折に触れて、「志村日記」(『東京、音楽、ロックンロール』)を読み返している。
 音楽に直接関係ない話に引き込まれることがある。今日からちょうど4年前、2009年12月5日付の日記にはこうある。
  京都前のり。民生さんと合流し、飲みに行く。
  民生さんサッカーの話、超詳しい。俺、全然分からん。
  今、甲府はどうなってるんだ?
  甲府がJ1に上がった日は嬉しくて乾杯したな、そういやあ。
 12月5日は、志村正彦の亡くなる二十日ほど前の日になる。
 フジファブリックは、みやこ音楽祭'09出演のために京都に滞在していた。4日に奥田民生のライブがあり、その日の夜、飲み会があったようだ。彼らのマネージメント会社hit&run(現SMA=Sony Music Artists)の blogには、「昨夜は民生さんとフジファブリックでギオンに飲みに行き、すっかりサッカー話やらユニコーンの裏話なんかで盛り上がってたんです」とある。このblogには、5日のフジファブリックのライブの報告と写真も掲載されていて、『Merry-Go-Round』『マリアとアマゾネス』『地平線を越えて』『銀河』『Sugar!』の5曲が演奏されたことが分かる。
 日記からは、いつもと変わらぬ音楽への姿勢や奥田民生との楽しい交流がうかがわれる。今読むと、そのことが悲しい。
 奥田民生は「広島カープ」と「サンフレッチェ広島」の大ファンのようだ。志村正彦は「民生さんサッカーの話、超詳しい。俺、全然分からん。」と述べているので、その夜は、奥田民生のサッカー談義に終始圧倒されていたのだろう。しかし、「今、甲府はどうなってるんだ?甲府がJ1に上がった日は嬉しくて乾杯したな、そういやあ。」と書いてあり、奥田民生に負けじと、山梨のJリーグチーム、ヴァンフォーレ甲府のことを想いだしてくれたようだ。VF甲府のサッカーそのものにはあまり関心はなかったのだろうが、故郷山梨のJリーグチームということで、ひそかに応援してくれていたのだろう。
 奥田民生の「広島愛」に対する、志村正彦の「山梨愛」が感じられる。
 私事を書かせていただく。私は、VF甲府がJ2に参入した1999年の翌年からクラブサポーター会員となり、この十数年の間、ホームゲームのほぼ全ての試合に通っている。VF甲府のような地方都市を拠点とするチームの誕生に、地元愛がかなり刺激され、気がつくと、熱心なサポーターとなっていた。週末は家に引きこもり、読んだり書いたりすることの多かった私にとって、スタジアムに出かけることは、外で光や風を感じることのできる大切な時間になった。
 2001年、チームが消滅するかもしれないという「存続問題」が起き、少しばかり存続のための活動をしたこともある。(「甲府愛にあふれる文」を書き続けることも存続の一助になるかもと考え、仲間のサイトの掲示板にほぼ毎日のように書いていたくらいだったが)その後、甲府は何とか存続でき、フロントと指導者に恵まれ、次第に力をつけてきた。
 2005年12月10日、J1・J2入れ替え戦の第2戦。FWバレーのダブルハットトリックというミラクルもあり、6対2で勝利し、J1昇格を果たした。その日、私も千葉の柏サッカー場のゴール裏で声援を送っていた。消滅の危機から昇格まで、あの5年ほどの軌跡は「奇跡」と呼ぶにふさわしい。
 あの日について、志村正彦が「甲府がJ1に上がった日は嬉しくて乾杯したな、そういやあ。」と書いてくれたのを、『東京、音楽、ロックンロール』の中に見つけた時は、志村ファンとしても甲府サポとしても、とても感激した。私たちサポーターも帰りの応援バスで祝杯をあげていたのを想い出した。
