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2021年7月18日日曜日

音のループ 「お月様のっぺらぼう」1 [志村正彦LN282]

 前回論じた「Anthem」は、「三日月さんが 逆さになってしまった」という月夜の情景のもとで「気がつけば 僕は一人だ」と、〈月〉と〈一人〉が組み合わされて歌われている。志村正彦の特に初期作品には、この〈月〉と〈一人〉の取り合わせが多い。

 「午前3時」の〈夜が明けるまで起きていようか/今宵満月 ああ/こんな夜、夢見たく無くて 午前三時ひとり外を見ていた〉、「浮雲」の〈登ろう いつもの丘に 満ちる欠ける月/僕は浮き雲の様 揺れる草の香り/独りで行くと決めたのだろう〉、そして「お月様のっぺらぼう」の〈俺、とうとう横になって ウトウトして/俺、今夜も一人旅をする!/あー ルナルナ お月様のっぺらぼう〉とある。月は〈満月〉〈満ちる欠ける月〉〈お月様のっぺらぼう〉、一人の方は〈ひとり外を見ていた〉〈独りで行く〉〈一人旅〉という違いがある。志村正彦にとって、〈月〉は〈一人〉であることと強く結びつく原光景である。

 今回は「お月様のっぺらぼう」を取り上げたい。2003年6月21日発売のフジファブリック2ndミニアルバム『アラモード』(Song-Crux)収録曲である。メンバーは、Vo.Gt. 志村正彦、Ba.Cho. 加藤慎一、Key.Cho. 金澤ダイスケ、Dr.Cho.渡辺隆之の四人。当時の貴重なインタビュー〈現時点で最高の音が詰まった2ndミニ・アルバム『アラモード』、遂にリリース!〉がロフトのサイトに残されている。「お月様のっぺらぼう」に言及した部分を抜き出す。


──では面白かったこと、楽しかったことは?
金沢 あ、初日に俺、熱を出したんだ。39度くらい。その朦朧とした中で録ったのが「お月様 のっぺらぼう」で、直ってから入れ替えようと思ったんですけど、どうやってもこの感じが出せなかったんで。
──今回の曲はいつ頃の?
志村 元々ある曲もあるけど、レコーディングがありますってことで…アレンジし直してアルバム用にしたいなと思ったのは「お月様 のっぺらぼう」ですね。コレは今回用に急ピッチで(笑)。
渡辺 これはどんどん変わっていきましたね。
──一言ずつ曲のコメントをお願いします。
■お月様 のっぺらぼう
加藤 これは割とスペーシーな。ループな感じなんですけど。生ループが醍醐味です。
志村 あと、これはコーラスを頑張りましたね。


 愉快なコメントだ。「お月様 のっぺらぼう」は〈アレンジし直してアルバム用に〉〈急ピッチで〉(志村)作られて、〈どんどん変わって〉(渡辺)いったそうである。〈スペーシーな。ループな感じ〉(加藤)のサウンドを39度の発熱による〈朦朧とした中で録った〉(金沢)テイクが素晴らしい出来映えだったようだ。確かに、コンピュータではない〈生〉の楽器演奏による独特のループ感とグルーブ感がある。

 「お月様 のっぺらぼう」は、歌詞、楽曲、演奏、どれも水準が高い。インディーズ時代の『アラカルト』『アラモード』のなかでも最も独創的な作品であろう。特に、志村の作曲家としての才能を感じさせる。類似したサウンドが思い浮かばないのだが、記憶をたどってあえて書くのであれば、イギリスのソフト・マシーン(Soft Machine)を想起した。ジャズ・ロック、サイケデリック・ロック、ミニマル・ミュージックというようなノンジャンル的な楽曲の雰囲気である。ミニマルなフレーズが反復され拡大されていくソフト・マシーンのサウンドを繰り返し聴いていた時期がある。1973年の『7』(Seven)が僕の愛聴盤だった。

 「お月様のっぺらぼう」は「午前3時」(『アラカルト』)「消えるな太陽」(『アラモード』)と共に、メジャーデビュー後に再録音されていない。初期の月をモチーフとする3曲中の2曲の音源のリテイクがない。ただし、「お月様のっぺらぼう」のライブ映像は、2003年12月31日新宿LOFT(『FAB MOVIES LIVE映像集』DVD『FAB BOX』)、2006年12月25日渋谷公会堂(『Live at 渋谷公会堂』DVD)、2009年9/29(火)~10/23(金)全10公演(『Official Bootleg Movies of "デビュー5周年ツアー GoGoGoGoGoooood!!!!!'』DVD)の三つのDVDに収録されている。5周年ツアーでは、志村が「じゃあ次もめったにやらない曲」と話してから、演奏が始まった。この3枚のDVDによって、ちょうど三年ごとの演奏の変化を知ることができる。     

      (この項続く)


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