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2022年9月25日日曜日

語りの構造-『茜色の夕日』4[志村正彦LN316]

 『茜色の夕日』には独特の揺らぎがある。独自のリズムがある。歌詞にも独特の揺れのようなものがあり、その言葉の世界はたどりにくい。たどりにくいと言っても難解なわけではない。曲を聴き終わったときに、やるせないような余韻が残る。かと言っても、歌詞の言葉に戻ると、そこには依然として、謎としての余白が残る。

  志村正彦の歌には、現在時から、現在と近い過去の出来事を語っていくものが少なくない。しかし、それだけでなく、過去や遠い過去の出来事に対する回想が加わる。そこからさらに、もう一度、現在時に戻り、心の中の呟きを会話体で表現するフレーズが入り込む。『茜色の夕日』はそのような枠組の原点と言える。

 今回の考察は私の仮説の提示である。作者志村のモチーフを想像しながら、一つの仮説としての構造を示したい。その図示を試みる。  


 まずはじめに、第1~4ブロック全体を再度引用する。

1a  茜色の夕日眺めてたら 少し思い出すものがありました
1b  晴れた心の日曜日の朝 誰もいない道 歩いたこと
1c
1d

2a  茜色の夕日眺めてたら 少し思い出すものがありました
2b  君がただ横で笑っていたことや どうしようもない 悲しいこと
2c  君のその小さな目から大粒の涙が溢れてきたんだ
2d  忘れることは出来ないな そんなことを思っていたんだ

3a  茜色の夕日眺めてたら 少し思い出すものがありました
3b  短い夏が終わったのに今、子供の頃の寂しさがない
3c  君に伝えた情熱は呆れるほど情けないもので
3d  笑うのをこらえているよ 後で少し虚しくなった

4a
4b
4c  東京の空の星は見えないと聞かされていたけど
4d  見えないこともないんだな そんなことを思っていたんだ

5e  僕じゃきっと出来ないな
5e  本音を言うことも出来ないな
5e  無責任でいいな ラララ そんなことを思ってしまった


 この第1~4ブロックを次のように再構成する。

ユニットⅠ 第1ブロック+第4ブロック

ユニットⅡ 第2ブロック

ユニットⅢ 第3ブロック

ユニットⅣ 第5ブロック


 第1ブロックは、回想の叙述から始まるが、現在の出来事の語りでもある。LN313で述べたように、ここに第4ブロックを接続することで、ユニットⅠというまとまりを形成できる。

 ユニットⅡとユニットⅢは純然たる回想の語りであり、部分的に現在の想いが入り込む。Ⅰが全体の枠組を作り、その中にⅡとⅢが入り込む。ユニットⅣは、ⅠⅡⅢの枠組の外側にあり、現在時の歌の主体の〈僕〉の心の中の呟きが会話体で表現されている。この語りの構造を図示してみよう。




 この構造図は、志村正彦による出来事の語り、回想の叙述、心の中の呟きの関係を視覚化したものである。
 次回から、ユニットごとにその構造とモチーフを詳細に分析していきたい。

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