 「志村日記」の2009年12月5日、彼が「今、甲府はどうなってるんだ?」と書いた日は、甲府サポにとって忘れることのできない、苦い苦い日となった。VF甲府は2007年J2に降格し、この日、もう一度J1に昇格できるかどうかが決まる重要な試合を闘っていた。
  最終節時点での勝点が湘南ベルマーレ95、 ヴァンフォーレ甲府94。甲府が勝ち、湘南が引き分け以下になると、甲府はJ1に昇格する。結果は、甲府は勝ったが湘南も勝って(2点差を跳ね返した逆転勝利)、湘南が昇格を決めた。冬の寒い雨の煙る中、ホィッスルが鳴り、昇格が果たせなかったことが分かった瞬間、満員のサポーターやファンが失意と沈黙に沈んでいた。あんなに静まりかえった小瀬スタジアムを経験したことはない。もちろん、志村正彦がそんな状況を知るはすもないのだが、あの日の「今、甲府はどうなってるんだ?」という問いかけに対しては、ここまで書いたことがその応えとなるだろう。
 その後甲府は、翌2010年に2度目のJ1昇格、2011年降格。そして2012年に3度目の昇格を果たし、今年度2013年はJ1に所属し、ついこの前、J1残留をぎりぎりで決めた。大きなスポンサーがいないので、甲府の予算は少なく、環境面でも恵まれない。J1とJ2の間を行ったり来たりだが、「プロビンチア(地方)」の志とたくましさを持って、Jリーグで闘っている。たかがサッカーにすぎないけど、私はVF甲府を誇りに思っている。
 
 「志村日記」を読むと、その日付と関連のある出来事や思い出が浮かんでくることがある。
 2009年12月5日の日付、そして2005年12月5日についての記述から、志村正彦ファンであり甲府サポーターでもある私の想いを込めて、今日は書かせていただきました。
付記
 今年、ヴァンフォーレ甲府は天皇杯の準々決勝に勝ち進み、12月22日午後1時、サンフレッチェ広島と対戦します。「広島VS甲府」、まるで「奥田民生VS志村正彦」の闘いのようです(広島も好きなチームなので少し複雑ですが)。
 NHKのBS1で生中継があるそうですので、志村ファンの皆さま、よろしかったらご観戦ください。もちろん(できることなら)、甲府を応援してくださいね。
公演名称
〈太宰治「新樹の言葉」と「走れメロス」 講座・朗読・芝居の会〉の申込
公演概要
日時:2025年11月3日(月、文化の日)開場13:30 開演14:00 終演予定 15:30/会場:こうふ亀屋座 (甲府市丸の内1丁目11-5)/主催:甲府 文と芸の会/料金 無料/要 事前申込・先着90名/内容:第Ⅰ部 講座・朗読 「新樹の言葉」と「走れメロス」講師 小林一之(山梨英和大学特任教授)朗読 エイコ、第Ⅱ部 独り芝居 「走れメロス」俳優 有馬眞胤(劇団四季出身、蜷川幸雄演出作品に20年間参加、一篇の小説を全て覚えて演じます)・下座(三味線)エイコ
申込方法
右下の〈申込フォーム〉から一回につき一名お申し込みできます。記入欄の三つの枠に、 ①名前欄に〈氏名〉②メール欄に〈電子メールアドレス〉③メッセージ欄に〈11月3日公演〉とそれぞれ記入して、送信ボタンをクリックしてください。三つの枠のすべてに記入しないと送信できません(その他、ご要望やご質問がある場合はメッセージ欄にご記入ください)。申し込み後3日以内に受付完了のメールを送信します(3日経ってもこちらからの返信がない場合は、再度、申込フォームの「メッセージ欄」にその旨を書いて送ってください)。
*〈申込フォーム〉での申し込みができない場合やメールアドレスをお持ちでない場合は、チラシ画像に記載の番号へ電話でお申し込みください。
*申込者の皆様のメールアドレスは、本公演に関する事務連絡およびご案内目的のみに利用いたします。本目的以外の用途での利用は一切いたしません。
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