公演名称

〈太宰治「新樹の言葉」と「走れメロス」 講座・朗読・芝居の会〉の申込

公演概要

日時:2025年11月3日(月、文化の日)開場13:30 開演14:00 終演予定 15:30/会場:こうふ亀屋座 (甲府市丸の内1丁目11-5)/主催:甲府 文と芸の会/料金 無料/要 事前申込・先着90名/内容:第Ⅰ部 講座・朗読 「新樹の言葉」と「走れメロス」講師 小林一之(山梨英和大学特任教授)朗読 エイコ、第Ⅱ部 独り芝居 「走れメロス」俳優 有馬眞胤(劇団四季出身、蜷川幸雄演出作品に20年間参加、一篇の小説を全て覚えて演じます)・下座(三味線)エイコ

申込方法

右下の〈申込フォーム〉から一回につき一名お申し込みできます。記入欄の三つの枠に、 ①名前欄に〈氏名〉②メール欄に〈電子メールアドレス〉③メッセージ欄に〈11月3日公演〉とそれぞれ記入して、送信ボタンをクリックしてください。三つの枠のすべてに記入しないと送信できません(その他、ご要望やご質問がある場合はメッセージ欄にご記入ください)。申し込み後3日以内に受付完了のメールを送信します(3日経ってもこちらからの返信がない場合は、再度、申込フォームの「メッセージ欄」にその旨を書いて送ってください)。 *〈申込フォーム〉での申し込みができない場合やメールアドレスをお持ちでない場合は、チラシ画像に記載の番号へ電話でお申し込みください。 *申込者の皆様のメールアドレスは、本公演に関する事務連絡およびご案内目的のみに利用いたします。本目的以外の用途での利用は一切いたしません。

2023年11月5日日曜日

『虫の祭り』の音と声 [志村正彦LN339]

 十月末、「山梨学」の授業の一環として学生三〇人と一緒に、富士吉田のハタオリマチフェスティヴァルに行ってきた。例年より人も増えて、かなりの賑わいを見せていた。 

 公式サイトを見て、このフェスが秋祭りだということを初めて知った。秋祭りは収穫を祝う祭り。秋と祭りという組合せが、志村正彦・フジファブリックの「虫の祭り」を想い出させた。


 フジファブリック『虫の祭り』(作詞・作曲:志村正彦)は、2004年9月29日、3枚目シングル『赤黄色の金木犀』のB面曲・カップリング曲としてリリースされた。四季盤〈秋〉のB面曲として位置づけられる。歌詞の全文を引用しよう。

  

どうしてなのか なんだか今日は
部屋の外にいる虫の音が
祭りの様に賑やかで皮肉のようだ

その場凌ぎの言葉のせいで
身動き出来なくなってしまった
祭りの様に過ぎ去った 記憶の中で

「あなたは一人で出来るから」と残されたこの部屋の
揺れるカーテンの隙間からは入り込む虫達の声

どうしてなのか なんだか今日は
部屋の外にいる虫の音が
花火の様に鮮やかに聞こえてくるよ

にじんで 揺れて 跳ねて 結んで 開いて
閉じて 消えて

「あなたは一人で居られるから」と残されたこの部屋の
揺れるカーテンの隙間からは入り込む虫達の声

 

 歌の主体は〈どうしてなのか なんだか今日は〉と問いかける。志村正彦の歌詞によく見られる問いの形だ。〈虫の音〉が部屋の外から聞こえてくる。部屋の中にいる歌の主体はその音を〈祭り〉のように賑やかに感じ、〈皮肉〉のように受けとめる。〈皮肉〉は、遠まわしの非難のようなものか、思いどおりにならないことの喩えなのか。どちらにしろ、この〈虫の音〉に、いくぶんか引き裂かれるような想いを抱いている。

 季節は秋。〈虫の音〉が聞こえてくる時期。秋祭りとの関連で〈祭り〉のようだと感じたのかもしれない。

 〈その場凌ぎの言葉のせいで/身動き出来なくなってしまった〉と、言葉をめぐる想いが語られる。〈祭りの様に過ぎ去った 記憶の中で〉とあるので、記憶の中にある言葉なのだろう。

 誰かが〈「あなたは一人で出来るから」〉と歌の主体に話しかけた言葉は、遠く、遠くから、過ぎ去った過去から聞こえてくる。続く〈と残されたこの部屋の〉という表現は、その誰かの言葉が記憶に残されたこと、歌の主体が一人でその部屋に取り残されたこと、その二つの意味が重ね合わされている。〈揺れるカーテンの隙間〉とあり、部屋の窓は開け放されている。そこから入り込む〈虫達の声〉と〈あなた〉と語りかける記憶の中の声が混ざり合う。

 歌詞の二番では、〈虫の音〉は〈花火〉のように鮮やかに聞こえる。この〈花火〉もまた歌の主体にとっての大切な記憶に関わるものだろう。そして、誰かの語りかけは〈「あなたは一人で居られるから」〉となる。〈一人で居られる〉の方が〈一人で出来る〉よりも強い意味を持つ。この〈一人で居られる〉は〈二人で居る〉と対比される表現だ。おそらく、〈あなた〉と語りかける人と語りかけられる人との別離という意味が込められている。

 A面曲『赤黄色の金木犀』でも、〈もしも 過ぎ去りしあなたに/全て 伝えられるのならば/それは 叶えられないとしても/心の中 準備をしていた〉〈期待外れな程/感傷的にはなりきれず/目を閉じるたびに/あの日の言葉が消えてゆく〉という言葉をめぐるモチーフが歌われている。歌の主体は〈あなた〉という二人称を使っている。B面曲 『虫の祭り』では、歌の主体は〈あなた〉と呼びかけられている。この関係性が興味深い。


 〈「あなたは一人で出来るから」〉と〈「あなたは一人で居られるから」〉という二つの言葉は、鉤括弧の引用符で囲まれている。志村正彦の全歌詞の中でも、誰かの具体的な発話が引用されているのはこの歌だけである。

 おそらく、この二つの言葉は、作者の志村正彦が実際に聞いて、受けとめたリアルな言葉ではないだろうか。非常に現実感のある言葉だ。根拠はないのだが、その言葉が記憶に残されたことも、一人でその部屋に取り残されたことも、志村の実体験のような気がする。

 

 歌詞の言葉を形式的に分析しても、この歌の抒情の魅力を伝えることができない。

 志村の言葉が〈にじんで 揺れて 跳ねて 結んで 開いて/閉じて 消えて〉いく。その後で一分ほど続くアウトロのコーラスが、限りなく切なく、限りなく儚い。

 志村正彦の歌の世界では、言葉になるものと言葉にならないものとが限りなく滲んでいく。 


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