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2021年10月13日水曜日

「若者のすべて」教科書採用の経緯 [志村正彦LN293]

 今回は、「若者のすべて」の再解釈からいったん離れるが、志村正彦・フジファブリックの『若者のすべて』が音楽の教科書に採用された経緯について書きたい。すでに5月に《高校音楽教科書の『若者のすべて』[志村正彦LN273]》という記事を書いたが、今日はその続報でもある。

 一昨日、10月11日(月)22:00-24:00の時間帯に放送されたJ-WAVEの「SONAR MUSIC」という音楽番組(ナビゲーター:あっこゴリラ)のテーマは、「教科書に載るポップミュージック」だった。

 番組webにはこう紹介されている。

フジファブリック「若者のすべて」が高校の音楽の教科書に載る
と言うニュースもありましたが
こうやって、ポップミュージックで学校の教科書載る音楽はどう言ったものなのか?選ばれるポイントは?その歴史は?
誰もが一度は通ってきた道「音楽の教科書」に注目!あなたの思い出の曲はなんですか?

 放送後にこの情報を知り、昨日、radikoのプレミアム会員に登録してタイムフリー機能で聴くことができた。もう一度聴こうとしたが、すでに今日の午前中に聴取期間は終了していた(ただし、地域その他の条件によって期間の違いがあるかもしれませんので、聴いてみたい場合にはご確認ください)。正確に内容を紹介したいところだが、すでに終了してしまったので、記憶している内容をこの場に再現したい。

 ゲストは、教育芸術社の呉羽弘人さん。 2022年度から使用される高校の音楽Ⅰの教科書、『MOUSA1』の編集者である。この番組では、ポップミュージックが音楽教科書に掲載された歴史から始まって、志村正彦・フジファブリックの「若者のすべて」採用の経緯が詳細に語られた。

 視聴できなかった方のために、採用経緯を簡潔にまとめてみたい。


  • もともとはギターストロークが良い曲を探していた。同じ教科書の編集担当者が何曲かを候補として楽譜を見せてくれたが、「若者のすべて」だけは知らなかった。(ファンの人にはほんとうにお恥ずかしい。ビスコンティビスの同名の映画なら知っていたが)。自分で弾いてみたらなかなか面白いと思った。実際の曲を聴いてみたら、全体がとてもよくて、詞もすごくいい。ギターのストロークという感じではなく、それよりまるごと、なんて魅力的な曲なんだと思った。
  • 曲も詞も素晴らしいと思い、編集会議で検討してみることになった。編集委員の先生の中にはこの曲を知らない方もいたが、聴いてみるとすごくいい歌だという感想が多かった。10年単位で曲を採用する構想にもつながった。私も自分でもフジファブリックのCDを買うほどになった。


 もう一度聞き返すことが出来なかったので、正確な再現ではないが、話の要点はこのようなものだった。さらに、他の採用曲《翼をください》や《Lemon》と比較すると、知名度という点では低いかもしれないが、担当編集者がこの曲に魅了され、編集委員もこの曲を高く評価して、2000年代の代表曲として採択が決まったという話もあった。

 このニュースを知ったときに採用の理由や経緯に興味を持ったが、「SONAR MUSIC」によってその答えが得られた。筆者も国語教科書の編集協力をしたことがあるが、その経験から、教科書の質は担当編集者の見識や力量によるところが大きいと考えている。

 この教科書の説明資料から、10年代ごとの採用曲を作曲者名・作詞者名と共に挙げてみよう。

1940年代 《東京ブギウギ》      作詞:鈴木勝・作曲:服部良一
1960年代 《見上げてごらん夜の星を》 作詞:永六輔・作曲:いずみたく
1970年代 《翼をください》      作詞:山上路夫・作曲:村井邦彦
1980年代 《クリスマス・イブ》    作詞・作曲:山下達郎
1990年代 《負けないで》       作詞:坂井泉水・作曲:織田哲郎
2000年代 《若者のすべて》      作詞・作曲:志村正彦
2010年代 《Lemon》           作詞・作曲:米津玄師


 志村正彦・フジファブリックの「若者のすべて」は、その楽曲と歌詞の純粋な力によって、2000年代の代表曲として(おそらく、それ以上に長いスパンにおいて、時代を超える名曲として)、高校の音楽教科書に採用されたのである。あらためて感慨を覚える。


【追記10/14 12:30】

 本文を少し修正し追加したところ、採用経緯の記事のピークを迎えているようで、今日10/14の朝日新聞デジタルに〈「若者のすべて」、何年経とうとも ロックバンド名曲、高校教科書に〉という記事が掲載された(記者:斉藤佑介)。ここでは次のように書かれてある。

 歌唱曲として楽譜や歌詞、解説を載せるのは、教科書「MOUSA(ムーサ)1」(教育芸術社)。全国の高校で使われている教科書の一つだ。同社は今回、戦後から歌い継がれている歌曲を10年区切りで選んだ。
 00年代の曲として「若者のすべて」を推薦したのが、同社編集部の阿部美和子さんだ。一時の流行で廃れることなく、多感な時期にある高校生が長く歌い継げる曲はないか。4年に1度の改訂に向けて18年ごろから曲を探し始め、ネット検索などを通じてこの曲に出会った。
 現役の音楽教師や作曲家ら編集メンバー約10人も「曲も歌詞も、心の中にずっと残る」と全員一致で推した。このほか、1980年代「クリスマス・イブ」(山下達郎)、90年代「負けないで」(ZARD)、2010年代「Lemon」(米津玄師)などミリオンセラーの曲も選んだが、一番反響が大きかったのが「若者のすべて」だったという。
 阿部さんは「誰もが感情移入できる心象風景が描かれ、すでにたくさんの人が歌い継ぐ時代を超える曲だと思う」と語る。


 「SONAR MUSIC」の話と総合すると、阿部美和子さんがまず推薦して候補曲のリストに挙げ、呉羽弘人さんもとても気に入って、編集会議にかけることになったのだろう。〈「曲も歌詞も、心の中にずっと残る」と全員一致で推した〉〈一番反響が大きかった〉とあるのが嬉しい。〈曲も歌詞も〉すべてが素晴らしいところが、「若者のすべて」のすべてであるからだ。

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