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2022年5月8日日曜日

「若者のすべて」-上白石萌音『こえうた』『関ジャム 完全燃SHOW』『MOUSA1』[志村正彦LN306]

 昨夜、5月7日の夜10時55分から、NHK総合テレビの番組「こえうた」で、上白石萌音が、志村正彦作詞作曲の「若者のすべて」を歌った。

 「こえうた」は、若い世代から募集した「わたしの推し曲」をもとに構成した新たな音楽番組。事前に、上白石が「『若者のすべて』、高校生の時から大好きです。素晴らしいアレンジに『すべて』を乗せて、福岡からお届けします!」と述べていたので、楽しみにしていた。ここ数年の活躍はめざましい。特に、テレビドラマ『ホクサイと飯さえあれば』(毎日放送)での演技が良かった。料理を作る楽しさや味わう喜びを上手に演じていた。

 「若者のすべて」が紹介された際に、志村正彦・フジファブリックのMVが少し流れた。画面には、「「若者のすべて」を上白石萌音が歌いつなぐ」「2007年に発表されて以降多くのアーティストがカバー。今年音楽の教科書にも記載され世代を超えて愛される」というテロップも表示された。

 この番組は生放送で、「若者のすべて」は福岡からの中継だった。しかも番組のトリだったので、聴く側にも臨場感が生まれる。無事に歌い終わってほしいという、緊張感のようなものもあった。

 2番の歌詞が省略された3分ほどの短縮版。フルコーラスで無かったのが残念だった。地上波の生放送という制約上、仕方がなかったのかもしれない。ピアノ、ハープ、ヴァイオリン2本、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの6人編成によるアコースティックヴァージョン。アレンジは河野圭。プロデューサー、作曲家、編曲家、キーボーディストとして豊富な実績のある方だ。

  上白石萌音の声は透明感がある。女優らしい表現力もある。身体から言葉が溢れ出てくるように歌っていた。特に、「ないかな ないよな きっとね いないよな/会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ」のフレーズ。この歌は、〈まぶたを閉じる・開ける〉というモチーフが全篇に貫かれている。上白石は、まぶたの動かし方、その表情の変化によって、この歌の言葉の世界を伝えていた。

 ミュージカルの経験が豊かなので、あたかも、ミュージカル「若者のすべて」のクライマックスシーンのようにも感じた。(志村正彦の作品によるミュージカルというアイディアはどうだろか。主演はもちろん上白石萌音。「茜色の夕日」から「若者のすべて」へと続いていく一人の若者の物語。そんなことを空想した)

 NHK MUSICのtwitterで、本番間近の“声”が紹介されていた。上白石は次のように述べていた。

フジファブリックさんの「若者のすべて」歌わせていただくんですけど、 当時若い頃聴いていらしたという方もいらっしゃれば今もなお聴き続けられている名曲だと思います。

ほんとうに言葉が素晴らしいですし、歌えば歌うほど名曲だなと思うので、大切に尊敬の気持ちを込めて、届くように歌わせていただきます。


  「ほんとうに言葉が素晴らしい」こと、「大切に尊敬の気持ちを込めて、届くように」歌うこと。上白石萌音は、志村正彦の言葉を深く理解し、尊敬している。なによりも「届くように」歌うことは、志村の歌に対する根本的な在り方でもあった。この番組はNHKプラスで5/14(土) 午後11:40 まで配信中である。


 一昨日の5月6日、テレビ朝日「関ジャム 完全燃SHOW」の特番「関ジャムJ-POP史 最強平成ソングベスト30!!」で、「若者のすべて」が4位になった。平均年齢25.8歳の若手人気アーティスト48名に一斉アンケ―トを実施した結果だ。この番組の放送を見ることはできなかったのだが、GYAO!で配信されていることを知った(5月13日(金)まで)。ありがたい。早速視聴した。

