2016年4月23日土曜日
「往年のロックかけ」[志村正彦LN124]
往年のロックかけ ハットのリズムで どこでも行け
(フジファブリック『TAIFU』、作詞作曲・志村正彦)
このところ、僕にとっての「往年のロック」、1970年代のロックのライブ盤を聴いている。Mountain『Twin Peaks』(異邦の薫り)[1973年・大阪厚生年金会館]、Bob Dylan『武道館』(Bob Dylan at Budokan)[1978年、日本武道館]。どちらも実際に行ったライブ(収録時や会場は異なるが)で、70年代のロックとその場の雰囲気が真空パックのように詰め込まれている。(聞いているのは再発CD盤なので、本当は当時のLPレコードがいいのだろうが)
70年代のロックといっても、歌詞や楽曲そのもの、歌い方と奏法、音源のレコーディング方法やスタジオ、ライブの録音方法や会場など様々な要素が絡み合い、多様だ。それでも、時代的な共通性はある。音楽的技術的なことを説明できる力はないので、貧しい言葉で簡潔に印象を記すなら、声や音がのびやかにやわらかく広がっていく感じ、とでも言えばよいだろうか。電気楽器なのだけれど、アナログ的であり、音の波のゆれ、うねり、時に微妙なずれのようなものが伝わってくる。
僕は70年代のロックの音、デジタル音楽のように綺麗にコントロールされていない音を浴びるほど聴いていたので、音を受容する身体の感覚がそこで止まっているような気もする。誰にとっても、十代の頃に聞いた音楽がその人の音に対する身体感覚の基準になり、その後も支配され続ける。
MountainやBob Dylanから、フジファブリックのメジャー1stアルバム『フジファブリック』に掛けかえても、そんなに違和感がない。このアルバムには70年代的な味わいがある。浜野サトル氏は、「響き合い」(『毎日黄昏』)で次のように述べている。
『フジファブリック』を二度三度と繰り返し聴いていて――これは僕にはあまりないこと――、ある瞬間、不意にレッド・ツェッペリンを感じた。
2004年に作られたこのアルバムの時期、このバンドをリードしていたのは歌とギターを担当する志村正彦という青年で、レパートリーの大半も彼の作品だが、1980年生まれの彼が70年代バンドであるツェッペリンの音楽に親しんでいたかどうかは知らない。しかし、「TAIFU」という曲。燃える飛行船の装画が印象的だったツェッペリンの1枚目のアルバム冒頭の曲「Good Times Bad Times」が、疾走する音の奧から影のように浮かび上がるのが、僕にはきこえた。
浜野氏の慧眼のとおりで、志村は実際にレッド・ツェッペリンの影響を受けたことをインタビューで何度か話している。模倣で終わることなく、70年代前半のブリティッシュ・ロックを土台とする日本語の歌を彼は創り上げた。それだけではない。このアルバムの最後を飾る『夜汽車』はどうだろうか。70年代前半のフォークロックの雰囲気が濃厚だ。例えばDylanの『Planet Waves』(1973年、演奏はThe Band)の時代の音を思い出す。
志村正彦にとっての「往年のロック」とはやはり、彼の生まれる前の時代、70年代前半のロックが中心となるのだろう。
このアルバム『フジファブリック』がアナログレコードとなる。6月からデビュー12周年の記念として「FUJIFABRIC ON VINYL」と題し、全アルバムがアナログレコードとして発売されるという発表があった。以前に僕は「ないものねだりの空想」と題して、このレコード盤への夢を書いたことがある。
特に『フジファブリック』は一枚のアナログ盤で発売されるのが何よりも嬉しい。A面5曲、B面5曲の構成のようだ。裏返してB面へ、もう一度裏返してA面へ。あの時代にトリップするかのようだ。
それに比べて、2ndから4thの作品が2枚組になったのは収録時間のため(アナログ盤は45分が限度らしい)だろうが残念だ。アルバムごとの曲数と時間を並べてみる。どちらも次第に増えていったことが分かる。
1st 『フジファブリック』 10曲 45分
2nd 『FAB FOX』 12曲 52分
3rd 『TEENAGER』 13曲 56分
4th 『CHRONICLE』 15曲 70分
1st『フジファブリック』が10曲45分であるのは、まるで将来のアナログ盤化を想定していたかのようだ(もしかすると当時からその企画があったのかもしれないが)。
12周年記念で「ないものねだり」の夢が実現することになり、一人のファンとしてとても愉しみだ。大きなジャケットで柴宮夏希による表紙絵を見ることもできる。
『フジファブリック』のアナログレコードはさらに「往年のロック」70年代の雰囲気を醸し出すことだろう。往年のロックをかけてどこにでも行きたいものだ。
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