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2018年4月21日土曜日

前野健太 at 桜座、『100年後』。

  二週間前になる。桜座で前野健太を聴いた。「どうして おなかが すくのかな 企画」による『前野健太 ニューアルバム「サクラ」発売直前ワンマン~早咲き桜 at 桜座』と題するライブ。僕は前野健太のアルバムは『ロマンスカー』くらいしか持っていなかったが、独特な歌詞の世界に関心はあった。桜座も久しぶりだった。昨年は一度も行けなかった。この日の甲府は、「信玄公祭り」という甲斐国の英雄、戦国武将の武田信玄のお祭りがあり、街にはいつもはない賑わいがあった。甲州軍団の出陣のパレードがあり、桜座近くの街路でその行進を見てから会場に向かった。桜の季節はもう過ぎ去っていた。(志村正彦には『武田の心』という未発見の音源があることを書き添える)

 ライブは『100年後』から始まった。『ロマンスカー』の冒頭曲。一度聴くと忘れられなくなる素晴らしい歌だ。


  100年後 君と待ち合わせ
  100年後 君と待ち合わせ
  あの角の2階にある 喫茶店で待ち合わせ
 
  100年後 君と待ち合わせ  
  君は相変わらず とてもかわいいよ
  その洋服どこで買ったの ねぇ

 
 「100年後」という遠いはるかな時間と「喫茶店」の「君」という身近な距離、空間のの感覚の組み合わせが不思議に作用していく。ジャンルの分類はつまらないものかもしれないが、あえて言うのであれば、フォークの範疇に入るだろう。前野健太は1979年生まれ。80年前後に生まれた世代には優れた歌詞の創作者が少なくないが、前野もその一員であろう。「100年後」という日常を超えた時間の設定が日常的な風景に溶け込んでいる歌詞は、日本語フォークの叙情に新しい感覚をもたらしている。

 youtubeには「100年後 みんな死んでるよね」と歌い終わるヴァージョンもある。現在の時も百年後の時も、現在の場も百年後の場も、その時間と空間のどちらに対しても、自分に対しても「君」に対しても、ある種の距離を置いて眺めているような視線が感じられる。どこか投げやりのようでそれでいて真摯でもあるような、まどろみにいるようで目覚めているようでもある眼差しとでも言うのだろうか。

 『100年後』の映像を探してみた。「DAX -Space Shower Digital Archives X」に『前野健太+ラキタ - 100年後 @ WWW』があった。前野の声が細やかで美しい。




 この日の前野健太バンドは、石橋英子、ジム・オルーク、伊賀航、POP鈴木という構成。熟達のメンバーによるグルーブの厚みに前野の言葉が乗っていくと、「フォークロック」の世界が広がっていく。とても心地よく、奥行きのあるサウンドだ。
 途中で主催者の勝俣さんをステージに呼んで、二人で『鴨川』を歌った。なごやかなひとときだった。MCも秀逸で面白い。アンコールになって、アコギを携え歌い出すと「フォーク」の世界が覆う。会場からのリクエストにも応える。前野は舞台の左右に回ったり階段を上がったりして、パフォーマーとして力強くそして繊細に歌っていた。
 歌が歌に、言葉が言葉に集中していく。前野健太のライブにすっかり魅了された。

  (2018年4月28日追記・映像添付)

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