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2016年12月18日日曜日

『Biko』Peter Gabriel-ビコ生誕70周年

 今朝、「google」のトップ画面には、シャツ姿のアフリカ系人の男性が何かを見つめている姿があった。誰だろうか。気になった。


 イラストにポイントをあてると「スティーヴ・ビコ生誕70周年」と表示される。ビコだったのか。クリックすると検索画面に変わり、「スティーヴ・ビコ 生年月日1946年12月18日」とあった。今日はビコが生まれて70年目となる日だった。「google」は時に良い仕事をする。

 スティーヴン・バントゥー・ビコ (Stephen Bantu "Steve" Biko)は南アフリカの反アパルトヘイト活動家だ。「黒人意識運動(Black Consciousness Movement)」の代表として活動していたが、1977年9月12日、拷問をうけ死去した。30歳の若さだった。

 1980年発表のPeter Gabriel(ピーター・ゲイブリエル)ソロアルバム3作目『Peter Gabriel』(彼のソロは1作目から4作目まではすべて『Peter Gabriel』としか記されていない。当時彼は雑誌のタイトルのようなものだと述べていた。ジャケット写真からファンの間では『Melt』とも呼ばれている)のB面最後の曲が、『biko』だった。当時の日本ではスティーヴ・ビコはほとんど知られていなかった。少なくとも僕はそうだった。多くのロックファンと同様にこの歌によってビコの存在を知った。

 洋楽の中では今に至るまで、Peter Gabrielは僕にとって唯一無二の存在だ。Genesisというバンドで彼は、物語や神話のモチーフを活かした歌詞、奇妙な仮面や衣装をまとった演劇的なステージなど、アバンギャルドなロックを創造した。ソロになってさらに、深い内省の力、鋭い批評性やユーモアも加わった。そのような彼が社会の現実に向き合い、問題を告発する歌を作り世界に広めようとしたことに、驚きと共に深い感動を覚えた。80年代の前半、一番多く聴いていたのはこのアルバムだった。

 『Biko』は発表以来、彼のコンサートの最後で必ず歌われるようになった。1994年3月、PeterGabriel 「Secret World Tour」ライブが日本武道館で開催された。(今に至るまで、彼の単独来日ライブはこのツアー1回だけだ)僕にとっては文字通りの「夢」のライブだったのだが、この時もアンコールの最後でこの歌が力強く歌われた。

 「Peter Gabriel VEVO」に「Amnesty International」のコンサート映像がある(時と場は1990年チリのようだ)。記者会見の映像もあり、コメントも聞ける。四十歳になった彼は地元の音楽家やStingと共演し、繊細にして強い意志が込められた声で歌っている。最後の観客の歓声に心を動かされる。



 歌詞を引用する。
 第二ブロックが印象深い。Peter Gabrielらしいvisionにあふれている。黒色と白色の世界を分断する線が赤く染まっている。歌の主体「僕」はそのような色彩の夢を見る。「僕」は、そして僕らは夢から覚めるのだろうか。
 分かりやすい英語だが、拙訳を付したい。

 September '77
 Port Elizabeth weather fine
 It was business as usual
 In police room 619
 Oh Biko, Biko, because Biko
 Oh Biko, Biko, because Biko
 Yihla Moja, Yihla Moja
 The man is dead
 The man is dead

 When I try to sleep at night
 I can only dream in red
 The outside world is black and white
 With only one colour dead
 Oh Biko, Biko, because Biko
 Oh Biko, Biko, because Biko
 Yihla Moja, Yihla Moja
 The man is dead
 The man is dead

 You can blow out a candle
 But you can't blow out a fire
 Once the flames begin to catch
 The wind will blow it higher
 Oh Biko, Biko, because Biko
 Yihla Moja, Yihla Moja
 The man is dead
 The man is dead
 And the eyes of the world are watching now, watching now

 1977年9月
 ポート・エリザベス快晴
 いつもの仕事だった
 619号取調室で
 ビコ、ビコはビコゆえに
  Yihla Moja
 その男は死んだ

 夜眠ろうとすると
 僕は赤色の夢だけを見る
 外の世界は黒色と白色で
 一つの色だけが死んでいて
 ビコ、ビコはビコゆえに
  Yihla Moja
 その男は死んだ

 ろうそくを消すことはできる
 だが火を吹き消すことはできない
 一度炎が燃えはじめると
 風が炎を高く舞いあげる
 ビコ、ビコはビコゆえに
  Yihla Moja
 その男は死んだ
 そして、世界の目が今見つめている


 Bob Dylanのノーベル賞受賞によって、彼の初期のプロテストソングが注目を浴びているが、Peter Gabrielの 『Biko』も非常に優れたそして影響力を持つプロテストソングだ。従来とは異なる形の差別や貧困という「分断」が「世界」に広がる今日、「世界」の眼差しを問いかけるこの歌の存在は大きい。

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