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2022年10月21日金曜日

インディーズデビュー20周年とインディーズ版MV-『茜色の夕日』5 [志村正彦LN318]

 二十年前の2002年10月21日、インディーズのSong-Cruxから1stアルバム、フジファブリック『アラカルト』が発売された。

 今日はインディーズデビュー20周年の日。そして、『茜色の夕日』がCD音源としてリリースされた記念の日でもある。

 この歌は18歳の頃作られたと言われている。2001年夏、『茜色の夕日・線香花火』のカセットテープが自主制作されている(参照:『茜色の夕日・線香花火』カセットテープ [志村正彦LN173])が、CDのミニアルバム『アラカルト』の収録曲『茜色の夕日』がロック音楽のファンに聴かれるようになった作品であると考えてよいだろう。当時、この曲のミュージックビデオも制作された。

 22歳の志村正彦は、表情も、声も、実に若々しい。この映像では、十代の面影を宿しているようでもある。ドラムの渡辺隆之、キーボードの田所幸子がわずかだが映っている。この時は脱退していた萩原彰人のギター、加藤雄一のベース音も入っている。

 ネットにあるインディーズ版『茜色の夕日』MVを紹介したい。

    


 この映像が伝えようとしているものをシーンごとに追っていきたい。


・ファーストシーン。スタジオ照明による〈茜色の夕日〉
・演奏シーン(正面にギターを抱えた志村、その画面右側にキーボードの田所幸子、オルガン音のイントロ。
 画面が左側に移動して、ドラムの渡辺隆之。中央に移動しながら志村の声が聞こえてくる。歌が始まる)
・東京と思われる住宅街の路を歩く目線からの移動撮影の映像が挿入される。緑の多い街。庭木や生け垣。
・葉書のようなものを手にして物思いにふけるような志村。演奏シーン。
・誰かが横切って絵葉書かカードのようなものを置く。絵葉書のクローズアップ。女性(と思われる人)が丘のような所から東京と思われる街並を見下ろす。部屋の中のシーン。演奏シーン。
・再び、住宅街の路を歩く目線からの移動撮影。女性とその下に石畳。演奏シーン。空と雲。演奏シーン。
・サンダルを履いた女性が座り、何か白いものが散っている。演奏シーン
・煙草を吸いながら外を眺める志村。演奏シーン。
・丘の公園のような所からその向こう側に街並が広がる。白いノースリーブのワンピースを着てベンチに腰かけた女性の背中が映る。演奏シーン。
・部屋の中のシーン。真ん中に低いテーブル。その上には絵葉書のようなもの、グラス、灰皿。カーテンが閉められている。演奏シーン。
・空と雲のシーン。
・三度、街中を歩く目線からの移動撮影。
・ラストシーン。実景による〈茜色の夕日〉。茜色に染まる東京の街並とその向こう側の山並、山々の稜線。


 このミュージックビデオで描かれる物語は、おそらく、志村正彦が構想したものだろう。東京と思われる住宅街の路を歩くことが語りの枠組となっている。志村正彦が演じるTシャツ姿の男性と白いノースリーブのワンピースを着た女性。男女の恋愛が背景にあるのだろうが、この二人は別々に登場し、一人ひとりである。絵葉書のようなものには〈手紙〉による言葉の伝達のモチーフがあるのだろう。

 丘の公園のような所からその向こう側に街並が広がる。最後は茜色に染まる東京の街並とその向こう側には山並とその稜線が見える。〈茜色の夕日〉の時間だから東京の西側にある山梨方面の山々のように思われる。つまり、東京の街並の光景とその向こう側にある故郷の風景を思い浮かべているのではないだろうか。

 このインディーズ版『茜色の夕日』MVは日中の撮影のためか、東京の〈星〉はないが、東京の〈空と雲〉は出てくる。志村が構想したと思われるこの映像は、第1ブロックのabと第4ブロックのcdにはつながりがあるのでユニットⅠとしてまとめることができるという仮説をある程度裏付けるものでもある。  

      

1a  茜色の夕日眺めてたら 少し思い出すものがありました
1b  晴れた心の日曜日の朝 誰もいない道 歩いたこと
4c  東京の空の星は見えないと聞かされていたけど
4d  見えないこともないんだな そんなことを思っていたんだ


 歌の主体は〈日曜日の朝〉に〈誰もいない道〉を歩いている。『茜色の夕日』全体を通じて、〈歩行〉が続いているようなリズムがある。逆に、立ち止まる、佇立する、休止のポイントもある。歩いて立ち止まる。立ち止まって歩き出す。そして、茜色の夕日となり、夕暮れから夜の闇へと至り、〈東京の空の星〉は〈見えないこともないんだな〉ということに気づく。〈晴れた〉〈日曜日の朝〉と〈見えないこともない〉〈東京の空の星〉という対比的なモチーフが現れる。

 さらに、インディーズ版ミュージックビデオのラストシーンに、志村の故郷である山梨方面の山並が出現することは、〈茜色の夕日眺めてたら 少し思い出すものがありました〉とされるものは、故郷での出来事であることをそれとなく示しているのかもしれない。 


 『茜色の夕日』が『アラカルト』収録曲としてリリースされてから二十年。インディーズ版MVの志村正彦は、いつまでも若く、在りつづけている。


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