、僕は唯一の人だと思いますし、だからこそ、フジファブリックというバンドにこんなに真剣になれているというか、人生をかけて、フジファブリックとして生きていこうって思うのは、やっぱり彼の存在があって、彼がない人生はない、なかったので、感謝していますし、ずっと仲間のミュージシャンという感じですね、はい。
生み出しつつ、新しいものをやっぱり生み出さないと、いけないですね、はい。


 山内は志村に対する想いを「彼がない人生はない、なかったので、感謝しています」と正直に吐露している。誤解を恐れずにあえて書くが、彼の現在のポジションは志村正彦という存在がなければ獲得できなかったものである。「感謝」という表現は、一人の人間としての山内が志村に対してどのような関係の意識を持っているのかを示している。しかし、表現者は言葉で表明するだけでなく、作品の創造を通じて「感謝」を表現していかなければならない。表現を仕事とする者の孤独で時に過酷な現実がある。

 前回まで四回にわたって、「闘い」というキーワードで志村正彦の軌跡を振り返ってきた。2010年以降のフジファブリックには、志村が自らとフジファブリックというバンドに求めたような「闘い」の軌跡はあまり見られない。山内、金澤、加藤の三氏はこの十年間、「闘った」というよりも「守った」のだろう。バンドの継続そしてバンドマンとしての生活を守ってきた。日々の生活を守ることは生きることの根本である。『FAB BOX III』も『FAB LIST 1』も守ったことの成果かもしれない。守ることも闘うことではある。そう考えることは可能だ。しかし、守るだけでは新しいものを創り出すことはできない。
 コメント最後の「生み出しつつ、新しいものをやっぱり生み出さないと、いけないですね」には、志村正彦のフジファブリックとは異なる「新しいもの」をまだ創造していないという自己認識が現れているのではないか。新しいものを生み出すためには「闘い」が必要である。番組最後で山内自身も「闘っていかないといけない」と述べていた。
 フジファブリックがフジファブリックであるためには、創造のための闘いが必要である。守ることと闘うことの間に、現在のフジファブリックのアポリアがある。


 今年の夏は志村正彦そしてフジファブリックに対して様々な言葉が語られてきた。BSフジ「LIFE of FUJIFABRIC」冒頭の岸田繁【くるり】の発言を引用してこの回を閉じたい。


表現者としてあるいは詩人としてすごいポテンシャルが高くてエネルギーの強いシンガーソングライターがいたバンドで


 「表現者としてあるいは詩人として」という捉え方、「すごいポテンシャルが高くてエネルギーの強い」という評価の基軸には、同時代の優れた音楽家である岸田繁の明確な意志がうかがえる。そして「シンガーソングライターがいたバンド」という過去形の表現から、岸田の喪失感が伝わってくる。
 2019年夏の時点で志村正彦・フジファブリックはどう評価されているのか。その貴重な証言として記憶される言葉だろう。

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