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2021年8月18日水曜日

フルート音の叙情性-「浮雲」2 [志村正彦LN286]

 志村正彦・渡辺隆之・田所幸子の3人のメンバーは「浮雲」について、新宿ロフトrooftopの〈【復刻インタビュー】フジファブリック(2002年10月号)-歌心を大切にした注目のバンドがついに単独作をリリース!〉で次のように語っている。(text:mai kouno/coa graphics)


──なるほど。『浮雲』で特に感じたのですが、言葉ののせ方や選び方がとても独特で面白いですね。
志村:あぁ、すごい嬉しいです。演奏の雰囲気が大体決まってから、イメージにそった歌詞を考えているんですが、リズムにのった歌詞を作ろうと心がけています。例えばすごく静かな所では、小さい「つ」を使わないでわりと平べったく聴かせようとか。「浮雲」は曲が昔っぽいイメージだったので、想像していたら自然に古風な言葉が湧き出てきた感じですね。
──全体の曲の雰囲気も、今現在にはなかなかない感じだと思ったのですが。
渡辺:意図はしていないですよ(笑)。
田所:やっぱりみんな、昔の音楽が好きだったりするから、それが自然と音に出ているんじゃないかなぁ。
志村:昔の音が好きというか、今の音楽を知らないだけで(笑)。

 

 志村は、 「浮雲」は〈昔っぽいイメージ〉の曲に〈古風な言葉〉が自然に湧き出てきたと述べている。この楽曲にはフルート(のような)音が入っているが、クレジットにはその演奏者が記されていない。キーボード奏者によるシンセサイザー音源かもしれない。間奏からエンディングに向けて、志村の声とギターの音とフルートの音が複雑に絡み合うところが非常に印象的である。息を吹き込んで空気を振動させて出すフルートの音は人の声との親和性が高い。そして、フルートの音には独特の叙情性がある。「浮雲」の孤独な詩的情緒をフルートの持つ叙情的な音がやわらかく響かせている。

 一般的にはフルートの入ったロックというと、イアン・アンダーソンIan Anderson のジェスロ・タル  Jethro Tull が挙げられるだろうが、プログレッシヴ・ロックの中では、ピーター・ゲイブリエル在籍時のジェネシスGenesis がまず思い浮かぶ。洋楽の中での僕の最愛のバンドである。ピーター・ゲイブリエルはフルートを使って、独創的な楽曲を創っていた。

  youtubeで、ピーター・ゲイブリエルがフルートを演奏している映像を探したところ、次の貴重な映像が見つかった。1972年3月、ベルギーのテレビ番組「Pop Shop」の収録。この時期の編成は次の五人。

ピーター・ゲイブリエル Peter Gabriel   (leadvocals/flute/tambourine)
マイク・ラザフォード Mike Rutherford  (keyboards and rhythm guitar)
トニー・バンクス Tony Banks   (Keyboards)
スティーヴ・ハケットSteve Hackett    (lead guitar)
フィル・コリンズ Phil Collins    (drums and backing vocals)

 演奏曲は「The Fountain Of Salmacis」「Twilight Alehouse」「The Musical Box」「The Return Of The Giant Hogweed」。3曲目「The Musical Box」の15:25あたりから1分間ほど、ピーターのフルート演奏がある。「The Musical Box」では、老人の仮面や狐の仮面を被ることが多いのだが、この映像では素顔のピーター・ゲイブリエルを見ることができるのが貴重である。「The Musical Box」の歌詞は多層的な意味合いを持つ。ピーター・ゲイブリエルはイギリスの孤高のロックの詩人でもある。



 志村正彦がピーター・ゲイブリエルの直接的な影響を受けているのではないだろうが、フルートを効果的に使ったプログレッシヴ・ロックという大きな枠組の中ではその影響の範囲内にいるとも考えられる。

 先の引用箇所でキーボードの田所は、〈やっぱりみんな、昔の音楽が好きだったりするから、それが自然と音に出ているんじゃないかなぁ〉と述べている。所謂第2期(2001年9月~2002年12月)のフジファブリック、Vo.Gt.志村正彦、Key.田所幸子、Dr.Cho.渡辺隆之の3人が、〈昔の音楽〉ロックの古典を研究したことが、「浮雲」をはじめとする1stミニアルバム 『アラカルト』の独創的な作品として結実していると言えるだろう。

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