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2022年7月3日日曜日

歌詞研究と専門ゼミナール(2)[志村正彦LN309]

 この六月、私が担当する3年次専門ゼミナールで、〈志村正彦の世界1・2・3〉と題して、3回連続で志村の作品に関するゼミを集中的に行った。前回に引き続き、これについて書いてみたい。


 〈志村正彦の世界 1〉では、〈『茜色の夕日』から 『若者のすべて』への歩み〉というテーマで、山梨学Ⅰで話した内容(「志村正彦LN307」で言及したもの)をより丁寧に、歌詞の具体的分析をまじえて説明した。事前に、学生には対象作品の映像音源(FujifabricVEVO等)を聴き、歌詞を読んで、事前提出文を書いてもらい、それをもとにグループで議論した。その後、私が作成したスライド資料で歌詞分析の要点を説いた。最後に学生に授業の振り返り文を書いてもらい、ゼミ仲間で共有した。ゼミであるから当然ではあるが、学生中心に運営している。この準備の過程で、「茜色の夕日」の物語の展開についての新しい考えが浮かんできたので、それについてはこのブログで後日書きたい。


 〈志村正彦の世界 2〉では、〈四季盤、花に関する歌〉をテーマにして、四季盤の『桜の季節』『陽炎』『赤黄色の金木犀』『銀河』をあらためて取り上げた。今回、四季盤の歌に関して、〈四季全体をメタ視点から描写する歌の主体〉について考えたので、その概要をSLIDEで示した。後日、この点についてもブログで書いてみたい。


 花に関する歌では、『花』『花屋の娘』『ムーンライト』『蜃気楼』『ペダル』『ないものねだり』を取り上げた。四季盤の「桜」や「金木犀」のような名前の知られた花、季節感と結びついた花ではなく、たまたま見た花、名も知らないような花である。以下に記す。

 つぼみ開こうか迷う花 『花』
 野に咲く花 『花屋の娘』
 鮮やかな花 『蜃気楼』
 花 『ムーンライト』
 咲いている花 『ペダル』
 路地裏で咲いていた花 『ないものねだり』

  ほとんどの学生はこれらの花の歌を聴いたことがなかったので、新しい発見があったようだ。意外にもというか当然だというべきか、『花屋の娘』が男子学生に好評だった。「妄想が更に膨らんで 二人でちょっと/公園に行ってみたんです」「そのうち消えてしまった そのあの娘は/野に咲く花の様」という展開が新鮮だったそうだ。


 〈志村正彦の世界 3〉では、下記の四つのテーマのもとに、〈志村正彦でしか表現できないような世界〉に関する歌を集めた。

 試みの歌    :『サボテンレコード』『Sufer King』
 「眠りの森」の歌:『夜汽車』『セレナーデ』
 2009年の歌    :『バウムクーヘン』『タイムマシーン』
 往路と帰路の歌 :『浮雲』『ルーティーン』

 この回については、ブログの次回で書く予定である


 また、各回の中で、〈歌詞分析の方法〉についても説明していった。〈歌詞分析の方法〉といっても、私がこのブログで志村正彦の作品を分析した方法をまとめたものである。日本語ロックの歌詞についての分析方法がアカデミズムで確立されているわけではない。私の方法も基本的に文学研究の方法を歌詞に適用したものである。さらに言えば、70年代のロック批評の方法にも影響されている。以下に、SLIDEで示した方法名を記す。


  1.   《作者》《話者》《人物》の分離
  2.    語りの枠組の分析
  3.    品詞(自立語:名詞・形容詞・動詞)による分析
  4.    品詞(付属語:助動詞・助詞)による分析
  5.  和語・漢語・外来語の語彙による差異
  6.    歌詞の展開・起承転結abcd
  7.    時間の観点(過去・現在・未来)
  8.    言語文化的主題(例、桜の文化史)
  9.    テーマ・モチーフの横断的把握
  10.    メタ視点による構造化(例、3人の「僕」)
  11.    音の反復(擬音語など)
  12.    音源による変遷


 私の方法は志村正彦の作品によって鍛えられた、というのが最も正確な言い方になる。既成の方法によって作品を分析したというよりも、志村正彦の作品の一つひとつを分析するために、その都度、適切な方法を適用したり考え出したりしていった。要するに、歌詞そのものが歌詞分析の方法を作り出すのだ。

    (この項続く)


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