2019年は志村正彦・フジファブリックにとって特別な年だったので、例年以上に集中して様々な事柄を追ってきた。年を越えてしまったが、今回は音楽雑誌『ミュージック・マガジン』について書きたい。
去年2019年は、1969年4月創刊の雑誌『ミュージック・マガジン』の創刊50周年の年だった。2019年4月号は、特別付録として創刊号を復刻して同封した。久保太郎編集長は「『ミュージック・マガジン』は、創刊50周年を迎えました」という巻頭言でこう述べている。
洋楽、とりわけロックを単なるエンターテイメントではなく、人々の意識を変え、社会変革をもたらすものと捉え、その音楽の紹介のみならず、批評のスタイルまでを文化として導入し、確立しようということが創刊の目的でした。その姿勢は、今回復刻した創刊号に色濃く表れていますし、後にロックだけでなく世界の様々なポピュラー・ミュージックや邦楽に批評の対象を広げても、本誌が一貫して持ち続けてきたものです。
僕が読み始めたのは1974年頃だった。編集長の言葉にある通り、ロックは「人々の意識を変え、社会変革をもたらすもの」という意識が読者にもあった。当時は洋楽のロックが中心で、時代が経つにつれてワールドミュージックや邦楽も取り上げるようになった。以前も書いたが、僕にとって『ミュージック・マガジン』(『ニューミュージック・マガジン』の時代だが)は主に、浜野サトルの批評を読む媒体として位置づけられていた。
4月号の復刻に続いて、『創刊50周年記念復刻 Part 1 ニューミュージック・マガジン1969年5月号~8月号』『創刊50周年記念復刻 Part 2 ニューミュージック・マガジン1969年9月号~12月号』の復刻版も出された。
5年ほど前、古書市場で1970年から2012年までの500冊ほどのセットを運良く購入できた。その後も空白の号を買い集め、現在は定期購読している。創刊年の1969年は数冊だけ持っていなかったが、今回の復刻版を含めると50年間のすべての号が揃ったことになる。この雑誌は比較的部数も多かったので古書の価格もそんなに高くないのが幸いだった。この雑誌は日本におけるロックの受容の歴史を語る上で必読の資料である。(日本文学の教員として、雑誌全号のコレクションの大切さを痛感している。インターネット以前の時代の資料は雑誌などの「物」としてあり、「物」として収集保管していかなければならないが、これがけっこう大変である。)
2019年4月号の本編には、特集として「創刊50周年記念ランキング~2020年代への視点(3)~50年の邦楽アルバム・ベスト100」が掲載されている。あくまで「50年の邦楽」あり、ロック、ラップ、電子音楽、アイドルまで「ポップス」の枠に括られる全てが対象となった。50人の選者が各々50枚のベストアルバムを選出して集計した結果、1位から10位までは下記の通りである。
1. はっぴいえんど『風街ろまん』
2. シュガー・ベイブ『SONGS』
3. 大滝詠一『ロング・バケイション』
4. ゆらゆら帝国『空洞です』
5. イエロー・マジック・オーケストラ『ソリッド・ステイト・サバイバー』
6. フィッシュマンズ『空中キャンプ』
7. ザ・ブルー・ハーツ『THE BLUE HEARTS』
8. 細野晴臣『HOSONO HOUSE』
9. 荒井由実『ひこうき雲』
10. サディスティック・ミカ・バンド『黒船』
リストは100位ではなく200位まで掲載されていたが、フジファブリックは一つも入っていなかった。50人の選者の各々のリストも載っていたので探してみると、志田歩氏の43位にフジファブリック『フジファブリック』、高岡洋詞氏の46位にフジファブリック『フジファブリック』、山口智男氏の19位にフジファブリック『TEENAGER』が挙げられていた。志田氏はこの雑誌でフジファブリックの記事を書いたこともあり、作品を高く評価していた。高岡氏と山口氏はおそらく若いライターだと思われる。この三人の見識によって3枚がリストアップされた。
50人が50枚、合計2500枚のうちの3枚である。2500枚といってもかなりの重複があり、50年の間には膨大な数のアルバムがリリースされたことを考慮すると、3枚入っていたのは喜ぶべきなのだろう、と書きたいところだが、これは多いに不満であり疑問である。志村正彦・フジファブリックのアルバムに対する正当な評価があまりにも少ないのは、現在の音楽ジャーナリズム(そんなものがまだあるとして)の視野の狭さのせいであろう。
10位までのリストに示されているように、いわゆる「はっぴいえんど史観」、細野晴臣やYMOを中心とする評価軸が強すぎるようだ。音楽は所詮「好み」の問題であるが、音楽ジャーナリズムの評価としてあまりに偏りすぎている。また、ジャックス『ジャックスの世界』がまったく入らなかったのは、この作品が1968年リリースで対象外だったからなのだろうが、少なくともこのアルバムが入るように1968年を起点にできなかったのか。(「はっぴいえんど史観」を徹底するために1968年を除外したとも考えられるが、まあこれは勘ぐりすぎだろう)
年初なので僕も10枚を選ぶことにした。よく聴いたアルバムを選んだだけのきわめて個人的なリストである。ただし、起点は1968年にして、順位は付けずにリリース順に記した。
ジャックス『ジャックスの世界』1968年9月
荒井由実『ひこうき雲』1973年11月
四人囃子『一触即発』1974年6月
RCサクセション『シングル・マン』1976年4月
PANTA & HAL『マラッカ』1979年3月
フリクション『FRICTION(軋轢)』1980年4月
ムーンライダーズ『青空百景』1982年9月
THE BOOM『サイレンのおひさま』1989年12月
早川義夫『この世で一番キレイなもの』1994年10月
フジファブリック『フジファブリック』2004年11月
荒井由実『ひこうき雲』1973年11月
四人囃子『一触即発』1974年6月
RCサクセション『シングル・マン』1976年4月
PANTA & HAL『マラッカ』1979年3月
フリクション『FRICTION(軋轢)』1980年4月
ムーンライダーズ『青空百景』1982年9月
THE BOOM『サイレンのおひさま』1989年12月
早川義夫『この世で一番キレイなもの』1994年10月
フジファブリック『フジファブリック』2004年11月
リアルタイムで聴いたのは四人囃子『一触即発』以降である。『ジャックスの世界』と『ひこうき雲』は70年代後半に出会った。フジファブリックは『アラカルト』から『CHRONICLE』までの全アルバムを挙げたいくらいだが、メジャー1作目に代表させた。
並べてみると「ロックの歌」「ロックの詩」が好きなのだとあらためて気づく。個々のアルバムについて触れる余裕はないが、いつかこのblogで書いてみたい。
1968年の『ジャックスの世界』から2004年の『フジファブリック』まで36年の歳月を必要とした。早川義夫・ジャックスが日本語ロックの創始者であり、志村正彦・フジファブリックが日本語ロックの可能性を極めたというのが僕にとっての歴史である。
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