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2017年3月12日日曜日

『シングルB面集 2004-2009』[志村正彦LN152]

 『ルーティーン』収録のアルバム、『シングルB面集 2004-2009』は、『FAB BOX』という完全生産限定BOXセット [DVD2枚+CD3枚]の中の一枚としてリリースされた。この『FAB BOX』はオリジナルの2010年版(2010/06/30)もその復刻版の2014年版(2014/10/15)も現在では入手できない。ネットでは新品の在庫品にしろ中古品にしろかなりの高額で取引されている。ペアとなるA面シングル集の『SINGLES 2004-2009』の方は現在でも入手可能のようだが、こちらの方も初回生産限定盤(2014年にその復刻版も出た)、期間限定盤(スペシャル・プライス)などのエディションがあった。

 完全限定版はプレミアム感もあり、既存のファン向けの商品の性格が強い。完売してしまえばそれまでで、新しくファンになった者にとっては理不尽なリリースの形だ。『シングルB面集 2004-2009』は配信のデジタル音源では入手可能だが、「もの」としてのアルバムを欲しい人は少なくないだろう。志村ファンであれば永久保存の音盤を手に入れたいはずだ。このB面集が通常版でリリースされることを強く望む。あるいは、A面シングル集とB面シングル集を合わせたコンプリートシングル集のCD2枚組アルバムを新たに企画するのはどうだろうか。ミニ詩集のような装丁の歌詞カードが付けば素晴らしい。スペシャル・プライスの廉価版であればさらに良いのだが。

 あらためて『シングルB面集 2004-2009』の収録曲を列挙してみよう。

1. 桜並木、二つの傘
2. NAGISA にて
3. 虫の祭り
4. 黒服の人
5. ダンス2000
6. 蜃気楼
7. ムーンライト
8. 東京炎上
9. Day Dripper
10. スパイダーとバレリーナ (作詞:志村正彦・作曲:山内総一郎)
11. Cheese Burger (作詞:志村正彦・作曲:山内総一郎)
12. セレナーデ
13. 熊の惑星 (作詞:志村正彦・作曲:加藤慎一)
14. ルーティーン

*(  )内の付記がないものはすべて、作詞・作曲:志村正彦。


 『桜並木、二つの傘』『NAGISAにて』『虫の祭り』『黒服の人』は春夏秋冬の歌、もうひとつの「四季盤」でもある。『桜の季節』『陽炎』『赤黄色の金木犀』『銀河』というオリジナルの四季盤とは異なる季節感が流れている。B面集の四季盤の方がリアルな生活や時間の感覚にあふれている。
 さらに、『ダンス2000』『蜃気楼』をはじめ、A面からは零れ落ちてしまうような不思議な世界が描かれている。『Cheese Burger』『熊の惑星』もユニークだ。終わりに近い『セレナーデ』と終わりの曲『ルーティーン』の二つは別格の存在感を持つ。B面集の中のさらなるB面のような深い味わいがある。誰にも作ることのできない歌という意味合いでは、B面集の方が志村正彦・フジファブリックらしいアルバムだと言えるかもしれない。

 最後にジャケット写真を見てみよう。




 ご覧の通り、「fujifabric」や「SINGLES2004-2009」のフォントが逆さまになっている。『SINGLES 2004-2009』のジャケットが裏返ったようなデザインが施されていて、なかなか洒落ている。シングルのA面集とB面集とが鏡像のような関係になり、互いが互いを照らし合わしている。
 もともとアナログレコード盤の時代、レコードを裏返すことが聴くことのアクセントになっていた。A面からB面に裏返す行為そのものが、音楽を聴くことの重要な何かと結び付いていた。それが何かと問われても答えるのは難しいが、表から裏へと返す、その束の間の時、その狭間の時が何か大切な一時だった。いったん音楽が終わり、静寂が訪れることが必要だったような気もする。

 シングルカットされるからにはA面曲はヒットを志向しなければならない。B面曲はそのような制約から自由であり、ある種の冒険や実験を行うこともできた。不可思議な存在感があった。CDの時代になると、B面曲ではなくカップリング曲と呼ばれるようになったが、「B」と「カップリング」という言葉の隔たりは意外に大きいのではないだろうか。BにはBにしかない存在価値がある。
 『シングルB面集 2004-2009』の作品にはそこはかとなく、アナログレコード盤の時代のB面曲の面影がある。

 

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