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2020年5月2日土曜日

空を飛ぶ鳥の視線[志村正彦LN255]

 前回の記事はたくさんのアクセスをいただき、300を超えた日もあった。
 フジファブリック『若者のすべて』を音源にしたテレビ山梨の「STAY HOME」60秒versionが反響を呼んだのだろう。この映像は毎日UTYで流されている。この一週間で2回ほど、リアルタイムで放送版を見ることができた。もう何度も見たのだが、それでも感動してしまう。なぜだろうか。そのことを考えたい。

 今日は、あの記事に対する「yuko」さんのコメントを最初に引用させていただく。


ファンとしては、上空から眺めた「いつもの丘」が、まるで志村君の目線のようにも感じました。そして、STAY HOME のテロップとともに写し出された忠霊塔の画面は、志村君が「ここにいるよ」とでも言っているかのようでした。


 このコメントへの返信に書いたことだが、この《上空から眺めた「いつもの丘」が、まるで志村君の目線のようにも感じました》という捉え方に非常に考えさせられた。

 あの映像はUTYによると、高精細の4Kドローンのカメラを使って撮影したようだ。「いつもの丘」、新倉山浅間公園の界隈は僕も何度か訪れたことがある。桜の季節に、新倉富士浅間神社から忠霊塔へと続く400段ほどの階段を上っていくと、右側奥の斜面の方にも美しい桜の光景が広がっていた。その時、周辺を含めて「いつもの丘」の桜の全体の姿を見てみたい気持ちになった。でもそのためには、丘のかなり上の方に上らなければならないだろう。とりあえず無理なのでその気持ちはしまいこんだ。

 そういう経緯があるので、4Kドローンによる「いつもの丘」の映像を見て、上空からはこのように見えるのだという感動があった。桜と忠霊塔と富士山、丘、階段、下の駐車場、周辺の家並、中央道、富士吉田の街並、そして富士山が再度登場、最後に「いつもの丘」の斜面、全景。
 通常では得られることのない「視線」によって、志村正彦が生まれて育った地の風景をたどることができたのだ。志村さんは友だちと「いつもの丘」よりさらに高い場所へと歩いて登っていき、特に何をするわけでもなく、そこから見える風景を眺めて時を過ごしたという話を伺ったことがある。少年にとっては冒険の丘、秘密の場だったのかもしれない。もしかすると、あの映像に近い風景を見ていたのかもしれない。

 「STAY HOME」60秒versionは、どういう視点から撮影されたのだろうか。あのドローンは地上十数メートルから百メートルほどの上空を飛んでいたのだろう。また、ゆるやかな速度で進んでいる。ヘリコプターからの映像とくらべて、高度も速度も異なる。この高度と速度は、空を飛ぶ鳥の視線に近いのではないだろうか。
 鳥が空を旋回して「いつもの丘」を眺めている、そんな視線を思い描くことができる。そうすると、あの映像は、空を飛ぶ「鳥」になった志村正彦が「いつもの丘」を眺めている、そのように想像することもできる。《上空から眺めた「いつもの丘」が、まるで志村君の目線のようにも感じました》というコメントは、そのことを直観したのかもしれない。

 そしてこの映像は、『若者のすべて』歌詞の「僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ」とも結果的にもシンクロしてくる。その流れの中で、最後の最後に「STAY HOME」が出てくる。この映像の制作者は志村正彦と『若者のすべて』のことを深く理解している。
 「僕らは変わるかな」と志村は歌っている。この歌詞の文脈からかなり離れてしまうが、「僕らは変わるかな」は若者の、いやすべての人間の問いかけの言葉だ。

 「STAY HOME」といっても、私たちの「生」を維持するための仕事に就いている人々は、「HOME」ではなく各々の場所で働いている。「HOME」ではなく「AWAY」にいる。この危機の中で、私たちの命、生活、社会を守るために、忍耐強く過酷で困難な仕事を続けている。「STAY HOME」が可能となるのはこのような働きによって支えられていることを忘れてはならない。深い感謝を持つ。

 私たちは変わるだろうか。私たちの「生」が真に守られる社会に変わることを祈る。

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