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2013年11月17日日曜日

「レコード持って」-CD『フジファブリック』2 (志村正彦LN 57)

 前回、メジャー第1作CD『フジファブリック』がアナログ盤LPレコードとして発売されたらという「ないものねだり」の夢想を語った。
 とは言っても今、私自身、学生時代によく聴いていたLPレコードとプレーヤーは物置に置いてある。ほとんどCDで買い直してあるのだが、それでもやはり、LPを処分することはできない。いつだったか、20年ぶりくらいに、レコードを梱包した包みをほどいたことがあった。封印を解くかのように現れたLP盤、ジャケットのデザイン、絵や写真やロゴ、紙製であるゆえのやわらかい手触り、物質としてのレコードはとても強い記憶の喚起力を持っていて、私はすぐに学生の頃住んでいた東京のアパートの部屋にワープしていった。

 おそらく今よりももっと切実に音楽を聴いていた日々があった。十代から二十代の感性でしか出会えないような音楽がある。切実に向き合うという意味で。ロックはそのような経験の代名詞だ。現在の私はその経験の残滓を言葉で補填して、このようなエッセイを書いているにすぎない。(もちろん、言うまでもなく、どのような年代にでも、音楽は開かれている。ただし、ロックの場合、ある種の若さ、未熟さのようなものが出会いの契機となり、聴くことを深めていく。それは若者の特権でもある)

 『フジファブリック』収録曲に、『サボテンレコード』という、志村正彦でしか作りえないと断言できるような歌がある。彼の音楽的な素養が、狭義のロックを超えて、より豊かなものであったことを証明する楽曲だが、歌詞も、「ちょっとへんてこりんなのに、せつなく、いとしい」という、彼の独創的な歌の系譜に位置する作品だ。
 歌の主体は、「ならば全てを捨てて あなたを連れて行こう」と決意する。

  何も意味は無かったが ステレオのスウィッチ
  入れて 30年遡り かけた音楽
  それはボサノバだったり ジャズに変えては まったり
  リズム チキチキドン チキチキドンドコ


 音楽は時間を遡る。「何も意味は無かったが」、それはかけがえのないものだ。「チキチキドン チキチキドンドコ」のリズムにのって、人を大切な時へと瞬間移動させる「タイムマシーン」だ。
 だから、「全てを捨てて」も音楽を捨て去ることはできない。「今夜 荷物まとめて」、「サボテン持って レコード持って」旅立つことになる。花を咲かせることのあるサボテン。アナログ盤にまちがいないレコード。志村正彦らしいアイテムだ。
 

 今、アナログ盤をめぐる状況はどうか気になったので、ネットで調べてみた。RO69がNMEと提携しているニュース(2013.10.18)に、「英アナログ盤が過去10年で最大のセールスに」と題した記事が掲載されていた。(http://ro69.jp/news/detail/90762
 すでに昨年比100パーセント以上の売上増となり、アルバム全体のシェアでも0.8パーセントとなってるそうだ。イギリス・レコード産業協会(BPI)代表ジェフ・テイラー氏の言葉が紹介されている。

 アナログ盤について私たちは今その復活を目撃しているわけで、もはやレトロ好きのものではなくなり、音楽ファンにとってますます一つの選択として注目されてきているのです。今もマーケット全体に占めるシェアは小さいものですが、大抵はMP3のダウンロード・コードも付録としてついてきているアナログ盤レコードの、特に12インチというサイズのジャケットに施されたアートワークやライナーノーツ、またその独特なサウンドの魅力を新しい世代のリスナーが発見していて、それに伴って売上は急速に伸びています。

 やはり、ジャケットのアートワーク、ライナーノーツ、独特なサウンド、という三つの魅力が指摘されている。それに加えて大抵はMP3のダウンロード・コードが付いているのは初めて知ったが、こういうアイディアにはとても感心した。つまり、コレクションアイテム、愛蔵品としてはアナログ盤、デジタル音源としてはMP3、両者の良さを合わせ持った「ハイブリッド」的な商品作りをしている。その観点からすると、コンパクトディスクはデジタル音源の記録媒体としての意味合いしかなくなり、魅力のうすい中途半端なものとなるだろう。
 このような商品の場合、コスト増は否めないが、パッケージメディアがこれからも商品として存続するためには、このような試みも必要だ。試行錯誤が今後も続くのだろう。

 志村日記(『東京、音楽、ロックンロール 完全版』[ロッキング・オン])の2006年3月8日の記述「でかけた」にはこうある。 

で、昨日は片寄さん夫婦宅にお邪魔しました。譲ってもらうレコードプレーヤーを取りにいったんですが、色んな話をしました。

ビートルズのオリジナル盤も聴かせてもらいました。PUNKでした。宝の山でした。片寄さんもオタクど真ん中です。俺も欲しい盤あるから気合い入れてレコード屋へ足を運ぼうかなと。

 片寄明人・ショコラ夫妻にも感化されて、志村正彦のレコード愛も高まっていったようだ。彼が一番、フジファブリックのCDのアナログ盤を欲しがっていたのかもしれない。この日の日記を読んで、そんなことをしきりに想う。
  (この項続く)

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