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2019年7月7日日曜日

7月6日『FAB BOX III 上映會』[志村正彦LN224]

 昨日7月6日、フジファブリック志村正彦没後10年『FAB BOX III 上映會』を見てきた。午後3時近くに僕と妻の二人は会場に到着。富士吉田市民会館に来るのも2014年4月の『live at 富士五湖文化センター上映會』以来だ。

 ほんの少しだけ雨が煙っている。富士山は残念だが姿を現さない。
 会場「ふじさんホール」の収容数は800人、午前と午後の二回上映ということは今日ここに1600人の志村正彦・フジファブリックを愛する人々が集う。これはやはり特筆すべきことだ。列に並んでいる人々を眺める。志村の同世代のファンが多いが、20代前後の若者たちもいる。そして意外というべきか、男性も少なくはない。

 会場の入り口には大きなポスターがスタンドにかけられていた。




 さっそく同時開催の「路地裏の僕たち」企画の『志村正彦展』に並ぶ長い列に加わったのだが、開始時間に間に合いそうもない。列から離れ、先行発売されていた新装版『志村正彦全詩集』を購入。薄青色の装丁になり手に取った感触もいい。新しい読者を獲得していくことだろう。

 会場に入った。前方に新倉山浅間講演から見た富士山の緞帳が広がる。ほぼ定刻通り、今村圭介ディレクター(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)の前説から上映會が始まった。DVDの総収録時間は430分、つまり7時間10分で偶然志村正彦の誕生日と同じ数字になったという話に感心した。今村氏の仕事のおかげで『FAB BOX Ⅲ 』そしてこれまでの『Ⅰ』も『Ⅱ』も存在している。

 あの大地讃頌のコーラスがしばらく流れてから幕が上がり映像がスタート。まず2004年のデビューから2009年までの歴史が振り返られる。中では『CHRONICLE』録音地ストックホルムのインタビュー映像が興味深かった。「スウェーデンレコーディングの未収録オフショット映像」から編集したものだろう。これまで公開されていない発言もあり、『FAB BOX III 』を入手してから丁寧に追っていきたい。

 演奏シーンではいくつか興味深いことがあった。
 「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2005 in EZO」のリハーサルシーンと本番での『茜色の夕日』が素晴らしかった。2005年の志村の声はとても伸びやかで透明感もあり力強い。
 5周年ツアー時の『桜の季節』は歌詞の一部(坂の下 手を振り 別れを告げる/車は消えて行く そして追いかけていく/諦め立ち尽くす 心に決めたよ)が歌われなかった。なぜだろうか。歌詞の流れからするとこの箇所は必要がないかもしれない。かねてからそう考えていたのでこの改変には納得できたのだが、どういう意図からそうしたのかという関心を持った。

 最近このブログで書いている『同じ月』の演奏全篇が上映された。志村が「僕が歌うためだけに生まれてくれた曲」「自分で言ってしまうけど、最高だ。」と述べた曲だ。CD音源よりこのライブ映像の方がこの曲の魅力は増す。やや自分を突き放しているようなユーモアがあり、独特のゆるやかさで歌われていた。
 全体として志村の笑顔のシーンが多く含まれ、明るい激しい曲調の作品中心の構成だった。彼の足跡をたどり、2009年の映像に向き合うことが悲しくならないようにという配慮があったのだろう。

 一番心に刻まれたのは『雨のマーチ』。梅雨の季節、曇り時々小雨模様の日ということもあってか、昨日は特にこの曲が心に染み込んだ。


  ぽつりぽつりぽつりと ほろりほろりほろりと

  雨が降ったよ しとしと降ってたよ
  僕を通り過ぎて遠くにいった人
  時が経ったよ 戻れなくなっちゃったよ
  おあいこにしたり戻したり


 書き写していると、歌詞と楽曲の基調ともなる雨の風景が浮かび上がる。「時が経ったよ 戻れなくなっちゃったよ」という時間の感触が哀切に響く。「おあいこにしたり戻したり」といういくぶん無邪気でそして謎めいた表現が志村らしい。

 まだ半日しか経っていない上映會の印象を断片的に綴ってみた。『FAB BOX III』を視聴してから、気がついたり感じたりしたことをふたたび書いてみたい。

 終了後、「路地裏の僕たち」による『志村正彦展』を見ることができた。時間がなかったので駆け足だった。僕が関わった2014年『ロックの詩人志村正彦展』や2011年志村展で掲示した説明文も展示されていた。ありがたかった。
 今回おそらく初めて展示されたもの、これまで見たことのない写真のパネルもあり、とても充実した展示会だった。楽器類、服装や帽子も綺麗に並べられていた。準備や展示自体にかなりの時間がかかっただろう。僕たちファン一人ひとりにとってほんとうに貴重な機会となった。
 出口で、8月5日河口湖湖上祭「路地裏の僕たち」による花火打ち上げのための協力金を入れた。湖上祭ではどんな花火が打ち上げられるのだろか。『若者のすべて』が会場に響くのだろうか。楽しみである。
 そして久しぶりにお会いできた方々の元気な姿がうれしかった。

 最後に最も印象に残った志村正彦の言葉について記したい。
 2時間ほどの上映のラスト、映像の背後にかぶさる形で志村の言葉が場内に広がっていた。

  闘っている。

 という意味の言葉だった(と聞こえた。あるいは闘っていくだったかもしれないが。『FAB BOX III』で確認したい)

 志村正彦は何に対して闘っているのか。闘ってきたのか。闘おうとしているのか。
 音楽か、自分自身か、それとも世界か。
 ありふれた言葉をそこに入れてもしかたない。何と闘っているのか分からないこともある。分からないのだが、何かと闘っているという確信がある。そういうことかもしれない。あるいは闘っているという実感が自らの活動を支えることもある。自らの動力になることもある。

 そんなことを考えて甲府への帰路についた。

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