ページ

2024年11月22日金曜日

Genesis『The Lamb Lies Down on Broadway』の半世紀

 50年前の1974年11月22日、Genesisの『The Lamb Lies Down on Broadway』というダブルアルバムがリリースされた。半世紀の時間が流れたことになる。

 日本での発売は翌年1975年2月、邦題は『幻惑のブロードウェイ』だった。すでにジェネシスのファンだった僕は甲府のレコード屋「サンリン」で購入した。それ以来、このアルバムは僕の愛聴盤となった。愛聴盤というよりも次第に絶対的な音盤、存在となっていた。

 2枚のLPレコードに全23曲が収録され、ジャケットのインナースリーブはピーター・ガブリエルが書いた物語が載っていた。ジャンルとしてはロック・オペラになるだろう。物語の主人公はニューヨークのプエルトリコ人「Raelレエル」。歌詞と物語は、おそらくピーター・ガブリエルが実際に見た夢(夢というよりほとんど悪夢なのだが)を基にして、様々な文学作品や宗教・神話のテクストを織り交ぜて書き上げられていったと推測される。「Rael」という名はもちろん「Real現実」の綴りを変えたもの。10曲目の「Carpet Crawlers」の歌詞の一節に「We've got to get in to get out 外に出るためには中に入らなくてはならない」とあるように、レエルは自らの無意識の内部に入り込み、最終的には再び、現実という外部へと出て行く。

 youtubeの「Genesis」公式サイトにこのアルバムの全曲がある。冒頭曲、「The Lamb Lies Down On Broadway (Official Audio)」を紹介したい。




 ピーター・ガブリエルは、「Rael」から「Real」への旅の物語を歌った。このアルバムを聴いた当時、その物語の意味はあまり分からなかったのだが、ピーター・ガブリエルの声、歌、囁き、叫び、歌詞や物語の断片、言葉の韻やリズムから、それこそ幻惑のようにしてこのロック・オペラを繰り返し聴いた。微かに物語の断片が浮かんできた。

 1974年の当時、ピーター・ガブリエルは、妻や家庭のこと、バンドメンバーとの軋轢などで精神的に行き詰まり、フロイトやユングなどの精神分析の本をよく読んでいたそうだ。その苦難の痕跡がこの作品に現れている。ダブルアルバムだからというわけでもないのだろうが、物語には「Rael」の兄「John」も登場し、「Rael」と「John」とは分身、二重身、ダブルの関係でもある。分身は精神分析が探求したテーマだ。


 今振り返ると、このダブルアルバムから僕は決定的な影響を受けたようだ。ロック音楽そして文学へと深く入り込んでいった。ここ数年、芥川龍之介や志賀直哉の夢をモチーフとする作品を分析する論文を書いていることも、このアルバムとの出会いが重要な契機になっているのかもしれない。


0 件のコメント:

コメントを投稿