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2016年11月6日日曜日

HINTO、"WC" TOUR 2016、渋谷WWWで。

  一週間前の10月30日、渋谷でHINTOを聴いてきた。新アルバム発売に合わせた「"WC" release ONE-MAN TOUR 2016」の最終日だった。
 正直書くと、東京のライブハウスまでわざわざ出かけるという意欲が最近はあまりない。このライブも迷っていたのだが、たまたまこの日に仕事関係の会議に行く用事ができた。これも何かの縁と思い、チケットを購入した。

 五時半過ぎにやっと会議が終わり、渋谷に移動。この日はハロウィンの前日で渋谷駅前は大混雑。ハロウィン目当てでない人にとっては大迷惑。すり抜けすり抜け、会場の渋谷WWWへ。途中で仮装した若者をたくさん目撃したのだが、いまいち楽しそうでないというのか、なんだか痛々しい。誰かが仕掛けたのだろうが、仕掛けられた祭りはやはり白々しい。

 開演六時半ぎりぎりに到着。ほぼ満員、最後列に何とかスペースを確保。映画館「シネマライズ」を改築した小屋だから段差がありステージが見やすい。しばらくするとHINTOの登場。『なつかしい人』が始まる。「100年まえから貴方のこと知ってる気がしているよ」の声が広がっていくと、場内が鎮まってくる。安部コウセイの表情を見て、言葉を聞き取ろうとする。この歌の静けさ、時をさかのぼり時を超えていくような調べはやはり特筆すべきものだ。
 2014年9月渋谷CLUB QUATTRO公演の『エネミー』の狂熱に圧倒されたことは以前ここに書いたが、この日の『なつかしい人』の静かな熱量にも心と身体が押し込まれた。

 このライブで気づいたのだが、安部光広のベースがHINTOサウンドの要だ。面白いベーシストだ。新しくもあり、どこか懐かしいようでもあるベースライン。彼のコーラスもこのサウンドに不可欠だ。安部兄弟の声と音が一つの塊となり、その塊に伊藤のエッジの効いたギターが彩りを何重にも与え、菱谷昌弘のドラムスが底の底のリズムを支える。
 しかし元映画館のせいか、音が反響しすぎて分離が悪い。空間の規模に比べて、音量も大きすぎる。変なサラウンド効果がついたような音響にまいってしまった。

 本編最後は、『WC』最後にある『ザ・ばんど』。「すべてのバンドマンに捧げます」というMCの後に、「何回も何回も 折れた心を乗せて走る/白いハイエースが 街から街へ/俺たち運んでいく ハイウェイ/待ってて」と歌い出された。
    
  何回か本当にやめてしまおうかと思った
  だけど恰好悪い ビートは続く
  あの日からとまらないストーリー

  最強の音楽でおれたちが連れて行くぜ遠く
  青いバードはもう 探さず行こう
  ドラムスが道標 ワン!ツー!

  馴染めない この世界をぶっ壊すギター
  忘れない 永遠みたいな悲しみのこと
  情けない 自分自身をぶっ壊すシャウト
  信じてたい 魔法みたいなロッケンロール
           (『ザ・ばんど』 詞:安部コウセイ)

 安部コウセイの歌詞にしては素直で直接的だ。もちろん、幾たびかの屈折を経た後で、ぐるっと回って素直さを得たというような感触だが。この歌について安部は、「バンドのことをシリアスに書くって、やっぱり恥ずかしいんです。でも、いい加減そこから逃げずにやんなきゃなって思ったのも事実なんですよね。」とした後でこう語っている。(『ラバーガール飛永との対話でこぼれた、HINTO安部コウセイの本音』文:金子厚武)

―なぜ今回のタイミングでは恥ずかしいと思う言葉でも使おうと思ったのでしょうか?

安部:なんでだろう……まあ、ど真ん中のことを大きい声で言う気持ちよさってやっぱりあるから、言いたくなってきたんでしょうね。あと“ザ・ばんど”に関して言うと、これを歌ったときに、自分達がいい方向に引っ張られるような曲にしたいと思ったんです。しんどいときに歌って、気持ちが前向きになったりしたらいいなって。

 なるほど。「シリアス」で「恥ずかしい」ことであっても、そこから逃げずに「ど真ん中のことを大きい声で言う」。その境地は、三十歳代後半となった彼の現在の位置を示している。『ザ・ばんど』はバンドの過去、現在、そして未来の軌跡を描いてるのだろう。僕は単なる聴き手だから、バンドマンの真実は分からない。ただし、「自分達がいい方向に引っ張られる」という想いを共有することはできる。そのような曲であるのなら、聴き手もその方向に歩み出せるだろうから。

 ハロウィンの渋谷。その狂騒から逃れるようにこの場に集った者はみな、安部コウセイがMCで話していたように、心に何かの塊を抱えている者なのだろう。変わらない、あるいは変えられない心の塊。2時間の間、ある者は踊り、ある者は言葉を聴く。自らの塊が、つかの間かもしれないが、ほぐされる。解放される。

 HINTOの「最強の音楽」でこれからも、どこか遠くの場へと連れて行ってもらおうではないか。

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