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2013年11月10日日曜日

ないものねだりの空想-CD『フジファブリック』1 (志村正彦LN 56)

 9年前の今日、2004年11月10日に、フジファブリックのメジャーデビュー作『フジファブリック』がEMIジャパンから発売された。すでに、インディーズでの2枚のCD『アラカルト』『アラモード』、それらの楽曲を再録音したプレデビューCD『アラモルト』の3枚の「アラ~」アルバムが発表されていたが、この日は、メジャーという世界にアルバムデビューした記念すべき日だ。今朝から繰り返し聴き、思い浮かんできた様々なことを、数回に分けて書き連ねたい。

 コンパクトディスクを手に取る。柴宮夏希さんと志村正彦自身によるジャケットのデザイン。フジファブリックのメンバー5人が溶け出すような不思議な絵と七色の虹のような線が独特の印象をもたらす。歌詞のブックレット、内側にスタジオでのメンバーの写真。その部屋のモチーフがデザインされ、CDの表面にモノクロでプリントされている。クレジットのSPECIAL THANK の冒頭には、オリジナルメンバーだった渡辺隆之の名。志村正彦の彼に対する想いが伝わる。

 そのうち、このCDがLPレコードのアナログ盤として発売されていたらどうだったのか、というあるはずもない想像をして遊ぶことになった。「ないものねだり」の空想だ。
  柴宮さんのイラストはもっと大きな面の方が栄える。虹色の7本のラインもすっと延びて、見開きの裏側には、全10曲の歌詞が並んで、志村正彦の詩的世界が広がる。こんなジャケットであれば、部屋の一角に立てかけておくか、フレームに入れて壁に飾るか、色々と工夫ができる。

 私たちのような、70年代前半のLPレコードのジャケットの黄金時代に、ロックのアルバムを聴き始めた世代にとって、80年代以降のCDへのメディア変更による、30センチ四方の紙製ジャケットという「キャンパス」の喪失は何よりも残念なことであった。特に、70年代前半の英国ロックのジャケットは、極東の島国に住む若者たちにとって何よりも、ポップな「アート」を感じさせるものだった。(長い時間にわたるが、CDが売れなくなってきたのは、このようなアートが失われてしまったからだという気もしている)

 いつもはPCに接続した小さなスピーカーで聴きながら原稿を書いているが、今日は「ステレオのスウィッチ入れて」、ヴォリュームを上げ、大音量で鳴らした。
 ロックだ。あたりまえのことかもしれないが、ものすごく「ロック」を感じる。それも70年代前半の「ニューロック」(懐かしい言葉だ)と呼ばれていた時代の音の感触に近い。「ニューロック」をバンド名で象徴するのなら、レッド・ツェッペリンになるだろうか。歌詞と楽曲が、言葉とサウンドが、それ以前の時代の「ロック」や「ロックンロール」より、はるかに高度に美しく結びついたのが「ニューロック」だった。

 音源そのものも、デジタルっぽくないというかアナログのような感じがする。加工しすぎていない、素のサウンド、素のうねりのようなリズムを活かしている。プロデューサーの片寄明人は「僕は少なくともこの1stアルバムまではメンバーの音だけで、しかもアナログな音で創り上げるべきだと強く思っていた」と書いている(『フジファブリック4』(片寄明人 公式Facebook、https://www.facebook.com/katayose.akito/notes)。 『FAB BOOK』にもメンバーによる同様の証言があるが、このねらいは充分に実現されている。ロンドンのアビーロードスタジオで、スティーヴ・ルークによるマスタリングが施されたことも大きいのだろう。

 LPレコードであれば、当然、A面とB面という構成になる。全10曲だから5曲ずつになるだろう。

  A面
   1.桜の季節
   2.TAIFU 
   3.陽炎 
   4.追ってけ追ってけ
   5.打上げ花火 
  B面
   1.TOKYO MIDNIGHT
   2.花
   3.サボテンレコード
   4.赤黄色の金木犀
   5.夜汽車

 想像の世界で、LPをターンテーブルに置く。A面、表面は、『桜の季節』という「始まり」の季節、『陽炎』という「追憶」の季節、志村正彦にしか表現しえないような春・夏盤のモチーフ、「TAIFU」「追ってけ追ってけ」のユニークなリズムと言葉の感覚、「打上げ花火」のプログレッシブ・ロック風味の展開というように、「クラッシック・ロック」の王道を踏みしめると共に、「類い希な日本語ロック」の道を歩み始めている。

 LPをひっくり返す。B面は、裏面らしく、「TOKYO MIDNIGHT」から「夜汽車」へと、A面最後の「打上げ花火」から続く「夜」の時間が底流にある。「花」「サボテンレコード」「赤黄色の金木犀」という流れ、花や植物という志村正彦の愛したモチーフが続く三つの作品。季節は秋へと移り、「夜汽車」で帰路につくように静かに終わっていく。A面の「動」と「昼」、B面の「静」と「夜」という対比も、仮想の聴き手は感じとるだろう。そして、この音源には黒いビニールのLPレコード盤がしっくりくるような気がしないだろうか。

 ここまで書いてくると、『フジファブリック』のアナログLPを現実に欲しくなってくる。「ないものねだり」の欲望だと思われるかもしれないが、もうすぐbloodthirsty butchersの「kocorono」が限定1000セットで初のアナログLPになって発売される。5月に急逝した吉村秀樹(孤高の優れた歌い手であり詩人である。かつて志村正彦も一緒に小さなツアーをしたことがある)の長年の希望だったようだ。このような追悼の形は音楽家への敬意があふれている。

 来年は、フジファブリックのメジャーデビュー10周年となる。志村正彦在籍時のフジファブリックを新たに見つめ直す良い契機となる。収録済みだが未発売のライブの音源・映像などがまだいくつかあると思われる。フジファブリックのファンはそのような音源・映像を今まで「ないものねだり」してきたのだが、少しでもいいから、「ないもの」が「あるもの」になりますようにと、願わずにはいられない。
  (この項続く)

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