ページ

2020年4月15日水曜日

HINTO『エネミー』[S/R003]

 前回のS/R[Songs to Remember]は、ポール・サイモンの『The Boxer』だったが、昨日たまたまNHKBSプレミアムで映画『卒業』[The Graduate](マイク・ニコルズ監督,1967)」が放送されたので、録画して鑑賞した。この映画はかなり前に見たことがあるが、今回の印象はそれとはまったく異なっていた。映画、音楽、文学の名作は、もう一度あるいは何度でも繰り返し見たり読んだり聞いたりすると、新たな発見がある。そのことを再確認させられた。
 サイモン&ガーファンクルのいくつかの名曲が場面場面で流される。でも曲自体は映画の展開とは独立している。歌と物語が分離されているのだ。『The Boxer』はなかなか複雑な作品であるが、S&Gの声はとても美しく響きわたっていた。

 S/R[Songs to Remember]第3回は、HINTOの『エネミー』ライブ映像。『The Boxer』からの連想というわけではないが、「敵」をモチーフとするこの傑作を紹介したい。

 この映像の収録は2014年9月23日の渋谷CLUB QUATTRO。これもたまたまだが、このライブに行っていた。ただひたすら凄い演奏だった。得がたい音の体験だった。 安部コウセイのボーカル・ギター、伊東真一のギター、安部光広のベース、菱谷昌弘のドラムス。僕にとっては、1980年新宿ロフトでのFRICTIONライブを凌駕する衝撃だった。

 この映像はそのライブを撮影した「official bootleg LIVE MOVIE」である。クレジットを見ると、ディレクターが須藤中也(m社 映像部)であることに初めて気づいた。あのフジファブリック『FAB BOX III』の映像の制作者である。あの日のライブの迫真性を忠実に捉えて、映像に見事に再現している。僕は会場の一番奥の方に立っていた。一番引いた映像を撮っているカメラのすぐ後ろだった。演奏後の静かな熱狂の余韻を示す観客の拍手のシーン。あの日の記憶を共有できる。

 『エネミー』の歌詞にある「敵」はある抽象としても一つの具象としても捉えることができるのだろう。見えるものも見えないものもある。そもそも敵であることが明らかなものも明らかでないものもある。

 安部コウセイ・HINTOは「敵の声を掻き消せ/歌声」と歌っている。「歌声」が「敵の声」を掻き消す。この歌の究極のvisionだ。安部のそしてHINTOの「歌声」がこの時代に突き刺さってくる。僕らの「歌声」にこだましてくる。


  HINTO 『エネミー』【official bootleg LIVE MOVIE】
  2014.09.23@渋谷CLUB QUATTRO 
  dir.須藤中也(m社 映像部)
  撮影.鈴木謙太郎(m社 映像部)/大石規湖/ 宮本杜朗




  HINTO  『エネミー』(作詞:安部コウセイ  作曲:HINTO)

       こんなモグラみたいな眼で見つめても
              地図がぼやけて読めるわないだろ

              こんなO脚の足で歩いても
              そこに辿り着ける筈がないだろ

              目をつぶって祈らないで
              救いなんて待たないで
              やがてそうして受けとめて
              決めたから
              決めたから

              こんな汗にまみれた手で掴んでも
              すぐにすべり落ちてしまうだけだろ

              耳すまして怯えないで
              許しなんてこわないで
              だからどうした?はね返して
              今からだ
              今から行く

              『奴の次はおまえさ』
              闇にまぎれ囁く
              どこへゆこうと同じさ
              敵の声を掻き消せ
              歌声

0 件のコメント:

コメントを投稿