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2019年4月28日日曜日

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』(デビッド・バッティ監督)

  今月の始めに、『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』(デビッド・バッティ監督、原題 MY GENERATION)をいつものシアターセントラルBe館で見た。観客は僕と妻の二人。さすがに貸し切り状態の映画館は初めてだ。地元の映画ファン、音楽ファンよ、この素晴らしい映画館に愛の手を。

 予告編がyoutubeにあるので添付したい。





 イギリス1960年代のカルチャー「スウィンギング・ロンドン」を描いたドキュメンタリー映画。名優マイケル・ケインがプロデュースとプレゼンターを務め、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、モデルのツイッギー、ファッションデザイナーのマリー・クワントなどに6年がかりで50以上のインタビュー取材を行ったそうだ。ピーター・バラカンが日本語字幕監修を担当している。

 60年代のブリティッシュロックの成立期と共に、同時期のファッション、写真、映画、デザインの動向も伝えている。ポール・マッカートニーやジョン・レノンのアーカイブ映像では、「優等生」的ではないビートルズの側面が感じられるのがいい。あのマリアンヌ・フェイスフルがけっこう登場するのも楽しめた。(付言すれば61歳になった彼女の主演映画『やわらかい手』は愉快で厚みのある作品だ)

 60年代という10年間の出来事が90分にまとめられているが、「ひとつの事柄に90秒以上かけない」という編集方針があったそうで、非常に沢山の出来事が凝縮されている。転換に続く転換でそれが一種のリズムとなって、観客に作用していく。時代を解き明かすドキュメンタリーというよりも、時代の出来事を擬似的に経験させることを狙っているようだ。それでも、時代の背景にある問題は繰り返し突きつけている。一言でいうと、イギリスの階級問題のことだ。知識としては知っていても、具体的な出来事として登場人物から語られるとある種の実感として迫ってくる。60年代は、上流や中流の文化の壁を壊して、ワーキングクラス、労働者階級の文化がロンドンを制覇した。

 その点についてマイケル・ケインはこう語っている。

「すべてのベースになっていると思うし、人々はいまだに当時のカルチャーに惹かれていると思う。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、スウィンギング・ロンドン、みんなあの時代に生まれたものだ。ワーキングクラスを描いた本や映画なども。わたしたちが、いまの世界のベースを作ったとも言える。今日のコミュニケーション手段である、コンピューターや携帯はなかったけれど、そのかわりに対話があった。さまざまな人々がいろいろなところから集まってきて、そこからアイディアが生まれ、多くのことが起こった。とくにあの時代の大きな遺産の1つは、ポピュラーカルチャーを生み出したことだ。それ以前はカルチャーというものは、上流階級のものだった。でも60年代を境に、それはみんなのものになったんだ」

 「鮮やかな色が街に溢れた」というナレーションがあるように、人々の対話や交流を通じて、「みんなのもの」としてのカルチャーが街に溢れていった。その鮮やかな開花の過程をこの映画はリズミカルに追いかけていく。そしてその文化の花が「ドラッグ」問題を契機に急激に色あせていく経緯にも触れている。映画はここで終焉を迎える。
 だが僕たちは知っている。続く70年代に別の花々が開花していったことを。60年代とは異なる色合いで70年代も鮮やかに咲いていったことを。
 「MY GENERATION」の花は枯れることがなかった。70年代のイギリスの音楽を僕はリアルタイムで経験している。

 残念ながらこの映画の上演館はほんの少しになってしまったようだ。それにしても「ロンドンをぶっとばせ!」という副題は酷い。この副題をぶっとばしたいところだ。この作品には「ぶっとばせ!」などという分かりやすい物語があるわけではない。ブリティッシュビートに乗せて小さな出来事を描いていく「ドキュメンタリー」映画であるが、見終わると60年代という時代の感触が身に刻まれる。DVDや衛星放送などで見る機会があったら勧めたい。



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