リーガルリリー。ここ数年で聴いたバンドのなかで最も気に入っている。今日、こういうロックが存在していることへの驚きとともに。
 たかはし ほのか(ボーカル・ギター)、海(ベース)、ゆきやま(ドラムス)の三人編成。ただし、ゆきやまはこの3月に脱退。これからはサポートドラムを入れて活動するようだ。
 出会いは、はっぴいえんど「風をあつめて」のカバー曲を探したときだった。2021年の映画『うみべの女の子』(監督:ウエダアツシ、原作:浅野いにお)の挿入曲として、「風をあつめて」をカバーしたのがリーガルリリーだった。ミュージックビデオには歌詞がテロップで映されてゆく。映画の映像が断片的に流れるシーンに、たかはしほのかが「それで ぼくも/風をあつめて 風をあつめて/蒼空を翔けたいんです/蒼空を」を歌うシーンが織り交ぜられ、最後は「風をあつめて」をめぐる主役二人の会話のシーンで閉じられる。秀逸な出来映えのMVだった。「風をあつめて」の歌詞の世界と映画の物語とは重ならないのだが、たかはしの声による「風をあつめて/蒼空を翔けたいんです」のフレーズが入れ小型の役割を担って、若者たちの風をあつめて青空を駆けたいという欲望をさりげなく支えているようにも聞こえてくる。映像を添えたい。
リーガルリリー『風をあつめて』×映画『うみべの女の子』Collaboration Music Video
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 リーガルリリーの映像や音源はyoutubeにアップされている。どの作品も歌詞、楽曲、演奏ともに高い質を持っている。なかでも、「1997」はきわめて優れている。まだまだ日本語ロックには可能性が残っている。そんなことを感じさせられた。MVを添付して、歌詞も引用したい。 
リーガルリリー   『1997』Music Video
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「1997」詞・曲:たかはしほのか 
〈降り立った東京 1997年の12月〉というのは、作者たかはしほのかの誕生を示すのだろう。そして誕生は〈なくなった空白 1997年の12月〉というように、ある空白をなくすことにつながる。誕生した〈私〉は〈私の世界の実験台〉であり、〈降り立った世界〉で持つものは〈片道切符〉でしかない。このような生存の感覚はかなり独自なものである。特異なものといってもよい。この特異なもの。かけがえのないもの。
 イントロのベース、ギター、ドラムス。すべて遠くから〈降り立った〉ように響いてくる。何かが始まる予兆のような音群。言葉としての声が聞こえてくる。〈実験台〉のロックだ。
 実はこの「1997」の誕生には、志村正彦・フジファブリックの「若者のすべて」が関わっている。「spice」のインタビュー で〈この曲のインスピレーションはどこから生まれたんですか?〉という問いに対して、たかはしはこう語っている。
アルバムの曲を作っている時、一番最後に生まれた曲なんです。スタジオで個人練習に入った時に……その時は夏が終わりそうだったので自分のためにフジファブリックの「若者のすべて」を一人で弾き語りしてたんですよ。そこで生まれた、なんか気持ち悪くて気持ちいいギターがあって。そのギターフレーズから2番のAメロのギターが生まれて、別の日にスタジオに持って行ったらすぐにこの曲が完成したんです。 
  このようなプロセスで曲が生まれることは珍しいのだろうが、「若者のすべて」が「1997」に作用したのは現実だ。
 「1997」も、今この時代に生きる若者たちのすべてを語っているようにも聞こえてくる。リーガルリリーの生存の感覚が今日的である。