 「若者のすべて」は「根強い支持を得る 伝説的ロックバンド代表曲 バンドF」として紹介された。「若者のすべて('07) フジファブリック 作詞作曲 志村正彦」というテロップのもとにミュージックビデオが流された。その間に、若手アーティストのコメントが添えられていた。その言葉を引用したい。

   

  • 私の青春の一曲です。  kiki vivi lily(シンガーソングライター)
  • いつ聴いても胸を締めつけられる    PORIN(Awesome City Club)
  • 日本人なら誰もが共感してしまうような歌詞の情景、世界観   baratti(Nagie Lane)
  • 高校生の時にCDショップで流れていてあまりにも自分の心情とリンクしていて思わず立ち止まった     秋山黄色(シンガーソングライター)
  • 体験したわけじゃないのにタイムスリップした気持ちになれる     やまもとひかる(ベース&ボーカル)
  • あまりフォーカスされない、夏も終わり特有の侘しさをまるで独り言を言うように歌詞や歌で表現されています。その等身大なニュアンスに共感を覚えます。サビ前のギターフレーズからのピアノの掛け上がりがとてもドラマチック。  PORIN(Awesome City Club)
  • 夏が終わっていく夕暮れや街灯の灯りがつく時間の空気などを切実に感じられる。全詩がパンチラインなのがたまらない。    くじら(ボカロP)


 若手アーティストのコメントは、当然といえば当然だが、的確にこの作品の本質を捉えている。何よりも、この歌に対する愛が感じられる。「若者のすべて」は歌というものの本質に立ち戻らせる力がある。この時代、想いを歌うという本源が失われがちだ。だからこそ、若手アーティストのなかの鋭敏な歌い手たちは「若者のすべて」という2007年の作品を新鮮な驚きと共に見出した。この歌は、現在の音楽シーンに決定的な影響を与えている。さらに、これからの音楽シーンにも。この半世紀に及ぶ〈日本語ロック〉の最高の到達点であるのだから。歌い手の想いの深さと伝える力、卓越した言葉の表現と楽曲の構成の技術がこの歌にはあるのだが、そんなことを誇示することもなく、つつましく、さりげなく、存在している。そのたたずまいが「若者のすべて」である。


 ゴールデンウィーク中に、その他の番組でも「若者のすべて」が取り上げられたようだ。この4月から、高校音楽Ⅰの教材として採用されたのも、大きな流れでは、この評価の高まりと連動しているのだろう。

 その教科書、教育芸術社の『MOUSA1』を入手できた。教科書はだれでも購入できる。近くの教科書取次店で注文すればよい。私も甲府市内の取次店で取り寄せた。想像していた以上に、沢山の楽譜が掲載されていたが、「若者のすべて」は、初めの方のP.16・17に見開き2頁で掲載されていた。やはり、この教科書の「押し曲」なのだろう。嬉しく、誇らしいのだが、教科書の頁に志村正彦の名があるのは、どこか不思議な感じもする。


 音楽教科書掲載、最強平成ソング4位、そしてNHK総合テレビの生放送と、この歌の評価は高まるばかりだ。〈「運命」なんて便利なもので〉語ることは慎むべきかもしれないが、この歌の運命に想いを巡らせてしまう。「若者のすべて」は、自らの運命に向かって、2007年のリリースから〈そっと歩き出して〉いった、というように。

 すでに15年間の歩みがある。2022年、志村正彦の「若者のすべて」は、人々に聴き継がれ、歌い継がれ、愛されていく。



2 件のコメント:

  1. 遡ってずっと読ませて頂いています。
    素晴らしい考察をいつもありがとうございます。
    何より、志村くんへの深い理解と愛情を感じて嬉しく存じます。

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  2. コメント、ありがとうございます。志村さんの歌についてこのブログに書いてきましたが、十年近く経っても、語り尽くせない魅力があります。それはなにか、なぜなのか、と考えて、いつのまにかまた、歩き出しています。

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